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しろさきさんちのおにーさん。に。

 俺と妻が結婚したとき、家を改築して新婚夫婦で過ごせるようにした。妻は一般家庭の出なので使用人とかがうろつく家に慣れるのに時間がかかるだろうし、俺だって二人きりの甘い新婚生活を気兼ねなく過ごしたかったのだ。

 

 早朝から母屋に居座り、起きてきた両親に内密の話があると切り出した。

 弟に結婚したいほどの相手ができたということに両親は飛び上がるほど喜んだが、相手の年齢を聞いてひどく狼狽した。

 急きょ、その夜に家族会議を開かれることになった。


 そわそわして落ち着かない雰囲気の中、「遅れてごめんね」とやってきた弟は、ひどくご機嫌だった。

 ……肌艶が良いのは、普段から健康に気を使っているせいだよな?

 まさか…………いかん、集中しよう。


 弟がソファに腰かけたのを見て、父が口を開く。


「…あー、晃、恋人ができたと聞いたのだが……」


 弟の顔がパァッと明るくなった。


「そうなんだよ。兄さんから聞いたの?なんだか照れるな……」


 乙女のように恥じらう様子に、頬がひきつる。見れば父も母もぱっかり口を開けている。こんな弟は見たことが無い。いつも穏やかで優しいが、どこか冷静さを保っていた。喜色満面の弟なんて初めてだ。

 呆然とする俺たちに代わり、妻が口を出してくれた。


「そうなんですか、良かったですね。ところで、お相手の方は学生だとか……」


 ズバッと切り込んでくれた問題の部分に、しかし弟ははにかむように微笑んだ。


「そうなんですよ。今高校生なんです。少し年齢が離れていますが、とても素敵な子なんです」


 少し……か?

 俺の中で疑問符が沸き起こったが、その間も弟の口は止まらない。


「干支が同じなんです。ふふ……恥ずかしいなぁ……」


 あ、恥ずかしいという感覚があるのか、と安心しかけた。


「同じ辰年で、お揃いなんですよ!」


 口に手を当てて頬を染める弟の背後に、なんかピンク色の色気の幻想が見えた気がした。

 違う。違うだろう、弟よ。干支がお揃いで嬉しいことってあんまり無いぞ。前向きすぎる。

 

 どうにか正気に戻った父が、相手のお嬢さんの年齢から、節度あるお付き合いが必要なんじゃないかと釘をさす。

 弟は背筋を伸ばし、キリっとした真剣な表情で父の言葉に頷いた。


「はい。明日にでもあちらのご両親から結婚の許しを得ようかと思います」


 違うっ!!


 「責任は取ります!!」じゃない!!

 ……せきにんをとるようなことをすでにしたのか……という声が頭の片隅に響いたが、気づかなかったことにする。


 とりあえず弟の暴走を止めるべく、家族全員で説得に当たった。学生のうちに結婚なんてかわいそうだ。周囲に何を言われるか。きちんと学生らしく勉学や友達との交流を優先させるべきだ。一番は相手の気持ちを第一に考えて、強引にことを進めてはいけない。等々……。

 

 籍が入れられないならせめて同棲したいとか、女子高に転入させたいとか呟く弟を全力で止める。


 なまじ頭も要領も良いうえ、突然突拍子もないことをするおそれがあるので、それはもう全力で止めた。してはいけないことを考えつく限り並べ立てた。

 「早く子ども欲しいんだけど」とか、聞こえない。聞こえないぞ。それは論外だ!!








 後日、弟の恋人だという子を紹介された。

 ごくごく普通のお嬢さんだった。


 弟が迷惑をかけていないかと尋ねると、少し困った表情で、


「ホストに貢いでいると噂されて学校から親に連絡がいったその日に晃さんが自宅を訪ねてきたので……」


 以前、晃が彼女の学校で待ち伏せをしたせいで、彼女はホストと交際しているという噂が校内を駆け巡り、回りまわって教師から親に連絡。

 どういうことか娘に詰問しようとしてたところ、件のホストと思わしき男と共に帰宅。

 普通に交際していますと説明しても動揺した親は信じてくれず、「(うち)には金はない!」と騒ぎ、ホストではないと証明するため名刺を渡せば「こんな子をからかうな!」「何が目的なの!」と騒ぎ………。


「それがちょっと大変でした」

「それは………申し訳ない………」


 普通の親ならそんな対応になるだろう。

 むしろ警察に通報されなくて良かった……。

 


「その……学校生活の方は、大丈夫なのかな…?」


 そんな噂がたったら、最悪イジメとかになるんじゃないだろうか。

 もしそうなら、転入先を用意しなくてはと思っていると、少女はにっこり微笑んだ。


「大丈夫です。晃さんとはきちんとお付き合いをしていると説明して、わかっていただきました」


 そうなのか。

 地味というか、おとなしそうな感じだから何を言われても恐縮して押し黙っていそうな外見なのに、意外だ。


 弟が心配そうな表情で彼女の手を握った。


「本当に大丈夫?辛かったらいつでも言ってね。永久就職させますから」

「就職先はよく考えてから決めます」


 にっこり微笑む彼女。

 その目が「あんたの家族の前で変なコト言うな」と言っているような気がする。あくまで気がするだけだが。

 「残念。でも気が変わったらいつでも言ってね」とあっさり引き下がる弟。


 弟の顔に見蕩れるわけでもなく、端から見ればふざけているのかと言われてもおかしくない弟の言動にも動じない。けれど、弟の言動をすべてからかいだと思っているようでもなさそうだ。


 案外、心配しなくてもいいのかもしれないなと思っていると、弟が一言。


「うーん…。俺と結婚したら、優良は兄貴のことを『お義兄さん』とか呼ぶんだぁ……。感慨深いけど………なんか、嫌だな」


 口は笑っているけれど、目が笑っていない。

 ちょ……どこまで嫉妬深いんだ!

 内心慌てていると、助け舟が彼女の口から飛び出した。

 


「それじゃ、葉さんとお名前で呼びましょうか?それとも、それは遠回しに結婚しないでおこうという意味ですか?」


 

 弟は泣きそうな表情になった。

 「お願いだから俺以外の男の名前を呼ばないでください。結婚は絶対したいです」と哀願する弟。

 それを「はいはい。おにいさんに謝りましょうね」と軽く受け流す彼女。

 素直に俺に謝ってくる弟。


 なんだか不思議なふたりだ。


 だけど、なんとなく安心した。







「良い子だな」


 彼女が帰ってから弟にそう言うと嬉しそうに破顔する。

 なんともいえない幸せな気分のまま、ちょっとばかり揶揄いたくなった。


「せめて18歳になるまで手を出すなよ?」


 まぁ、アラサーの男が16歳の女子高生に手を出すとか普通ないよな。

 まして、相手は遊んでいたりしなさそうな真面目な女の子だし。

 たとえ好きでも待つよなー。と思ったのに、


「……………ふふ?」


 整った綺麗な顔で、つくりものめいた笑顔を返された。


 ………そこは「当たり前だろ!」という回答が欲しかったんですケド。

 なんで疑問形で笑うの?

 え?

 もしかして、もうヤッちゃったの?

 だって交際してからまだそんなに日が経ってないよね?っていうか、何歳から犯罪だっけ? ……あれ、本当にどうだったっけ、あまりにも自分の身に関係ない話だからうろ覚えだ。どうしよう、混乱している。頭が回らない。

 それとも冗談?兄貴を揶揄ったのか?そう、だよね?

 ………まさか、本当にヤッちゃって……いやまさか、違う……よな。


 弟が去った後、妻に発見されるまで俺は死ぬほど悩み、弟を除く家族会議が密かに開かれることとなるのだった。






****




「ぐっ……!」

「あなた、どうしたの?」

「……今、ニュースで30代の男が女子高生といかがわしいことをして逮捕されたと……」

「それは金銭が絡むとか、同意がなかったりとかでしょう? 晃さんは大丈夫よ」

「そうだろうか……、本当にそうなんだろうか……。最近の弟の様子を見ていると本当に心配……うぅっ、胃が痛い……!」

「はいはい、考え過ぎですよ。胃薬飲みましょうね~」



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