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さん。

 

「俺は、城崎晃(しろさき こう)と言います。これから末永くよろしくお願いします。上谷優良(かみや ゆら)さん」


 本当はこのまま新居に連れ込みたかったのをムリヤリ押さえ込んだ。彼女を浚おうとする手が震える。

 だけど、彼女の話を聞いてしまったら、そんなことはできない。

 彼女の家族構成は、両親と彼女、弟の4人家族だという。

 ここで重要なのは両親だ。

 前の世界で、彼女には家族がいなかった。

 延々と続く転生の呪いの中、家族となったのは英雄(じぶん)のみ。……もしかすると、大神殿の神官や巫女たちのことも家族と思っていたかもしれない。


 そんな彼女が得た家族。

 その家族に、認められたい。

 何より。


 ――――――『お義父さん、娘さんを下さい!』をやりたい!!!


 この世界で生きるうちに様々な知識を得たが、その中でも心惹かれたのは、娘さんを下さいイベントだ。

 前の世界では決して叶わなかったそれを、きちんと、彼女の目の前でやり遂げたい!

 この際、多少殴られたって良い。彼女に手当してもらうし。

 誰からも孤立して二人っきりで過ごすのも良いが、この世界でそれは寂しいだろう。


 せっかく生まれ持った縁なのだ。

 善きものである限り大事にしたい。




 

 翌日は、仕事を切り上げて彼女の高校へ行く。門の前で待っていると、なんだか視線を感じるけれど気にしない。彼女を待つという行為に胸が高鳴る。

 帰宅する生徒がたくさんいる中、猛然と駆けてくる姿を見て笑みがこぼれた。

 俺に向かって走ってきてくれる姿……なんて貴重なんだ! 動画撮っておけばよかった。

 


「ちょっと!! こんなとこで何してんの!?」


 怒った顔も可愛い。

 

「迎えに来たんです。今日も可愛い。大好き。愛しています」


 心のままに言葉がするする出てきたら、目の前に真っ赤な表情の彼女が。


 ……なにこれ、可愛すぎる。こんな彼女を見たらだれでも好きになってしまう。

 サッと周囲を見れば、随分とこちらに視線を送る生徒が多い。その中でも男は要注意だ。

 こんなところで彼女の可愛い姿を晒してしまうとは……!

 己の失態に内心で舌打ちし、沸き起こる不安を笑顔で押し込め、彼女の手を取る。


「ここは目立つから、場所を変えましょう」


 何故かぐったりした表情の彼女は、それでも大人しくついてきてくれた。

 


「……あの、城崎さん……」

「晃と呼んでください。優良さん」

「…………こっちが年下なので、呼び捨てで良いです………」

「はい。わかりました。優良」


 助手席に座った彼女を見るのは実に感慨深い。

 彼女は小柄だ。化粧はしていないし、たぶん今日見た同じ高校の生徒の中でも幼く見えるだろう。この世界の常識から鑑みれば、美人でもないし目立つ容姿でもない。目立ってほしくないからそれでいい。


 その黒い瞳の奥に宿る理知的な光に気づく者はいるのだろうか。信じられないほどに優しい彼女を知る者がいるのだろうか。

 彼女に深く関われば関わるほど、彼女の傍にいられることの心地よさを知るだろう。


 いや、もしかしたらこの世界ではそれに気づく者は稀なのかもしれない。

 物も人も吐き捨てるほど溢れているこの世界では、そんな存在の希少性に気づくことなく目移りしていき、やがては本当に欲しいものが何だったのか見失ってしまうのだ。


 それでいい。

 彼女のすばらしさは、俺だけが知っていればいい。


 そんなことを考えていたら、彼女が口を開いた。


「……晃、さん…。学校まで来られるのは困るんだけど……」


 彼女がそう言い出すことはわかっていた。

 にっこりと微笑む。


「わかりました。では、どこかで待ち合わせするようにしましょう。もちろん勉強が一番ですから、優良の予定に合わせます」


 逡巡しつつも校門まで来られるよりはマシだろうと判断したのか彼女はこくりと頷く。

 そのまま彼女のことを聞き出す。

 都合の良い日、良い時間帯。好きな物。家族のこと。

 できれば休日はすべて会いたいというこちらの要望を伝えることも忘れない。

 それから、一番大事なことを。

 

 まっすぐに彼女を見つめる。

 

「上谷優良さん。――――――――俺と結婚を前提にお付き合いしてください」


 瞬間、大きく見開かれた彼女の表情が、次には複雑な感情が入り乱れたように歪んでいく。

 それは、泣き笑いのような、困ったような……。

 ずくりと心臓が痛む。



 優しい、労わるような光を湛えた黒い瞳に見つめられる。


「あなたは、もう、自由になって良いんだよ」


 ゆっくりとした語り口。

 語りながら目を細めると優しい雰囲気に包まれる。

 彼女のそれは、以前から変わらない。

 愛しげなその視線は、けれどどこか悲しげで。


「あなたは、もう、英雄ではない」


「…はい」


「ここはもう、あの世界ではない」


「……はい」


「もう、呪いもない。……ねぇ、わたしたち、永い永い時間を、一緒に過ごしてきたね」


 そうですね。

 とても長い……それこそ、気が触れてもおかしくないほど共に過ごしました。




「私に、囚われてはいけないよ。シュリス」


 そのときの彼女は、まぎれもなく、愛しい魔女の面影を有していて。


「あんたはようやくすべてから解放されて、自由になれたんだ」


 その優しい瞳には、間違いなく(シュリス)に対する愛情があるのに。


「本当は、私からも自由になるべきなんだよ」


 どこまでも、どこまでも――――――。

 




 俺はたぶん、いま、微笑んでいる。


 あなたが、あなたである限り、このようなことを口にするだろうと予測はしていた。

 あなたが変わらないことを愛しく思う反面、胸に渦巻くものをとめられない。


「――――――――少し、ドライブしましょうか」


 まだ何か言おうとしていた彼女を遮るようにして言い、返事を待たずに車を出す。


 車内の空気に、彼女は居心地悪そうだった。途中、何度か口を開きかけ、結局何も言わずに口を閉ざす。



 優しい、優しいひと。

 だけどそのぶん残酷だ。


 ――――――――いまさら。


 そう、今更なんだよね。

 どうやってあなたを諦めたらいいの? 諦める必要がどこにあるの?

 自由? 何それ美味しいの?って、きっとこういうときに使うのだろう。


 俺のことを想ってくれているのは理解できる。あなたのことだから、俺の幸せを考えて、目の前には様々な選択肢があるのだと示してくれている。

 選択肢? 他の道なんてただの回り道に過ぎない。俺は絶対にあなたに辿り着く自信がある。


 だって俺は知っている。あなたがいっとう大事な存在だと、なによりかけがえのないものなのだともう知っているんだ。心の中心にどっしり存在し続けるその想いは、日々増すばかり。だから迷ったりしない。



 もう一歩踏み込んで考えてほしい。

 とても危険なことをしていると自覚してほしい。

 あなたは、いつだって自分の身を顧みないところがあった。




 ……せっかく、健全な交際をするところから始めようと思ったのになぁ。


 あなたに、この世界での普通の幸せをあげたかった。

 でも、もう自分を抑えられる自信がない。

 昏く獰猛な感情が沸き起こるのを、止められないし、止めることもない。


 ほら、俺はこんなにも自由だ。








 新しく購入したマンションには、地下の駐車場に入るとそこから各階への直通エレベーターがある。

 昼間、マンションの住民と出くわすことはあまりない。

 様々な分野の金持ちが有するものだから、ちょっとくらい騒ぎがあっても誰もが目を瞑る。

 購入した時はあまり気にしなかったが、このときばかりは実に都合が良かった。

 するりとマンションの地下に駐車して、驚き固まる彼女を車から降ろし、担ぎ上げる。

 暴れ出すのを無視してエレベーターで部屋に行く。


 それから、彼女の身体を暴いた。


 ひどく乱暴に。

 それこそ自由に、心のままに。


 正気に戻ったときは、もうすでに彼女はぐったりとしていて………即座に土下座しました。








 とりあえず、床の上に正座させられてお説教を喰らった。


 犯罪である、と。

 

「こうしなければ手に入らないなら、犯罪者でかまいません」


 真剣にそう言ったら殴られた。


 俺の行動には、英雄が魔女に対する罪悪感や償いの気持ちも入っているだろうと言われた。それを踏まえたうえで、彼女は俺にもっと自由に、もっと広く世界を見てほしいのだと彼女は訴える。


「別に、付き合わないとは言ってないでしょうよ……。ただ、その前にちゃんと話がしたかっただけだったのに……」


 そのまま襲われるとは思わなかった、と彼女は溜息を吐いた。

 


 

 魔女のすべてを奪ったことに罪悪感を抱かないはずがない。償わせてほしいと思う気持ちが入るのは当然のことだ。

 様々な想いが入り混じるこれが、純粋な恋情でないからと、いったいなんの問題があるのだろうか。


 あなたが、俺に自由という選択肢を与えようとするのと、ほんの少し似ていると思う。

 あなたのように、深く広く何もかもを包み込むような慈愛に満ちた愛情ではないけれど。

 もっと昏くてドロドロした執着を含んだ気持ちではあるけれど。



「愛しています。大好きです。言葉では足りないんです。貴方がいないと辛いんです。貴方じゃないとダメなんです。俺を恋人にしてください。それがだめなら今すぐ結婚してください」


 「選択肢がおかしいだろ!」と真っ赤になって耳を塞ぐ彼女の足首を手に取る。

 あんまり動くと身体に巻き付けているシーツが肌蹴て見えるからか、抵抗は少ない。

 

「あなたに甘えていた俺に、これから先あなたを甘やかす権利を下さい。……勝手をしたことを、どうか許してください。あなたが、愛しすぎて………俺は、何もかもを手離したくないんです」


 

 愛しさを込めて捕らえた足先に口づけをする。


 手離したくない。

 あなたという大切な人も、あなたから得られる想いも。

 

 あなたをでろでろに甘やかして、俺から抜け出せないくらいにしてあげたい。




 ようやく解けた転生の呪い。

 だけど俺は、最期のあのときに絶望に打ちのめされたのだ。


 切々と訴え続ければ、やがて仕方ないなぁという表情で許してくれる。


 あなたのやさしさにつけこむ俺を、許してください。







****


「本当に申し訳ありませんでした……!!」

「いや、もう良いから」

「いえ、あなたに対して、ひどいことをしました。初めてはもっと浪漫溢れ記憶に残るものにしたかったのに……!」

「ある意味記憶には残るよね」

「…………(青褪める)」

「……言い過ぎた」

「……いえ、自分が仕出かしたことですから……(めそめそ)」

「あのね!私だって好きでもない相手だったらもっと抵抗してるよ!」

「え……、それは、俺だったから許してくれたということですか……?」

「うー……、まぁ、ねぇ……(ちょっと照れ臭い)」

「(ポッ)」

「英雄殿がヤンデレ属性隠し持っているの知っているし(心中希望とか、監禁属性とか)」

「え?」

「だからこれくらい許容範囲かな!(えっへん)」

「……(ちょっと複雑)」



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