その十九 大地震
マヤの神話と伝説
大地震
その日、パレンケという大きな都市ではPaxという月でEnzeteのお祭りが行われておりました。
マヤの伝統に従い、この日は丘の上で行列が組まれ、とうもろこしの女神に供え物とか生贄が捧げられておりました。
この女神は頭の無い彫像として表現されていました。
その首からは大地を豊穣にする七本の血の柱が噴き出しておりました。
その信仰は、軍の司令官である「ナコン」への祈りを捧げるという、悲しむべき手直しを受けた時代でありました。
このナコンを讃えるために、あたかも神として扱われるかのように、乳香が焚かれました。
神官とか天文学者はこの人物によって取って代わられました。
そのために、国は大きな災害に見舞われました。
異端を実践することが原因でありました。
その日、宗教的儀式が執り行われる丘の頂上へ誘う階段を行列が進んでおりました。
青色に塗られたコパル樹脂の玉が香炉の中で焚かれ、香り高い煙が何本もの煙の柱となって周囲に立ち上っておりました。
行列の先頭では、数多くの呼び子、銅で作られた鈴、テュンクルが鳴り響いておりました。
その後には、四百人もの娘たちが花で飾られたとうもろこしの茎を持ち、祭儀で歌われる賛歌を歌っておりました。
「おお、神よ、母よ、父よ、丘と谷の神よ、森の神よ、とうもろこしの父よ」
その後を、背中までかかる羽根の飾りを被ったナコンが歩いておりました。
彼の後に、房飾りで飾られた胸飾りをつけた貴族や高官が続きました。
そして、最後尾には生贄のアヒル、鶏、その他の鳥を携えた群集がおりました。
丘の一番高いところで、主たる神官が息をきらして登ってくる群集の頭上高くに両手を広げました。
突然、そこに居る者の耳を聾するような、ぞっとする大きな音が聞こえてきました。
そして、熱い空気の突風があたかも息の詰まりそうな経かたびらのように群集を包みました。
地面は揺れ動き、投石機のような凄い力で人々をなぎ倒しました。
山は、山そのものが爆発したかのように破裂したかのように見えました。
階段は大きな激しい音を立ててバリバリと崩れ落ちました。
山はひび割れました。
そして、階段を覆い尽くしていた人々は川の水の中にまとまって落ちるように押しつぶされました。
死があたりを支配しました。
完全に破壊されてしまったのです。
パレンケは消滅しました。
その悲劇は生き残った人々を意気阻喪してしまいました。
神々による呪いであったと信じられ、都市は再建されませんでした。
このように、自分たちに言い聞かせました。
「なぜ?って。歴史は繰り返すのだ。カトゥンで起こったことが400年という周期を経て繰り返されたのじゃ」
このように神官たちは説明しました。
占星術を兼ね備えた神官たちはこの巨大災害で死にました。
知識を伝えるべき若い弟子たちも死に絶えました。
神殿と偶像はバラバラと破壊されたままでした。
人々は自問自答しました。
「帰っていき、復旧の労苦に耐えるだけの値打ちはあるのか?」
破壊された都市は容赦なく密林と化していき、何世紀という沈黙が忘却のマントとしてその地を覆いました。
この威厳ある都市に残されたものと言えば、ただ、山の高みのところにある古びた石の壁と階段の残骸ばかりです。
破壊された段丘と、その周囲には雑草に覆われた道が見られます。
失われた建物の土台とマヤ人が建設した丘陵が見受けられます。
墓室はある程度の深さを持っていたにもかかわらず、川の下となりました。
墓室には翡翠、黒曜石、石像とか、神秘的な執行者を描いた陶器も数多く発見されます。
そこにはまた、堂々とした姿のナコンの肖像も一体発見されましたし、清浄且つ繊細な創作物として二人の踊り手を従えたものも一つ発見されています。
マヤの都市で、今ではもう2000年以上の歴史を持つパレンケの絵画に匹敵する絵画を持った都市は一つもありません。
1524年にスペイン人が到来した時、パレンケの支配者の最後の子孫という気の毒な首長が失われた都市の周りを孤独に徘徊しておりました。
そして、地震が、大きな地震がどのようにしてこのパレンケという荘厳な都市と全ての住民をことごとく破壊していったのか、その伝説を語ったのがまさしくこの男であったのです。
スペイン人には一つの文明が一回の地震によってまるごと消滅したなどという話はなかなか信じがたい話でありました。
そして、さして重要な質問はせずに、このような質問を質問の続きとして彼に行いました。
「お前の名前は?」
スペイン人は彼に訊ねました。
「アー・クレル」
彼は答えました。
「鳥の名前みたいだな」
そのスペイン人は言いました。
「王の末裔なのだから、我々はお前をサンティアゴ・レイ・カバジェロ(サンティアゴ騎士王)と呼ぶことにしよう」
それ以降、何の痕跡も残さず消滅した神秘的な古代パレンケ文明周辺の村はサンティアゴと呼ばれました。
- 完 -