プロローグ
その少年は悲観していた。慟哭していた。
赤い絨毯が敷かれた王城の中。絢爛豪華な装飾が壁や天井にもあしらわれているその一室で、少年は咽び泣いていた。
時間は昼下がり。強い日差しが巨大な窓から燦燦と差していて、その光が照らしているのは少年の前に血まみれで横たわる白髪の少女だった。
ボサボサの黒髪と裏腹に淡いベージュのような白い眼が印象的な少年、逢生日向は血潮でさらに赤黒く染まった絨毯を、何かを憎しむように拳を叩きつける。
「どうして……ここに来た? どうして……力を使ってしまった? 僕が守るって言ったのに……」
日向は動かなくなってしまった少女に触れて、語りかける。体は既にひんやりとしていて、鼓動も脈拍も感じることはできない。
(僕はまた繰り返してしまうのか? また怠惰に見捨ててしまうのか? そんなわけには絶対にいかない。もう繰り返してはならない)
日向は思い悩み、頭を巡らせる。日向は体中を傷だらけにし、満身創痍の状態であった。だから、日向も何かを考えられるほどの余裕はなかった。だが、日向は必死に思考し、今できる最大限の答えを見つけようとしていた。
左目に映る0の一文字。それが、何を差し示しているのかは日向にもわかっていた。
だが、どうしても諦めることができない。
諦めるのが怖かった。諦めて終わらせてしまった過去の自分と同じことしようとしていたのが、どうしようもなく恐ろしかった。
(覚悟を決めろ、逢生日向。今やらなきゃ、もう取り戻せない。決めたことはもう訂正しない。その勇気を僕は持たなければいけないんだ)
思い出す、黒髪の少女。紅い瞳をしたその少女は日向のトラウマだった。でも、ごく最近になるまで、トラウマとして想起されることすらなかった。彼女は助けを求めていたかもしれないのに、話をしたいと思っていたかもしれないのに、日向は何もすることができなかった。
日向はそんな惰弱な自分を変えるのは今しかないと感じた。二度と繰り返さないように。そして、再び巡り合えるように。
「ふぅ~」
日向は大きく息を吐く。そんな小さな呼吸音は広く静かな一室の中でこだまし、響き渡った。
「待っていて。僕が今から君を助けるから」
日向はその淡く白みがかった双眸を、瞼を閉じた少女の元へはっきりと向ける。冷たくなっている体も、二度と開くことのないであろうその瞼も、血飛沫が飛び散っている現状も、その白みがかった双眸で全て受け止める。
その上で、日向は一世一代の覚悟を決めるのであった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びをあげて、一室の中に日向の声を響き渡らせると、日向と少女を白い光が包み込んだ。
人種も考え方も違う異世界にたどり着いた少年は過去と向き合い、過去と、人と、再び出会う。慟哭と絶望が少年を待ち受ける中でも、少年は勇気と覚悟と、与えられた力で戦い続ける。
これは、命を燃やし続ける少年と、宿命を背負った少女の出会いと、別れと、再びのめぐり逢いの物語。
——さぁ、ここから再開しよう。僕たちの「再会の物語」を。