07 愛しの君に
真っ二つに縦に引き裂かれたべリアル。その最強の悪魔は虚しく左右に別れ崩れ落ちた。正に一閃、べリアルは切られたことにさえ気付かずに絶命した。
だがその凄まじい魔力は今も残り火として教会を包みこみ燃え上がり始めている。残り火となったのはあの燃やされた男達もその一つだ。
先程殺された司祭服の男達が誰だったのかはもう記る術はない。青い炎により消し炭と化していた。
「よし、これでオリヴィアの魂は救われたんだろ!?」
(そのはずだが)
「ここから出ないと焼け死んでしまうよ」
(待て、べリアルのソウルは全て吸収しておくんだ)
「そうだね、わかった」
僕は右手をべリアルの死体に向けて意識を集中した。するとべリアルからは赤色をした輝くエネルギーが浮かび上がり僕の右手に吸い込まれてくる。凄まじく強いソウルだ。でも底知れぬ力で中々吸収が終らない。
急がないと。もうかなり火の手が上がっている。
「あ、あなたは?」
「え!?」
「リリアさん!? 気が付いたんですか!? 大丈夫です、もう少しだけ待って下さい。必ず助けますから!」
「私のことを知っているの? それにその赤い力の源は・・・」
燃え盛る炎は天井まで達している。正面にあった様々なオブジェや礼拝場は最早跡形もない。
「!!!」
教会にはもう脱出不可能なほど火の手が周り、ついに屋根が崩れ落ち僕達の真上から降り注ぐ。それと同時にべリアルのソウルは全て吸収した。
「きゃあああああ!」
「デス・リーパー・ソード!」
僕は威力を最小限に抑え、死神の紫剣でリリアさんを縛りつけている鎖を断ち切る。
「さあ、僕に掴まって」
僕は震えるリリアさんを抱き抱えて【次元移動】を発動した。そして一瞬でそこは教会の外へ。
「間一髪、間に合った」
「?? え? 何が起こったの?」
「もう大丈夫ですよ。怖い思いをしたでしょうけどもう安全です」
「あ、ありがとうございます。あなたは一体?」
「そ、それは・・・」
(アルム! あれを見ろ!)
「!?」
夜空に輝く星空の中に一つ、金色に輝くほのかな揺めきがある。
(あれはオリヴィアの魂だ。間違いない、オリヴィアだ!)
「オリヴィア? 本当に解放されたんだね」
(オリヴィア、今行くからな)
「わっ!?」
僕の中から死神の僕が抜け出る。すると今まで僕が纏っていた死神のローブが霧が晴れる様に消えて行った。そう、この力は当然僕自身の力ではない。死神の僕の力なのだから、彼がいなくては使えない。
「あ、あなたは医療魔術学院のアルムさんではありませんか?」
「!! そ、それは」
まずい、正体がばれてしまった。ここはなんとか誤魔化さないと 「「!!」」
あれはっ、やっぱり!
オリヴィアだ、やったんだ。ついに会えたんだ、助けることが出来たんだね!
空を見上げると、そこには死神の僕と美しい金髪の少女が抱き合っていた。
『すまない、オリヴィア。900年も掛ってしまったよ」
『ありがとう、アルム。アルムなら必ず来てくれると信じていたわ』
『こんな情けない、君を守ることもできなかった俺を許してくれるのか?』
『ふふ、許すかですって? 相変わらずの事を言うのね、アルムは。あなたが私にくれた想いが900年もの間、私を守ってくれていたのよ。私はあなたの想いに守られていたの。助けて貰っていたの』
『どういうことなんだ? 俺の想い?』
『そうよ、私は悪魔べリアルに魂を奪われたわ。でも、屈しなかったわ、900年経っても。それはあなたがきっと助けてくれると信じていたから。あなたを想っていたから』
まるで二人は天使のようにやさしく輝きながら、そして時には消え去りそうになりながらゆっくりと空中に漂っている。今までの想い、計り知れない想いが僕にも伝わってくるようだった。
『そしてあの方が私をこの時代、この場所へ送ってくれたの。今ならそれができるって。それであなたにもう一度会うことが出来た』
『ああ、神のやつか。君をここに送ってくれたんだな』
『神のやつ? アルム、いつからそんな悪い子になったのかしら? 神様が私を送ってくれたのよ、神様でしょう?』
『あ、ああ。そうだね、ごめん』
おおっ、あの死神の僕が謝ってるぞ!? 信じられない、あの僕が!
って、相手はオリヴィアだ。当然と言えば当然だな。ふふ、本当によかったね、二人とも!
「あれはアルムさんとオリヴィアさん?? 空中に浮いている? どうなっているの? 私は何を見ているのかしら、きっと私はあんなことがあっておかしくなってしまったのね」
「!!?」
隣りにいるリリアさんにもあの二人が見えていたのか!? てっきり僕にしか見えないと思っていた。
まずい、なんて言えばいいんだ。絶対にこのことは人には言えない。
もしもオリヴィアがこのことを知ってしまえば・・。
僕達の後ろで燃え盛る教会。もう少しすればこの様子を見た人達が集まってくるだろう。のんびりしている時間はあまりない。
『おい、アルム。お前が命を懸けてくれたからオリヴィアを救うことができた。ありがとう』
「死神の僕、そんなお礼なんて言わないでくれよ。オリヴィア、本当によかった。君が解放されて本当によかったよ」
『アルム、あなたも助けてくれてありがとう。やっぱりアルムはアルムなのね。でも、その綺麗な子、誰なの?』
「え、ああ。リリアさんだよ。サン・エルマリア教会の修道女の」
『この時代の君を助けたからさ。その代わりに奴らに選ばれたんだろう』
『ごめんなさい、リリアさん。私の所為で怖い思いをさせたわね』
「い、いいえ。謝るのは私の方なんです。よく事情は分からないけど、あの恐ろしい人達の中には私の父がいました。全ては父がやったことなのです。父は当然の報いを受けましたが」
リリアさん、シスターだけはあるな。この光景を目の前にして少しも動じていない。芯の強い女性なんだろうな。
『そう。あなたはしばらく気を付けたほうがいい。まだ生贄としての呪いが残っているわ。悪魔に生贄として選ばれたら簡単にその呪いは解けないの』
「そ、そうなのですか。こ、怖いですが神に祈りを捧げればきっと」
『助けてはくれないわよ』
オリヴィアはズバリとリリアさんに言う。さすがオリヴィア、相手はシスターなのに。
『アルム、あれ持っているんでしょう?』
「え? 僕? あれってなんのこと?」
『もう、これよこれ』
そういってオリヴィアは自分の綺麗な長い金髪を指差す。そこには今日、僕がプレゼントするはずだった精霊石が埋め込まれた髪飾りがキラリと輝いていた。
「あ、うん。持ってるよ、まだ渡してないからね」
『そう、よかった。それをリリアさんにあげなさい。その精霊石はもしもの時にリリアさんの助けになってくれるから』
「え?」
「はい?」
『その精霊石はブルーオニキス。生贄に選ばれてしまったあなたにはそれは必要な物よ。私のように』
「え? でも、それはアルムさんがあなたに・・・ええ? どういうことなんでしょう」
うーん、確かにわけが分らないよね、リリアさん。でもこれはオリヴィアにあげようと思ってたんだけど。そんな力があったのか? 知らなかった。
『アルム、オリヴィアのいう事をきいておいた方がいいぞ』
「わ、わかってるよ。これにそんな力があったことに驚いてたんだよ」
「さあ、リリアさん。これを君にあげるから。オリヴィアの言うように君を守ってくれるよ」
「本当にいいんですか? ありがとうございます、アルムさん」
うーん、なんだか話が複雑になっていく気がするのは気のせいだろうか?
でも、オリヴィアを救えたから後はもうどうなったって構わない。そんな気持ちで一杯だった。
そして、頑張ったね、死神の僕。ホントに君は凄い奴だよ!
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