05 教会
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サン・エルマリア教会はダリスの街の一番東にある。
建物としてもダリスの街ができた当初からあったらしいからかなり古い建物だ。
教会と呼ばれるだけあって休日になると結婚式が行われたり恋人達の憩いの場となったりしている。
そんな幸せが溢れてくるような場所なのに。
(おいっ! おいアルム! 聞いてるのか!)
「え? ごめん、聞いてなかった。何?」
(しっかりしろ、もう一度言うぞ。お前は俺が憑依したことにより俺の力が使える。だが、決してお前が強くなった分けじゃない。戦いになった場合は注意しろ)
「う、うん。わかったよ。僕は医術学生だから戦いのスキルはない。元々が戦いのセンスは無かったからそれはわかってる」
(ああ、知ってるさ。教会に行きながら戦い方を教えるぞ。まずは悪魔は必ず死神の鎌で攻撃するんだ。死神の鎌で切ればどんなに強力な悪魔も倒せる。だが、ソウルの消費が激しいから注意しろ)
「わかった。デス・リーパー系の武器はソウルの調整によって威力が違うんだね。これは対人や魔物用ってことか」
(そうだ。わかってるなら大丈夫だな。それと戦いになったら死神のローブを纏え。身体強化と耐性が上がる)
「うん、わかったよ」
なんとなくだけど戦い方はわかった。死神の僕から知識が還元されてるから。でも、今更だけど僕は人を殺せるのか? 悪魔なら何の躊躇もなくやれる。いや、そんな事を考えている次点でダメなんだ。
やれるかじゃない、やるんだ。
「死神の僕、聞きたいことがある。やっぱり聞いておいた方が確実だから聞くよ。教会では何があったの? 」
(ああ、そうだな。だが俺も実の所はよく覚えていないんだ。なにせ900年も昔のことだしな)
「たしかにそうだね。900年か、想像もつかない」
(だが、教会にいた奴らのことはなんとなくだが覚えてる。そいつ等は魔王崇拝者、邪神教団とか言っていたな)
「魔王? 邪神教団? 聞いたことないけど名前からして不気味だな。でも魔王って神話に出てくるあの魔王のことか? 神様だったか女神さまに倒されたっていう」
(神話では非道の限りを尽し人間を滅ぼそうとして神々に聖櫃といわれる箱に封印されたってことだったがな)
「でも邪神教団なんて奴らがこの街にいたなんて信じられない。そいつ等が僕とオリヴィアを・・・・。待ってくれ、じゃあ生贄ってのはなんなんだ?」
(魔王のことは分らないが悪魔は実際にいるぞ。この世界にいる魔族よりも恐ろしい力を持っている。美しい乙女を生贄にして悪魔を呼び出し悪魔に力を授けて貰おうとしてるのさ)
「そんなことの為に僕たちを!? その為にオリヴィアを!? 絶対に許さないぞ!!」
(俺が思うに邪神教団の奴らは魔族か魔族の血を引いてる奴らなのかもな。全て推測だが魔王は魔族や悪魔の神みたいなもんだろう。悪魔を呼び出し魔王を復活させようとしてるのかもな)
怒りしか込み上げてこない。恐怖はまったく無い。
きっと死神の僕が一緒だからなんだろうけど。
(俺が殺されたのはともかく、オリヴィアは悪魔に魂を奪われた。それはわかるんだ。だから悪魔を倒せば魂は解放される。頼む、お前に託すしか俺にはできないんだ)
「何言ってるんだよ。君のおかげじゃないか、いくら礼を言ったって足りないよ。君のおかげで僕らは助かるんだ! ここからは僕に任せてくれ」
(頼むぜ。よし、ここの坂を上ればサン・エルマリア教会だな)
僕はサン・エルマリア教会が見える位置まで来ると物陰に一度隠れた。ここからは慎重に行かないといけない。
邪神教団とかいう奴らが悪魔を呼び出さないことにはオリヴィアの魂を救えないからだ。そこにはきっと生贄にされる女の人もいるはずだ。その人も助けないとな。邪神教団が悪魔を呼び出し、生贄にされる女の人の魂を奪う前に悪魔を倒す。これしかない。
おかしいな、やっぱり誰もこの周りには居ないみたいだぞ。教会からは明かりが見えるし気配も感じる。
やっぱり教会の中にいるんだな。
僕は気配を消しながら教会の窓辺まで近づいた。感じる気配は、5人。いや6人だな。
(ここからは死神のローブを纏っていた方がいい。心で念じろ、そうすればローブはお前を守ってくれる)
「わ、わかった。やってみるよ」
なんとなくだけど出来る気がする。死神のローブよ、僕を守れ!
すると黒い霧が僕の周りを包んだ。と同時に死神の僕が着ていた漆黒のローブを今度は僕が纏っていた。
(よし、上出来だ。今度は【透視】のスキルで中を確認するんだ)
「わかった。【透視】スキル発動だ。よし中が見えるぞ」
!! なんだ、あいつ等は。中にいる4人は紫の司祭服と顔まで隠した黒い尖がった帽子を被ってる。それに最後の一人は顔を隠していない上に一人だけ赤の司祭服だ。
「あ、赤い服の男はこの教会のマグリアス神父じゃないのか? それにあの石の台に縛られてる女性は!?」
教会の中央には魔法陣が描かれその回りを蝋燭がゆらゆらと不気味に照らしている。魔方陣の中心部には石の台座があり、両手両足を鎖で縛られた女性がいる。なんて酷いことをするんだ。
たしか修道女のリリアさんじゃなかったか? そうだ、間違いない。あの長い銀髪と翡翠の瞳、オリヴィア並みの美人だ。医術学院の皆にもかなりのファンがいて教会に通い詰めてた奴もいたくらいだ。
でもリリアさんはマグリアス神父の・・・・。
「あなた達! 今すぐこんなことは止めなさい! 神があなた達を許しませんよ!」
「リリア、すまない。お前を生贄にするしかないのだ。ルシファー様は計画を変えられてしまった。私もお前だけは守りたかった。しかし、あの方の命令は絶対なのだ」
「お父様! いったいどうなされたのです! こんなことをして神が許すとでも思っているのですか!?」
「リリア、神はいないよ。悪魔ならいるがね」
「!! し、神父のいう言葉ですか! 恥を知りなさい! 早くこの鎖を外しなさい!」
な、なんだって!? ルシファー? 計画が変わった? どういうことだ? でもまずいぞ、どうすればいいんだ、このままだとリリアさんが・・。
「リリアお嬢様、貴方が逃げれば孤児院の子供たちは皆殺しにします。さあ、どうするのです?」
「!!! あなた達はどこまで卑劣な悪魔なの!!」
「さあ、リリア。もうすぐ約束の時がくるぞ」
「やめて、助けてお父様!!」
(待てアルム! 行くな、悪魔が出てくるまで待つんだ!)
「でも、あいつはナイフを持ってるじゃないか!!」
(たとえそうでも大丈夫だ! 奴らに生贄を傷つけることはできない、今は耐えろ!!)
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