04 家族
「本当にありがとう、アルム。ごちそう様でした、とっても美味しかった」
「うん、凄く美味しかったね、冷めてたけど」
「ふふ、それはアルムが居なくなったからでしょう?」
「ああ、そうだった、はは」
僕達の家はダリスの街の北側に位置する住宅街だ。平民たちが住む住宅街は少し高台にある。貴族となるともっと高い位置に家がある。身分が高いほど上に住んでいる。それはそれで貴族も大変だよ。
緩やかな坂道をゆっくりとオリヴィアと歩く。
「ねぇ、アルム。私の為に半年間も働いてお金を貯めたんでしょ? 私があの時アルムに言ったから」
「エルサだな。ホントにお喋りなんだから」
「違うわ、いつも一緒にいるんだから分かるわよ」
「いや、僕もあそこに行ってみたかったしさ。噂通りのレストランだったね」
「うん。ありがとうアルム」
実はオリヴィアが一度だけ僕に言ったことがある。[貴婦人の花園]はオリヴィアの亡くなったご両親が初めてデートした場所なんだって。自分もいつかあそこでデートしてみたいって。そうなれば当然僕がやることは決まってる。
オリヴィアのご両親は二人とも医療魔術師で三年前に亡くなった。隣り街の診察に行く途中に魔物に襲われたんだ。
今、オリヴィアはなんとか立ち直ってお兄さんと二人暮らしをしている。お兄さんのセシルさんは冒険者ギルドのAランクの冒険者だ。あのことがあってセシルさんは冒険者を目指しあっという間にAランクのエリート冒険者になった。本当にすごい人だよ。僕にもとても良くしてくれる。
でもお兄さんは仕事柄あまり家には帰ってこれないらしい。
「ここでいいわよ、兄さんは今日居ないし少し寄っていく?」
「え!? うん。い、いや、また今度、今度必ずお邪魔するよ」
「そう、でもこの前はどこか行きたいところがあるって言っていたけど何処だったの?」
「う、うん。それも今度話すよ」
「そう。なんだか残念ね。じゃあ、今日のお礼にこれをアルムにあげるわ」
そう言ってオリヴィアは胸元からペンダントを外して僕にくれた。そのペンダントからはオリヴィアの温もりが伝わってきた。
「オ、オリヴィア。このペンダントって? いつもしてるペンダントだよね」
「アルムにあげるから大切にしてね」
「オリヴィア、ありがとう。もちろん大切にするよ」
碧い石の入った銀の装飾が美しいペンダントだった。でもこのペンダントは大切な物なんじゃないのかな。
それに僕からもオリヴィアにプレゼントがあるんだけどそれは今度にするよ。
僕はオリヴィアにもらったペンダントを首に下げた。
「似合ってるよ、アルム」
「ありがとうオリヴィア、大切にするよ。さあ、家に入って鍵をかけるんだ。それまではここにいるから」
「あのね、アルムのお家はそこでしょう? 私は子供じゃないんですからね」
「いや、ダメだ。これだけは引かないよ。さあ、入って鍵を閉めるんだ」
「わかったわ。そこまで言うならそうします。じゃあ、明日ねアルム、今日はありがとう」
そういってオリヴィアは家に入って鍵を閉めた。セシルさんは今日居ないのか。心配だけどこれで大丈夫のはず、この時代のオリヴィアはこれで安全だ。
辺りはすっかり暗くなり夜空には丸い月がぼんやりと輝いている。今日は満月だ。
「さてと・・・・」
(覚悟は決まってるみたいだな)
「なんだよ、気が付いてたのか?」
(ああ、少し前にな。それよりいいんだな?)
「ああ。もちろんだ。今からサン・エルマリア教会に行く。そしてオリヴィアの魂を捕らえている悪魔とその場にいる全員を殺してやる」
(どうしたんだお前? 少し前とは別人じゃないか。頼もしいくらいだぜ)
「当然じゃないか。そんな奴等に生きている資格はない。その悪魔は現れるかな?」
(ここから先は俺の歴史と変わってしまった。おそらくだが・・・・。)
「なんだよ? 僕らしくないな、はっきり言ってくれよ」
(悪魔は現れる、そして別の女が犠牲になる。間違いなくな)
「な、なんだって? どういうことだよ」
(当然だろう? オリヴィアが助かったんだ。奴等にしてみたら代わりに生け贄が必要だろうからな)
「た、助けに行かないと! 教会なら【次元移動】で行ける!」
(待て! 簡単に力を使うなと言っただろう。ソウルを使いすぎれば悪魔を倒せなくなるぞ)
「くっ、でもこのままじゃあ! どうすればいいんだよ」
(今はソウルを集めている時間は無い。今あるソウルで何とかしなくてはな成らないんだ、まだ時間はある。それに俺は死神の力を使うことができないからな、冷静になれ。お前しかやれないんだぞ)
「わ、わかった。まずは教会に急ごう。様子をみてからどうするか考えるよ」
(ああ、それがいいだろうな)
教会に行く前に少しだけ家に寄って行こう。僕の家はオリヴィアの家と目と鼻の先、すぐそこだ。
僕は急いで家に行き玄関の扉を開けた。広間には母さんと妹のエルサが僕を待ち構えていた。
「あらあら、お早いお帰るねアルム。もしかして振られちゃった?」
母さんは興味津々といった感じでズバリ聞いてくる。
「ちょっとお母さん、ダメだって。傷口にナイフを突き刺しちゃ! いくらお兄ちゃんでもオリヴィアさんに振られたらもう立ち直れないからね」
お喋りエルサめ! お前オリヴィアに僕のこと全部教えてたんだろ!
「いやいや、違うから。オリヴィアは今送ってきたんだよ。僕はこれから違う用事があって遅くなるから気にしないで。父さんにも言っといてよ」
「あら、そうなの? よかった、安心したわよお母さん。お父さんもずっとアルムはどうしたばっかりだしね」
「お父さんなら飲めないお酒飲んでもう寝ちゃったよ。お兄ちゃん、心配かけすぎ。でもよくオリヴィアさんはお兄ちゃんとデートしてくれたよねえ」
「オリヴィアちゃん、いくつも縁談きてるんですって。それも貴族や王族までいるらしいの。アルム、負けちゃだめよ。オリヴィアちゃんみたいにいい子はいないからね、それにあんな美人な娘さんは見たことないわ」
「お母さん、それがダメなの! オリヴィアさんはお兄ちゃんとは釣り合わないのは皆が知ってるんだから。デートして貰っただけでも一生の宝なんだから」
くっ、好き勝手言われてるけどここでのんびりしてる暇はないんだ。急いで、サン・エルマリア教会に行かないと。
(おい、アルム。少しでいい、俺に一言いわせてくれないか)
お、珍しいな。いいよ、もちろんだ。
『母さん、エルサ。会えて嬉しいよ。二人に悲しい思いをさせてしまったことを許してくれ。これからはもっと二人を大事にする。もちろん、父さんも。俺は皆を愛している、今もそしてこれからもね』
「ええ?? 何言ってんのお兄ちゃん。振られておかしくなったの?」
「・・・・そう、ありがとう。私達もよ、アルム。どんなことがあっても私達はあなたの味方であなたを永遠に愛しているからね」
『ありがとう、母さん』
エルサは僕が振られて変になったと本気で思ってるぞ。僕は一度もこんなことを言ったことはないから。
でも、もう行かないと。今は誤解を解く暇はないんだ。
「そ、それじゃあ出かけてくるよ。遅くなるから寝ててね」
「気を付けて行ってきなさい。アルム、頑張りなさい。あなたなら何でもやり遂げられるから」
「うん、それじゃ」
僕は急いで大広間から飛び出しサン・エルマリア教会に向かって走り出した。
きっと今頃は母さんとエルサが僕のことで盛り上がってるんだろうなぁ。
でも、死神の僕はあの二人には許してくれって言っていたな。
僕は死なないぞ、900年も頑張った死神の僕の為にも絶対に死ねない。
必ずオリヴィアも救ってみせるぞ! どんなことをしても必ず!
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