03 オリヴィア
[貴婦人の花園]は僕たちが暮らしているダリスの街では有名な高級レストランだ。もちろん僕のような若輩が行くような所でもない。
それに入店には男性はタキシードなどの正装、女性はドレスの着用が絶対に必要なんだ。一応僕も正装している、この日の為に準備したんだ。
平民の一般家庭に生まれ育った僕はとても裕福とは言えない。
いや、そんなことを言ったら父さんに悪いかな。
でも、僕はどうしてもここでオリヴィアとデートがしたかった。だから半年掛りでお金を貯めたんだ。
僕は時間を見つけては街の裏手にある森に行った。そして薬草や医療用のキノコを採取して冒険者ギルドに換金してもらいお金を稼いだ。
これが事実一番お金を稼げる方法だったからね。魔物討伐などは僕には無理、論外だった。僕とオリヴィアはダリスの街の医療魔術学院に通っている、だから薬草関係は専門なんだ。
そしてやっとの思いで[貴婦人の花園]でオリヴィアとデートできたのに。まさかこんなことになるなんて。
僕は薔薇の庭園を通りレストラン入口の白い薔薇のアーチをくぐる。よく手入れされた美しい庭園だ。
すると小さい宮殿を思わせる建物にたどり着く。ここが[貴婦人の花園]、宮殿のようなレストランだ。
テラスでは洗練された若い男女が向き合い楽しそうに食事をし、会話を楽しんでいる。
近くにいた接客係の若い男が僕に気付き近寄ってくる、かなりのイケメンで背も高い。
「お客様、どういったご用でしょうか?」
「あ、すいません。ここで予約してるアルム・エイストと言いますが、連れが僕を待ってる筈なんですが」
ここはこういった方が面倒がなくていい。
「ああ、君がアルム・エイスト君ね。オリヴィアちゃんが言っていた幼馴染君か」
「ええ、そうですよ。それがなんですか」
なんだこいつ、オリヴィアちゃん? 馴れ馴れしい奴だ、イケメンだからって調子に乗るなよ。
「さあ、こっちだ、案内しよう。それに君どこに行っていたんだ? さっき入店しただろう? オリヴィアちゃんに言われて君を探したんだぜ?」
「ええ、少し用事がありまして。お騒がせしました」
僕はイライラしながら答える。態度に出てしまったが仕方ない、向こうの方が悪い。
「君にその気がないなら俺がオリヴィアちゃんを誘ってもいいかい?」
この接客係、仕事してろ。まさか僕がいない間にオリヴィアに?
「ダメですよ。オリヴィアは僕の彼女ですから」
「そうなの? 幼馴染って言ってたけどな? ほら、彼女が待ってるよ」
本当にうるさい奴だな、お前には関係ないだろ。
大広間まで行くと客用の丸いテーブルと木製チェアがキレイに並べられている。どれも2人用で全てのテーブルにお客が座っていて食事を楽しんでいる。ここは宮殿のような建物だけど、中は落ち着いた雰囲気なんだ。
そして、30組の男女が食事を楽しむ中、美しい少女が一人テーブルにいる。その少女は少しうつ向き考え事をしている。
その仕草の一つ一つが魅力的で美しく、他の男性達もチラチラと彼女を見ている。
・・オリヴィアだ。
派手さのないシックなドレスを纏い、金色の長い髪をくるくると巻いている。今日は一段と色っぽい髪型だ。
それに男なら誰でも魅了されてしまう綺麗な蒼い瞳もまるでサファイアのようだ。スマートな体系にグラマーという完璧すぎる幼馴染み。
どんな宮殿やお城に住んでるお姫様も君には敵わないよ。あっ、オリヴィアと目が合ったぞ!?
「あら? そこにいらっしゃるのはアルムさんではございませんこと?」
「や、やあ、オリヴィア。待たせたね」
ヤバイ、これは完璧切れてるぞ。当然と言えば当然だ。ディナーに誘っておいて料理が来た直前にいなくなったんだ。テーブルの料理は冷えきっているし、一口も手を付けず二人分がそのままだ。
「さぁ、お掛けになって下さい。この席の方は何処かに行ってしまわれましたから」
「ご、ごめん、オリヴィア。少し用事が・・・・」
あ、あれ?
「! どうしたの、アルム? そんなに大粒の涙を流さなくってもいいじゃない? 私もそこまで怒ってないから大丈夫よ」
涙が止まらない、どんなに止めようとしても止めどなく流れ落ちるんだ。ごめん、オリヴィア。これは僕の涙じゃない、900年振りに君に会えた男の涙なんだ。
そして僕の意思とは無関係に想いをオリヴィアに伝える。
『やっと会えたね、オリヴィア。俺を許してくれとは言わない。でも、必ず君を救ってみせる』
「?」
オリヴィアは僕の涙と言葉に戸惑っているようだ。事情を全く知らないオリヴィアにしてみれば意味不明なことを僕は言ってるんだから当然だ。
「そう、わかったわ。アルムなら私を救ってくれるって信じてる」
「・・・・」
「ねぇ、本当にどうしたのアルム? 今日はちょっと変だよ。目の前に居たのにいきなり消えたみたいに居なくなるし。それにいつもは僕なのに今は俺って言ったわ」
「・・・・」
あれ? どうした? また意識がなくなったのか?
どうやら一瞬だけ死神の僕の意識が戻ったようだ。オリヴィアにも変だって思われてるぞ、どうしよう。
「もしかしてアルム、緊張してるとか? ふふ、エルサから聞いたわ。毎日エルサと今日の練習してたんでしょ?」
「!?」
ええ?? まさかエルサの奴め、オリヴィアに喋ったのか? 普通言わないだろ、あのお喋り猫め!
でもそれがいい、それでいこう。
「そ、そうなんだよ。僕だって緊張するよ。さ、さあ食べようか、冷めちゃったけど」
「そうね。アルム、ありがとう。私も本当は緊張してるのよ」
「そうなの? 見えないね。いつもの堂々としたオリヴィアだよ」
「それ、褒めてるの?」
「も、もちろんだよ、オリヴィアには誰も勝てないよ」
「それ、褒めてないわよ?」
「ええ?? 褒めてるんだよぉ」
こうしてあっという間に楽しい時間は過ぎ去り、僕はオリヴィアの家に彼女を送りに行った。
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