09 その想いは
どうしよう。この状況はなんなんだ? 僕は今エルサと二人でリリアさんの治療が終わるのを待っている。
実際、オリヴィアにリリアさんを治療してもらった方が僕も助かるけどさ。
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「あ、ああ。うん、大丈夫だ。でも、もう遅いからエルサは寝てろよ」
「だって、ここあたしの部屋だよ? お兄ちゃんいたら寝れないでしょ」
「ああ、そうだな。ごめん、じゃあ行くよ」
「待ってよ、オリヴィアさんとリリアさんはどうするの?」
そうだな、さすがに僕の部屋で一緒に寝るなんてできないし。僕は下で寝よう。いや、いやいや、待って!
まずい、それはまずい。もしもリリアさんに何かあったらどうするんだ? オリヴィアもいるんだぞ!?
リリアさんは悪魔の生贄としての呪いがあるからもし悪魔でも来たら大変だ。
くっ、どうする? い、いや、もうこれしかないのか。
「頭かかえてどうしたの? 本当に大丈夫なの?」
「僕は今日はここでエルサと一緒に寝ることにするよ。そこのソファーならいいだろ?」
「ええ?? 本気なの? あたしはいいけどさあ。でも、オリヴィアさんとリリアさんは?」
「僕の部屋で寝てもらうから大丈夫。母さんが掃除してくれてるしさ。問題ないだろ、それなら」
「えー! つまんないじゃん!」
「こら、遊びじゃないんだぞ。僕は真剣なんだ」
「ごめん、でもよくお兄ちゃんがリリアさんを助けるなんてことできたね。お兄ちゃん、戦闘スキルは全然無能なのにさあ」
「おい、妹が兄に言う言葉かそれ。僕だってやればできるんだよ」
「わかってるってば。でも金の女王と銀の女神って呼び名、すごいよね」
「そうだな。本人には言うなよ」
「うん。その二人が一緒に家にいるなんて凄いよね。明日噂にならないといいけどね、お兄ちゃんの為にも」
「?? 大丈夫だろ。ディアナも言いふらしたりはしないと思うし」
さっきの呼び名だけどもちろん『金の女王』とは僕の幼馴染のオリヴィア・ガーネットのことだ。
彼女の金色の髪と誰も寄せ付けないその美しさ、気高き立ち振る舞いから何時の間にかそう呼ばれるようになっていたんだ。
もちろんオリヴィアは女王なんて言われるような近寄りがたい女性ではない。皆に優しいし、誰に対しても平等だ。ただ意志の強さは半端じゃないけどね。
そしてもう一人、『銀の女神』と言われているのが修道女のリリア・マグリアス、リリアさんの事だ。彼女もその銀色の髪とその容姿の美しさ、シスターとしての慈愛に満ちた優しさから何時の間にかそう呼ばれるようになっていた。
二人はこの街で皆が知っている有名人。誰しもが彼女達の美しさにため息がでるんだ。何人もの若い男性が彼女たちに声をかけたそうだ。全滅らしいけどね。そういったこともあってこの呼び名も広まったんだろう。
そんな二人が僕の家にいるなんて。どうなってるんだろうな。
死神の僕なら余裕なのかな? いや、あの僕もオリヴィアにはたじたじだったな。やっぱり僕は僕なんだろうけど。
すると、母さんが僕を呼ぶ声が聞えた。
「アルム、リリアさんの治療が終わったから二人には休んでもらって。あなたの部屋はちゃんと母さんが掃除してますからね」
「ありがとう母さん、今行くよ」
そして僕は一階の広間で怪我の治療をしていたオリヴィアとリリアさんを呼びに行った。
ああ、なんだか疲れた。色々なことがあり過ぎるよ今日は。
広間に行くと二人は治療を終えてオリヴィアが持って来ていた夜用のドレスに二人とも着替えていた。
うわあ、やばい。二人とも色っぽいな。この光景はどんな芸術品より人の心を魅了してしまうよ。
「や、やあ。オリヴィア、ありがとう。リリアさんもよかった。さあ、こっちに来て、僕の部屋に案内するから」
「あら、アルム。あなた、大事なこと忘れてるわよ?」
「え?」
忘れてるって? 一体なんだっけ? オリヴィアは無言で僕を見ているけど。リリアさんは少し顔が赤いぞ。そ、そうか! わかったよ、オリヴィア。
「二人のそのドレス姿を見れて僕はなんて幸せ者なんだ。これは神様が僕に与えてくれた最高の名誉だよ。こんな光景を見ることのできる男はこの世界において僕しか存在しない、するはずがない。 これは奇跡だ!」
「よろしい、完璧よアルム」
「ふふ、すごい息がぴったりなのですね、お二人は。羨ましいです」
「そ、そうかな、はは。さあ、いこう」
君は本当に僕の女王さまだよオリヴィア。でも僕ってそういった所がいまいち気が利いてないんだな。勉強になったよ。
階段を上るとエルサが部屋の扉からこっちを覗いていた。あいつめ、早く寝ろよ。
(お兄ちゃん、頑張って! こんなイベントもう無いからね)
そう小声でエルサは僕に告げると『ガチャッ』という音が聞こえてきた。「!!」まさか、あいつ。
部屋に鍵を掛けたのか!? なんてことをするんだよ、どうするんだ!?
「どうしたのアルム。早く案内して。ここに何かあるのかしら?」
「ご、ごめん、ここがそうだよ。さあ入って」
二人を僕の部屋に招き入れるとやっとなんとか落ち着いてきた。招き入れる?? 言葉がおかしいな。ごめん、忘れてほしい。
部屋は綺麗に片づけられていて、ベットも綺麗なシーツに変えられていた。ありがとう、母さん。
そして、ベットにはふかふかの大きな枕が三つ並べられていた。おいおい、冗談になってないよ、母さん!!
「さあ、疲れたでしょうリリア。アルムももう休むわよ」
「オリヴィアさん、アルムさん。ありがとう、皆さまには感謝しきれません」
そういって何事もなく二人はベット入ってしまった。
なんで誰もそのふかふかの枕三つにツッコまないの?? 明らかにおかしいでしょ。
「さあ、早く来なさいアルム。もう寝るわよ」
「アルムさんも疲れたでしょう? さあ、早くこちらへ」
「「!!!」」
ちょっと、なんだこれ! 二人が手招きしてるんですが!? まさかマサカの夢なんて落ちなの??
有り得ないよ、こんなこと!!
「い、いや僕は廊下で寝るからいいよ。二人はここで休んでよ」
なんて残念な奴なんだ僕って。どこまでも情けない、あきれ果てる奴だ。自分でもそう思う!!
だけど冗談でもあそこで寝るなんて言えない。仕方ない、しかたないんだぁあ! 無理だよぉおおお。
「まあ、アルムならそうなるわね」
「ふふ。楽しいですね」
「ちょっと! 二人でからかわないでよ」
「さあ、早く来なさい、今日は特別だからね。アルムのことは信用してるわ」
「真面目に言ってるの?」
「そうよ」
「私もアルムさんなら大丈夫ですよ。オリヴィアさんもいるし命の恩人ですから」
「いや、僕の方がそうはいかないんだよ」
「はあ~、アルム。何度も言わせない」
「無理、無理だよ。せめて、この床に寝させてよ。それなら僕も了承するから」
「了承? ダメよ。こっちに来て子犬のように震えて寝なさい」
「ええ? なんで? 僕なんか悪いことした!?」
「・・・・」
「・・・・」
し、信じられない、なんだこの展開。しかもオリヴィアとリリアさんの無言の圧力。た、耐えられないぞ。覚悟を決めろ、アルム!
「わ、わかったよ。わかりました!」
「そう、それがいいわね」
「そうです。それがいいです」
そして、意を決して僕はベットの中へ。そしてオリヴィアとリリアさんに挟まる形で寝ることになってしまった。
男に生まれたなら誰もが夢みるこの状況。僕は絶対に寝れるわけはないとそう思いながら横になる。
右隣にはオリヴィア、左隣にはリリアさんがいる。
ベットに入ると二人の温もりも直接感じる。二人の吐息も呼吸する胸の動きも全てが伝わってくる。
(うわあ、これはどうなの!? 寿命が倍速で減ってくよ!)
必死に目を閉じ無心になる。助かる道はそれしかない。
だか、寝れるわけがないという思いとは裏腹に今日の疲れが一気に押し寄せる。べリアルとの戦いの疲労が僕を眠りにと誘う。
ああ、こんな状況でもう起きていられない。嬉しいのか悲しいのかもよくわから――ない――な。眠りに落ちる瞬間──
(アルム、何か私に隠してることがあるの?)
(アルムさん、あなたは勇敢で誠実な人ですね)
二人のほんのわずかな囁きが聞こえたような気した。
お読みくださりますありがとうございます。少し長めになりました。
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