00 900年後
この『エピソード:ゼロ』は短編で連載途中で投稿した『とある死神の孤独な物語』です。死神アルムのプロローグ前の話になっています。少し長めの3500文字になっています。第一章から先に読まれても大丈夫です。
この世界には『地獄の迷宮』と呼ばれている迷宮がある。
そしてその迷宮には地獄へと続く地獄の門といわれる門があった。それが何時からあるのか? そしてその先には何があるのか? 本当の真実を知る者はこの世界にはいない。
だが、そのヘルゲートから先に進んだ者はもう二度とこの世界には戻ってこられない。それはその門の存在を知った者だけが自ずと知ることになるこの世の真理の一つだろう。
それほどまでにヘルゲートの存在がこの世の全てを否定していた。
そして、そのヘルゲートがあるのは『地獄の迷宮』の最深部。地下999階。
『地獄の迷宮』に巣食うのは神話の怪物や伝説上にしかその名を現わさない悪魔達だ。
地下一階から始まり下の階層に下りればその分だけ巣食う敵も強くなる。地下999階ともなれば巣食う怪物たちでさえ明日のことは分らない。それほどまでに地下999階の怪物たちは全てを凌駕していた。
そんな中、神話の怪物さえも己の糧として刈る者がいた。
漆黒のローブを纏いし者。見た目からするに少年でありながら真っ白な髪と怪しく不気味な紫の瞳。
それはまさに人が死ぬ間際に現れるという不吉の象徴、身の丈を超える大鎌を持ち魂を刈り取る者。そう、死神だ。
「ミズガルズの大蛇。お前のソウルも俺の力となれ」
ミズガルズの大蛇、伝説の魔獣と呼ばれ神話にその名を残す大蛇は死神の目の前で頭から真っ二つに切られていた。
その大蛇は巨大な帆船をも一飲みしてしまうほどの大きさだ。その大蛇を前にその死神は右手をかざす。
真っ二つに切られ動かなくなったその大蛇からはうっすらと赤く輝くエネルギーが溢れ出てきた。
死神がソウルと呼んだのはミズガルズの大蛇の魂。それは死神の力となる。そして赤色に輝くソウルは最上級の証。
大蛇に向けた右手にはソウルが勢いよく吸収されていく。
「・・・・・・」
地下999階に降り立ち怪物を狩り始めてどのくらいの時がたったのだろう。もう死神には分らない。
そしてこの神話に登場するような怪物をどのくらい倒したのだろう。もう死神には分らなくなっていた。
限界すら超越した死神はそれでも力を求めた。
「まだだ。まだ俺にはソウルが必要なんだ」
死神は元は人間であった。少年であった。そして人間だった頃の名前は──。
─── アルム・エイストといった。
900年前、15歳だった少年アルムは死神になった。
死神になるのは非業の死を遂げた者がほとんどだ。つまりアルムは15歳という若さでこの世を去り、死神となった。
死神になる方法は二つある。
一つは死神からの能力の譲渡。言葉の通り死神としての力を譲り受ける。死した魂を刈り取りに来た死神から逆に力を受け取るのだ。能力を受け取った魂は死神となり、渡した死神は死神でなくなる。つまり死神となった者が天に帰る方法がこの能力の譲渡となる。
死神になり魂を刈り取り続けた死神の最後は大抵は能力の譲渡で終わりを迎えるのだ。
だが、死神とて不死身ではなく戦いに負ければ魂さえ残らず消滅する。この二つが死神の最後と言えるだろう。
そして死神になるもう一つの方法は神に選ばれること。
死した魂の叫びが強ければ神をも呼び寄せるのだ。そして神から能力を直接授かった死神はエクストラスキルの存在を教えられる。最強を極め全てを超える存在となった死神が手にすることのできるスキルのことを。
刈り取る者、死神は神の使い。決して不吉の象徴や暗黒の異形ではない。神聖なる神の使いなのだ。
神の為、世界の全ての魂ある生物の為に限界を超えた死神は神をも凌駕するスキルを手にすることができるのだ。
それは【遡りし者】。 時間を遡り非業の死を回避し生をやり直せるスキル。時間を遡ることは死神として最強を越えた者だけが許される行為。
しかし生をやり直す為のこのスキルを使用し過去に遡った死神は力の大半が使えなくなり、生をやり直すと全ての力を失ってしまう。
だが、今だこのスキルを手に入れ時間を遡った死神は一人としていなかった。
神から直接死神の能力を授かり死神となったアルムは900年もの間最強になるためにソウルを集め続けた。吸収し自らの力とする為に。エクストラスキルを手に入れる為に。
アルムには目的があった。絶対に成し遂げたいことが、成し遂げなければならないことが。それは自分の為ではない、最愛の女性の為であった。
エクストラスキルの存在を知り、自分の生をやり直そうとする死神は間違いなく途中で諦める。どんなに努力しても限界がくる。自分の為では乗り越えられない壁があった。
アルムも自分の為だったのなら途中で諦めていたかもしれない。最強の死神になることを投げ出したかもしれない。だが、アルムは最愛の女性オリヴィアの為に過去に遡ると誓っていた。
オリヴィアを救う為だと己の魂に刻み込んでいた。
ミズガルズの大蛇のソウルを全て吸収すると今までにない力が溢れ出てきたことに気が付いた。今までどんなにソウルを吸収してもこんなことはなかった。遂に900年かけアルムは最強を越えた。
「ステータスオープン」
アルムは囁くように唱える。
アルムの目の前には半透明のガラスが現れる。そこにはアルムが持つ最強のスキルが表示されていた。
刈り取る者:アルム LV999
ソウル:999,999,999/999,999,999
死神スキル:攻撃(全てMAX)
【即死の大鎌】
【即死の中鎌】
【即死の鎌】
【デス・リーパー・シールド】
【デス・リーパー・アックス】
【デス・リーパー・ランス】
【デス・リーパー・ソード】
【デス・リーパー・アイ】
死神スキル:補助(全てMAX)
【浮遊】
【透視】
【透明化】
【形状変化】
【物質操作】
【物理無効】
【属性無効】
【限界突破】
死神スキル:固有(全てMAX)
【譲渡】
【融合】
【吸収】
【憑依】
【召喚】
【眷属化】
【次元移動】
【刈り取る】
【魔眼】
【能力解除】
死神エクストラスキル
【遡りし者】
そしてその最後には確かにエクストラスキル【遡りし者】の表示があった。
アルムは【遡りし者】のスキルを手に入れ最強を越えた死神になったのだった。
「やっとだ。やっと君を救えるよ、オリヴィア」
アルムがやっと絞り出した言葉はオリヴィアへの想い。自分が救うことができなかった少女、命を投げ捨てそれでも助けることができなかった最愛の幼馴染。
「必ず今度は君を救ってみせる」
心に秘めていた思いが一気に溢れ出す。既に自分の事さえ思い出そうとしてもぼんやりとしか思い出せなかった記憶がたちまち溢れ出てくる。
900年という月日がアルムの心を砂漠のように涸れさせていた。
しかし、今はあの頃のように様々な記憶と感情が呼び起こされる。
もう何百年も前に枯れ果てていた涙も一滴流れ出る。自分に流す涙があることにアルムは少し驚いた。
そしてふと気が付くと目の前に一人の白装束を纏った人物が立っていた。以前、もう何百年前になるのか思い出せもしないが会ったことがある。
昔と同じように顔はわからないが神だと悟るのに時間はいらなかった。
『貴方なら必ず成し得ると分っていましたよ。あれから900年という月日が経ちましたが貴方の想いは今も少しも揺るがないようですね』
「900年? そうか。もうそんなに経ったのか。あの時あんたに貰ったこの力で俺は必ずオリヴィアを救ってみせる」
『あの時と変わらないそのセリフをまた聞けて嬉しく思います。さあ、時間を遡り彼女を救ってみせないさい』
「ああ、言われなくても必ず救ってみせるさ」
『あの時話したことを覚えていますか?』
「もちろんだ。900年経ってしまったがさっきはっきりと思い出したからな。大丈夫だ」
『貴方にしか託せない私を許して下さい。私にはもう何事も変える力もないのです』
「それも前に聞いた。だが俺はオリヴィアさえ助けれればそれでいい。他のことは知ったことじゃない」
『ええ、わかっていますよ。全てが貴方の自由です』
「ふん、なんでもわかってるんじゃないのか? まあいい、俺はもう行くぞ」
『はい。それではまたいつか会いましょう』
「できればもう会いたくはないな」
そしてアルムは輝きに包まれこの世界を旅立ったのだった。
900年前のあの日、アルムとオリヴィアが殺される日に。
『貴方ならきっとやり遂げれますよ。そしてこの世界を救うことが出来るのは貴方だけなのです』
誰も居なくなった地獄の迷宮地下999階、地獄の門のあるその場所で神が一言囁いた。
お読み下さりありがとうございます。この話は途中で短編で投稿したものですが、どうせならこちらにも載せようと思いました。
短編の方は削除させてもらいました。ブックマークして下さった方すいません。そして、ありがとうございます。
(変更しました。時を遡った死神は力の大半を失い➝時を遡った死神は力の大半を使えなくなり)