紐の先端
少年が、物凄い勢いで振り向きました。
無理もありません。
先程、この現場をたっぷりと見渡していたのです。
人影が無かったことも当然確認しています。
なのに、声が。
しかもかなり近くから聞こえたのです。
そして、振り向いた先には。
誰も、いませんでした。
「あー、ちゃうちゃう。上や、上」
上?
少年は言われるまま、恐る恐る上を見上げます。
そこには。
男が、若い男が紐にぶら下がって浮かんでいました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
そのあまりにもシュールな光景に、少年の口から思わず声が漏れました。
しかも上に伸びた紐の先端ははっきりと見えています。
そして何かに巻き付いて男を支えているのです、が。
どう見てもそこはただの空中で、何も無い何かに巻きついているようにしか見えないのです。
「なんや? その間の抜けた声は」
男はへらへらと笑いながら。
「よ、っと」
ガレキだらけの地面に降り立ちました。
そして同時に、空中にあった紐もバサバサと落ちてきます。
大学生くらいでしょうか。
スリムなジーンズに無地のYシャツという、ラフな格好をしていました。
「さて、取り敢えずアレやな」
「え、と。なんでしょう?」
「津村っちゅーもんや、よろしゅうな」
「あ、流っていいます」
奇抜な登場より、人に会えたという安心感からか。
少年、流はあっさりと自己紹介に応じました。