瞬き
夜。
瞬きをしたと思ったら、もう朝になっていた。
そんな経験をした人はいないでしょうか。
相当疲れが溜まった時稀に起こる現象らしいのですが。
もちろん身体はその間寝ているのです、でも気分的には全然寝ていない。
疲れが取れたのか取れてないのかわからない。
そんなちょっと勿体ない気持ちになる睡眠です。
今、彼に起きた出来事も、どこかそれに似て、そしてそれよりもはるかに深刻な事態を引き起こしていました。
瞬きをして、目を開けると。
そこは。
左右に巨大なビル群の立ち並ぶ大きな通りでした。
アスファルトは波打ち、ひび割れ、めくれ上がり。
遠くに見える歩道橋も、真ん中からぐにゃりと潰れています。
そして左右のビルも無事なものはひとつもありません。
その多くが倒壊し、辛うじて建っているものも、傾いていたり大きな穴が空いていたりしていました。
先程までという言い方が正確かどうか分かりませんが。
目を開ける前まで、彼は教室にいました。
馴染みのある、自分の、高校の教室です。
その、教室の椅子に座り。
スマホが鳴って。
スマホを取って。
・
・
・
そうして、ここに。
破壊されたビルの間、波打つ大通りの真ん中にひとり。
彼は立っているのでした。
「なんていうか」
ここにきて初めて少年が口を開きました。
「驚きすぎると、あんまり驚かないものなんだな」
その矛盾した言葉で、彼が充分にパニックに陥っている事がよくわかります。
と、そこへ。
「驚きすぎてるんやから、それもうえらい驚いてるって事やろ」
突然。
何の前触れもなく、後ろから声が聞こえました。
その声が続けて言います。
「その様子やと、お前ここは初めてやな?」