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異世界のメイドさんを救うのは俺(ご主人様)だ!  作者: 豆夏木の実
最終章 異世界のメイドさんを救うのは
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第五十六話 深夜の作戦会議

 ルッフィランテに一度戻り玄関を開けると、すぐにトマトが来た。


 不安げな表情。口を開けたままふっと息を吐き、俺の言葉を待っている。

 帰ってくる途中で用意していたセリフを忘れ、正直な言葉を伝えることにする。


「トマト、さっきはごめん、一人にして。それに態度も……余裕がなくなって、ホント駄目だった。夜風に当たって頭冷やしてきたよ」


 見上げた目には涙が浮かんでいたが、口元は優しく微笑んだ。


「鳥太様、帰ってきてくれて、本当に、よかったですっ……。本当にっ………………」

「心配かけたな。でも大丈夫。みんなを助けられる手段を見つけたんだ。偶然リリアに会って、協力してもらえることになったよ」

「ほ、本当ですかっ……⁉」


 トマトの目が期待の色に変わる。


「本当だよ、今リリアの執事達がみんなの連れ去られた場所を調べてくれてる。百人近いメイド達を連れ去ったんだ。目撃者がいる。きっと見つけるよ」


 それに、執事喫茶ディヴィダスの情報網も使っている。これだけ優秀な執事が揃って見つからないわけがない。


「今からリリアの別荘で作戦会議だ。取り戻そう。みんなを」

「鳥太様っ! ありがとうございますっ……!」

「おう」


 詳しい話は秘密にしておいた。執事喫茶に乗り込んで助けられたなんて話をしても不安にさせるだけだ。

 代わりに話題を変える。


「トマト、待ってる間何か変わったことはあったか?」

「あ、あの、実はあれから屋敷の中を探して、フィルシーさんからのメッセージを見つけました。ルッフィランテが強制的に閉鎖されることになり、フィルシーさん達は一時的に別の施設に移されたそうです」

「やっぱり、そういうことだったか……!」


 ディークに連れ去られたとは思っていたが、別の場所に移されただけならフィルシーさん達は無事でいる可能性が高い。それは俺とトマトにとって最大の希望だ。


「けど、そんなメモなんてあったか……?」


 俺達は屋敷中を探したけど、最初に見たときそれらしきものはなかったはず。


「メッセージは窓に指で書かれていたのです。たぶん、執事達に気付かれない為ですね」

「そんなのよく見つけたな……。窓を指でなぞっても、普通は透明にしか見えないだろう……」

「冷静になってみると、フィルシーさんは何かメッセージを残していると思ったのです。執事には気付かれず、私にわかるメッセージがあるとすれば…………と考えたら、ルッフィランテのメイドとして、最初に窓のお掃除を習ったことを思い出しました。先輩メイドは後輩メイドに窓の汚れが見えるかどうか確認するのですが、実は汚れているだけでなくて、指で文字が書いてあるのです。この遊びはルッフィランテだけで流行っているので、執事には気付かれなかったのですね」

「仲いいな……フィルシーさんとトマトの信頼関係がなせる業か」


 そう言うとトマトは照れくさそうに笑った。

 ルッフィランテにはフィルシーさんとメイドさん達が培ってきたこの絆がある。きっとみんなを取り戻せるだろう。


「それじゃそろそろ行こう、リリアの別荘。執事が情報を揃えてくれてる」

「はいっ!」




 外へ出ると、暗闇に沈んだ町は熱電灯のぼんやりとしたオレンジ色に点々と照らされていた。


 あらかじめ執事から渡されていた地図を頼りに進み、木々に囲まれた静かな場所にリリアの別荘を見つける。

 茶色の屋敷に木々が自然に配置されていて、周囲の緑と調和している。さすがリリアの別荘。広さはルッフィランテとほぼ同等だ。


 緑の執事服を着た門番に連れられて屋敷の中に入ると、吹き抜けのリビングルームに集まっていたのは、リリアと喫茶ディヴィダスのリーダー格の執事――バテラロ、解説役にリリアのカラフル執事から選ばれた長身の白執事だった。


 テーブルにはディークの屋敷が描かれた図が広げられている。これもリリアのカラフル執事の一人が十分足らずで製図したものらしいが、素人目にも必要な情報だけ簡潔に盛り込まれているのがわかる。


「葉風様、作戦会議は最小限に済ませ、十分以内に実行いたします。ディーク側との戦力差はそれほどありませんので、入り口を突破するだけならそれほど問題は無いでしょう」

「急いでくれるのは助かる。一刻も早く助けに行きたいからな」


 椅子を引いて座り、図に視線を落とす。

 ディークの屋敷はシンプルなコの字型。何の変哲もないように見えるが、注意事項がいくつか書かれている。

 それらを目で追おうとしたところで、タイミングよく白執事が解説を始めた。


「ルッフィランテのメイド達及びオーナーは、ディーク・バシュラウド様が数か月前に建設した屋敷に収容されていることが判明しました。この屋敷はおそらくメイドを“執事補助”へと訓練する為に使われると考えられます」


 ディークの企みは数か月前から計画されていたということか。

 ルッフィランテのメイド達を執事補助として訓練すれば、他のメイド喫茶は逆らえないことを悟り、すぐに従うだろう。そんな思考が透けて見える。


 今夜中にみんなを取り戻せば、計画は少なくとも一時中断になる。その上で俺がディークを倒せればベストだ。


「まずはこちらをご覧ください。屋敷は要塞のように造られております。外壁はタッドという希少な硬質材が用いられており、並の力で壊すことはできません。同じ素材で作られている門は常に閉ざされている為、侵入の際どこかの壁を壊すのであれば、スキルの使用が不可欠となります」

「スキルはできるだけ温存しておきたい。壁は乗り越えられないのか?」

「高さはおよそ二十メートルほどです。これを生身で超えられる者は限られます」


 喫茶ヴィヴィダスのリーダー――バテラロは大仰に頷き、「三人」と呟いた。

 二十メートルの跳躍が可能な執事はおそらくもっといる。けれど、その多くは戦闘力の低い諜報部隊だ。

 跳躍は機動力に直結するが、戦闘にはほとんど役に立たない。

 しかも、この世界の建物は最大でも十メートル程度なので、二十メートルも跳躍する機会は稀だ。わざわざ鍛えることも少ないだろう。


「私達の中には二人おります。そして葉風様を含めると合計六人です。この人数だけで作戦を実行するのは不可能でしょう。侵入については後で対策を考えるとしましょうか」

「いざとなれば私のスキル、念壊ダルナ鳴撃キャズ闘化ディマガ貫通ヴィヴィヴェのどれかを使います」

「ああ、そうだな……」


 このまま妙案が浮かばなければ、リリアのスキルで強引に壁を破壊するしかない。

 しかし、これらの強力な範囲スキルは貴重だ。できればディークの従者達と戦う時まで温存しておきたい。


「そして、さらに悪いお知らせがあります。この外壁の四隅には柱があり、その一番上で警備の執事が常に監視しております。上から見下ろしている為に死角がなく、気付かれずに侵入するのはほぼ不可能かと思われます」

「それは仕方ないな……。どちらにしてもこの人数にコソコソした作戦は向いてないからな」


 テーブルを囲む全員が小さく頷いた。

 最大の問題はやはり壁の突破だ。

 中に入れば乱戦になり、作戦などほとんど役に立たない。むしろ相手のスキルや戦術がわからない以上、下手な作戦を立てると綻びやすくなる。

 逆に最初の突入さえ上手くいけば、ただの戦闘が相手にとっての奇襲となり、戦況がこちらに傾く可能性もある。


 そこでずっと黙っていたトマトが口を開いた。



「あの……こういうのはどうでしょうか?」



 トマトが提案した作戦はシンプルかつ大胆だった。

 時間がない現時点ではこれ以上こねくり回しても仕方がない。と思ったが、冷静に考えてみてもこれは最善策に思えた。


「みなさん、覚悟はよろしいですね?」


 まるで緊張感のない、淡々としたリリアの声。

 俺とトマト、執事達は顔を見合わせ、頷いた。



「ではいきましょう。青目とあなたのどちらが世界を導くのか、約束通り、特等席で見せていただきます。青目との直接対決であなたが負けそうになっても私は手助けしませんので、そのおつもりで」





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