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喜び。

「行くぞ。全員、走れ。」

という低く響き渡る声と共に


エンライ様は

右肩に私を担ぎ、

左肩に神官様を担ぎ、

神殿の奥の奥にある儀式を執り行う祭壇へ走った。


後ろ向きに担がれた私と神官様の目は点。

後ろに残されたみんなの表情はまさしく【ハトが豆鉄砲を喰らった】顔だった。

人間ってあんな顔出来るのね。

漫画の中だけだと思ってた。


そんな感想をいだいてる間に、既にかなり離れた後ろから聞こえる お父様&ツヴェイン家の皆様の静止の声と、走ってる間にすれ違う人々の驚愕の声と、隣から聞こえる神官様の叫び声をバックミュージックに、祭壇に到着。

人間を2人抱えて、あんな速度で移動できるものなんだね。

エンライ様ってすごい。

なんて感心している時点で、私もかなり混乱してる。



そして、エンライ様は

お父様も親族も追いつかない、揃わない状態のまま、

涙目の神官様に

【婚姻の申請=神に誓う婚姻の契約の儀式】

を強要し、私たちは無事に婚姻関係、夫婦となった。


神官様はいるけど、まさかの2人きりの儀式である。

親族、まるっきり無視である。

しかも儀式って神官様が用意した変な板に互いに手を乗せて名乗る。

なんていう簡単なものだった。

まあ、神官様が証人となり、認めた時点で、二人の頭上に光が降り注ぐ奇跡的なアレはあったけども。

呆気なかったなぁ。

なんて少しガッカリしていると、エンライ様が片膝を着き、目線を合わせて私の手を握ってきた。

そして私の手首に口づけを落とした。


「ミーニャ。これで俺たちは夫婦だ。いいな?俺はこれから好きな時にお前に()れる権利がある。ついでに束縛する権利もだ。お前に愛をささやく権利も俺のもんだ。お前の身体も心も俺のもんだ。いいな?逆に言えば、俺の全てはお前のもんだ。それを忘れるなよ?お前はもう俺の嫁だかんな。これ、男除(おとこよ)けに()けとけ。」

という言葉と共に私の耳にエンライ様の右手が伸びた。

すると私の両耳が軽くなり、続いてエンライ様の左手の上のイヤリングが目の前に差し出された。


それはエンライ様の髪の色と同じ石で作られた薔薇がモチーフのイヤリングだった。

大きな薔薇の下に、小さな雫型(しずくがた)の石がぶら下がっている。

まるで、大輪の薔薇から蜜が零れているようなイヤリング。

どう見ても、恋人に贈る様なデザインでしかも凄く上質な品物だ。


エンライ様がこんなものを用意していてくれたことに驚いた。

それと同時に自分が何も用意していないことに体中の血の気が引いた。

私が中々受け取らないことに痺れを切らしたエンライ様が


「耳かせ。俺がつける。」

と、元々着けていたイヤリングを私の手に置いて、耳に触れた。


こんなに上等な素敵な贈り物を用意してもらったのに、自分は用意してないなんて、どうしよう・・・・。

贈り物の話なんて聞いたことなかったから、こちらではそうゆう習慣は無いものだと思い込んでいた。

どうしよう。

いや、悩んでいてもしょうがない。

こちらは何も用意できていないんだから謝罪しないといけない。

自分のイヤリングを握っている手に痛いぐらいの力が入る。

呼吸が上手くできない。


「あの、実は、私、何も用意してなくて、その、こんなに素敵なものを用意していただいたのに、わ、私、知らなくて、その、なにも・・」

という私の言葉を遮って


「いらん。お前はその身一つで俺の嫁になりゃそれで良い。十分だ。それに、これは俺のもんだっつー証だ。俺も同じの着けてんだろ?誰が見ても、一目でお前が俺のだって分かる証だ。お前の耳にこのイヤリングが揺れてりゃぁ、色から連想して、すぐに俺の女だって分かる。流石に顔面見ねぇで口説く野郎はいねぇだろうから、安心だろ?俺の髪と同じ魔石を手持ちから探して俺が細工した、この世に2つしかねぇ、夫婦の証だ。失くすなよ?」

と、エンライ様は私の耳にイヤリングを着け終わった後も耳を撫でながら、ニヤリと笑った。


未だに耳を撫でられながら、目線をエンライ様に向けると

本当にエンライ様の耳にも同じイヤリングが付いていた。


すごく嬉しかった。

お揃いのイヤリング。

しかも、エンライ様の手作りの、夫婦の証。

嬉しすぎる。

気が付いたら涙がこぼれていた。

嬉しくて泣くなんて、初めてだった。

どうしたら良いか分からなくて、ポロポロと涙を流ししていると

エンライ様に親指でグイグイと強く目元を拭かれた。

そしてそのまま抱き締められた。


「俺以外の人間の前で泣くな。泣きたい時は俺の腕の中にいろ。いつでもお前を抱きしめてやる。何時間でも、何日でも、お前が泣き止むまでずっとだ。いいか、俺が一生、お前を幸せにしてやる。このイヤリングに誓う。お前を護り、お前に最大の幸せをくれてやる。」

と、そう言って片腕で抱きかかえられた。

もう片方の手が頭部を支えるように、優しく、優しく頭を撫でてくれる。


私は何度も何度も頷きながら、エンライ様の首元に顔を押し付けて泣いた。

何度も

【ありがとう】

【大好き】

【幸せ】

を繰り返しながら。



そしてエンライ様が私を腕一本で抱きかかえ、もう片方の手で頭を撫でてくれている時、息を切らした お父様とツヴェイン家の皆さんが到着した。

途端、全員からエンライ様にお小言が飛んできた。

私が泣いている事と、エンライ様が私を抱えちゃってる事と、置いて行った事と、勝手に婚姻の申請を終了させてる事を各方面から怒られていた。

が、エンライ様は無言。

私を抱きかかえながら、私を安心させるかのように、頭を支えている手でずっと頭を撫でてくれている。

更には時々、思い出したように髪にキスが落とされる。


そして、皆のお小言がため息に変わり始めた時、私の涙は止まった。

なので、私から泣いてた理由なんかを説明をしようとしたのだが、エンライ様は私の頭を固定したまま離してくれない。

なんとか口を胸部から離して


「あの、エンライ様、離してください。皆様に私が嬉し泣きをしていたことや、置いてきたことへの謝罪をした・・・」


「ダメだ。お前の泣き顔を他の奴に見せる気はねぇ。俺だって初めて見たんだからな。」

と少し離した頭を再度、首元に押さえつけられた。


急に押さえつけられたので

【ムブッフ】

なんて言ってしまった

私の背後からは何人もの盛大なため息とともに


【うちの愚息が申し訳ございません。あれですが、腕は立ちますから。お役に立てますから、見捨てないでやって下さい。】

【本当に申し訳ございません。独占欲の塊のようでお恥ずかしいのですが、その分きっと大切にするでしょう。一生をかけて、ミーニャ嬢の幸せに全力を尽くすでしょうから、どうか大目に見てやってください。】

【人間には短所と長所があるでな。魔物退治に関しては国最強の男じゃからな、あのくらいの短所は許してやってくれんかの?】

との声が聞こえた。

更に

【ああ、大丈夫です。娘も嬉し泣きと言っていましたし、娘本人も嫌がっておりませんし、なんだか、もう、本当に、お似合いだな。としか感じなくなったので。大丈夫です。エンライ殿にはこれから、我がヌイールの地にてミーニャを護り、領民を護ってくれれば、何もいう事はありません。・・・・もし、娘を不幸にするなら許しませんがね。】

とお父様の声も響いた。


お父様の言葉に対して、私を撫でるエンライ様の手が止まり


「ありえんな。もし、俺がミーニャを不幸にしたなら、あんたが俺の首を()ねてくれ。俺は絶対にミーニャを幸せにする。エンライ・ヌイールの名に誓う。」

と《ヌイール》の人間として名に誓ってくれた。


これに対するお父様は


「・・・・、ああ、うん・・・。」

と侯爵家の当主らしからぬ返事だった。


だが、そんな気の抜けた返事でもエンライ様は


「ミーニャ、親父さんが許してくれたぞ。もう俺たちの前には障害はないな。」

とご満悦のご様子。


未だに抱きかかえられている私はずっと頭を撫でられているし、何度も頭や額にキスを落とされてる。

恥ずかしくて死にそうです。

これ、恥ずかしくて顔を上げられない。

もう、泣き顔が恥ずかしいとか、そんなんじゃなくて、周りの人の顔が見れない。

顔から火どころか、体中の血液が吹き出そうなんですけどぉぉぉぉぉ!!!!!!

とエンライ様の首元に顔を自分の意思で埋めていると


【ぐぎゅううううあぁぁぁぁぁぁ】


とそこかしこから音が鳴った。


なんだなんだ?

と目線だけで音の元を辿ろうとすると


「すまん。腹が減った。」

と言う声が真上から聞こえ、


『すみません。お腹が・・・・・。』

と何人もの か細い声が後ろから聞こえた。


ああ、お腹がすいたのね?

大食いで燃費が悪いって言ってたもんね。

ってあれ?

エンライ様だけじゃ無かったよね?

今の。

もしかして、一家勢ぞろいで大食いなの?

遺伝ですか?

とか思っていると、更に続く、お腹の音の大合唱。

もう、誰も声を発せない。

声を出す前におなかの音が響く。


たまらず


「うちに行きましょう。親睦会をかねての昼食会の準備をしてありますから。皆様、今後のお付き合いも長くなるのですから、話をしながら当家の自慢の料理の数々を味わってください。」

とみんなを我が家に招待するように誘導する。


我に返ったお父様が

「あ、ああ、そうです。既に用意させておりますので、当家での昼食会に是非、参加してください。」

と他の方々の先頭を歩き、祭壇の前を後にする。


勿論、その際には神官様に全員が頭を下げ、お礼を述べていきました。

当然、私もエンライ様の腕から降ろしてもらって、


「お騒がせして申し訳ございません。貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。」

と頭を下げた。


エンライ様も

「急に乱暴なことをして申し訳なかった。迅速な対応、恩に着る。」

そう告げて頭を下げた。


貴族が頭を下げるなんて有り得ないので、神官様は目を見開いていたが

「いえ。こんなに素敵なご夫婦の婚姻の申請に立ち会えて、担がれて運ばれるなんて貴重な体験も出来て嬉しいです。」

と最後には笑ってくれた。

そんな神官様に感謝を述べて、私とエンライ様は神殿を後にした。


なぜか、再度、抱きかかえられ恥ずかしかったが、

エンライ様がご機嫌なので文句も言えず、そのまま出口に向かった。


そして、その出口で馬車に乗る瞬間、周囲の人間の口から聞こえた


『・・・ロリコン・・・?』


は聞こえなかったことにした。

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