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お父様の元へ

なんで?!

どうしてこうなったの?!


訳が分からずパニックな私とは逆に

何故か厳しい顔をしたエンライ様は扉を開けて出て行ってしまった。

長い脚でどんどんと歩を進め、廊下を歩くエンライ様。


私は考えてもいなかった展開に驚き、声も出せずに、ただただ、必死にエンライ様の後を追って廊下を走った。


そして、エンライ様がたどり着いたのは


《お父様のお部屋》


だった。

私が追いついた時には既に、エンライ様がノックをし断りを入れて部屋に入るところだった。

私はそのままエンライ様に続いて部屋に入った。

突然部屋を訪れたエンライ様に驚いていたお父様だったが、私がその後ろを滑り込むようにして息を切らして走ってきたのには 目玉が落ちそうになるほど驚愕の顔をしていた。


が、今はそんなのどうでも良い。

まだ息が上がっていて、上手く言葉が出てこない。

何がいけなかったのか。

何が原因でエンライ様のご機嫌を損ねたのか、本当に分からない。

混乱で頭がいっぱいだった。


お父様も私も脳内パニックを起こしている中、エンライ様が口火を切った。


「ヌイール家の当主であり、ミーニャの父親である貴方に許可をいただきたい。ミーニャとの婚約(こんやく)は今日までにし、明日には婚姻関係(こんいんかんけい)を結びたい。」


と、エンライ様は真剣な表情でお父様に頭を下げた。


・・・・・。


意味が分からなかった。

脳内で言葉が噛み砕けなかった。

理解できなかった。

もう、脳内だけじゃない。

完全なるパニックだ!!!!

私は、フラフラ、オロオロと手を彷徨わせながら、何の意味も無いジェスチャーをするばかりだった。


しばらくの沈黙の後、お父様から言葉が発せられた。


「は?」


口を開けたまま、首を傾げるお父様。

私も同じ動作をしたい気分だ。

だが、見ていて凄く間抜けな顔面になっているのが分かるのでグッと堪える。


お父様から発せられた疑問の言葉に、エンライ様は頭を上げ、言葉を続けた。


「ミーニャを私の妻に迎えたいのです。私は次男なので、家を継ぐことはありませんし、もし、兄に有事があろうとも残り2人の弟が居るので我が伯爵家は安泰です。よって、私、エンライ・ツヴェインをこのヌイール家の、ミーニャの婿として迎え入れていただきたい。」

饒舌に語るエンライ様。


そして、理解しているのか、何なのか、いまだに口を開けているお父様。

私も理解が追いついていない。

ご飯を食べて、お礼を言われて、そして婚約を止めると言われて、婚姻に変更された?

うん、エンライ様、本当に己が道を行くね。

お家に何の相談も無く、独断で、突然

【ミーニャを嫁にする】

と決めて、相手の父親に直談判。

この決断力と行動力、凄すぎるよ。


でも、私としては嬉しいよね。

家族に相談もなしに、その場で決断するほど、私を嫁に迎えたいって思ってくれたって事だもの。

まぁ、もともと侯爵家の娘が相手だからあっちにはプラス要素ばかりなんだけどね。

でもさ、私に会うまでは婚約には反対みたいな態度だったのに、私と話して、ご飯を食べて、

【嫁にしたい。】

って言ってくれてるんだから、家だけじゃなくて私自身を少しは好いてくれたのかな?

期待できそうだよね?

もし、本当にエンライ様が私を好いてくれたなら凄く嬉しい。

良いなぁ。

って思ってる男性に、好きになってもらえたかもしれないんだし。


うわー!!

考えれば考えるほど顔が熱くなる!

ヤバイ!嬉しい!照れる!

ニヤニヤが止まらない!!

ドキドキが止まらない!!


因みに、お父様はいまだに驚きの顔をしたまま固まっている。

見た感じ、脳内は既に考えることを放棄、思考停止しているのだろう。


まあ、当然だよね。

だってさ、10歳の娘に25歳の男が本日をもって婚約者として認められた。

そしてその日の内に、【翌日には婚姻関係になりたい!】なんて直談判されたら・・・ねぇ。

突然だし、私とエンライ様は今日初めて会ったのだし、この2時間で何があったんだ!?

って感じだろうね。

婚約ならまだしも、婚姻になると相手が婿に来るとはいえ娘は男の嫁になる訳だしね。

手放すのに近いし、心構えも出来ていない完全に不意打ちである。

これが戦場ならば、完全にエンライ様の1人勝ち状態である。

他の人たちは放心状態だからね。


よくよく見てみると、執事やお茶を持ってきたメイドも目を見開いて停止している。


そんなヌイール家の私達を気にもせず、エンライ様はどんどん話を進めていく。


「勿論、まだ幼い可愛い娘さんの夫が、こんな年上で格下の爵位の次男なのは納得もいかないでしょう。ですが、この度の婚約自体、陛下より出された命であり、婚姻が結ばれるのも遅いか早いかだけの問題です。私は何年待ったとしてもミーニャを嫁にしますから。」

と自信満々に語るエンライ様。


素敵すぎるよエンライ様!!

何年待ってでも嫁にするとか!!

気づいてないみたいだけど、相当恥ずかしいこと言ってるからね!!

後で後悔しても知らないよ!!

と心の中で、悶えていると

未だに返事をしないお父様に痺れを切らしたのか、エンライ様が更に喋る。


「まだ不満か?なにが不満なんだ?」

と少し不機嫌になったらしい。


お父様は未だに無言。

エンライ様は続ける。


「まず、そっちのメリットから話そうか?

俺が婿に入るんだからヌイール家はミーニャを手放さずに済む。領地で娘と過ごせるのが1つ目だな。

次に、婿入りの時には俺の私兵をそのまま連れてくるつもりだ。よって、魔物狩りで名を馳せている俺とその私兵がそのまま手に入り、魔物討伐隊に組み込めるのが1つ。

そして、ミーニャは随分と知識が深く、頭の回転も速い。俺にはそれが理解できている。だから俺はミーニャの領地経営には口を挟まないし、ミーニャを信頼し全て任せる。他の野郎なら女に領地経営はさせねぇだろうよ。これがもう1つ。後は、俺は魔物狩りが生活の一部だからな、魔物討伐隊の後継者を育てる手伝いも出来るし、既に倒した魔物の知識とその素材があるからそこそこ金持ちだ。あとは・・・・。なんかあったか?」

と一気に喋り、少し悩みながら言葉を続けた。


「まあ、メリットはそんなもんだな。デメリットは・・・。まあ、俺はこんなんだから領地経営とか領主には向いてねぇ。貴族達の前でボロをださねぇ様にすんのがやっとだ。祝い事や礼儀にも疎い。それから伯爵家の次男だってー事と、ミーニャが婚姻適齢期になる頃には俺がオッサンな事、俺の方が先に死ぬ事、魔物の討伐であんまり家にいねぇかもしんねぇ事、燃費が悪くて大食いな事、暇があれば剣を振り回すこと、(いびき)がうるせぇ事と・・・・。あー。まだなんか言ってねぇ事ありそうだな。」

と顎に手を当てながら悩むエンライ様。


鼾まで話に出してくるとは思わなかったんだけど、エンライ様が素の話し方を始めてから、お父様が話しに反応してる気がする。


「エンライ殿。貴方の気持ちはよく分かりました。私兵を連れて、ミーニャの婿としてヌイールの領地へ来てくださるのですね?こちらとしては大歓迎なのですが、ツヴェイン家に許可無く決めても宜しいのでしょうか?」

と、やはり覚醒していたらしい、お父様が質問を返した。


多分だけど、お父様が完全に覚醒したのは

【魔物狩りで名を馳せているエンライ様と私兵の取り込み】

が可能だと分かったからだろう。

実際、我が領の魔物討伐隊の皆はオッサンだ。

お父様を含め、そこそこ年齢が高い。

強い人間はそんなに居ないし、魔物が多く忙しくて指導も疎かになるし後任も中々育たない。

そんなヌイール領にとってエンライ様と私兵は喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。


エンライ様は何度も頷きながら


「ああ。構わん。当主でもある じじいに既に許可されてきた。

【おそらく、お前はミーニャ嬢を気に入るじゃろう。今後お前が他の女に惚れることは無いから、そのまま求婚してこい】

って言葉付きでな。

本当に求婚したくなるほど気に入るとは思わねぇから じじいを馬鹿にしてきたんだけどな。・・・後で謝っとかねーと。」

と少し困った顔をするエンライ様。


その言葉を聞いて

「あちらの当主の許可があるのであれば、ミーニャとの婚姻を認めましょう。ですが、なにも明日でなくとも良いのではありませんか?ミーニャが15歳になっ・・・」


「駄目だ!15歳まで待ってたら、ミーニャが他の男に取られる可能性があんだろうが!

婚約だけの状態で、ミーニャの姉貴の婚約者の王子がミーニャを気に入っちまったらどうすんだよ!

王子だけじゃねぇ。歳が近い俺の弟とか、公爵、侯爵の(ぼん)がミーニャを気に入っちまったら、俺が他の奴等を()じ伏せてミーニャを掻っ攫ってくしか方法がねーだろうが!

まあ、流石に王子相手に剣は抜けねぇからよ、王子に気に入られたらミーニャ担いでトンズラすんぞ?!」

と堂々と他の奴に取られるくらいなら掻っ攫う宣言をいただきました。


ウキャーーーーー!!!

夢だったけど!

こんな風に、強引に掻っ攫う的なことを言ってもらうの、長年の夢だったけど!

実際に言われると恥ずかしい!!

しかも父親相手に言われてるなんて更に恥ずかしい!!

と赤面して身悶えしていると


少し呆れた顔のお父様が話しを続ける。


「あー、分かりました。では、陛下のほうには後日報告に行くので、とりあえず明日、神殿で申請させていただきましょう。」


「ああ。それが良い。是非、よろしく頼む。来月の頭には領地に向かえる。私兵も連れて行くからよろしく頼む。」

と頭を下げるエンライ様。

うん。

頭を下げてるけど、言葉遣いはずっと偉そうなままだよ?

まぁ、お父様はもう気にしてないみたいだし、良いけどさ。

他のお貴族様の前では気をつけないと危ないからね?

気をつけてもらおう。


でも良かった。

予想外の行動ばかりだったけど、お父様もエンライ様の素を見ても反対してないし。

納得してくれてるし。

これで私は破滅へのフラグをバッキバキにぶち折った。

更には幸せなことに、この若さで生涯を共にする伴侶を手に入れた。

と安心していると、エンライ様が身体ごと突然こちらに振り向いた。

そして片膝を床につき、私の手をとって


「ミーニャ、俺の嫁になれ。死ぬまで俺の(となり)で生きろ。

お前はお前の好きな様に生きろ。俺も好きに生きる。

俺は魔物をガンガンぶっ倒して、絶対にお前の元に帰るからよ、お前は領地を護りながら美味い飯作って、俺の帰りを待ってろ。

んで、ヨボヨボのじじいになった俺が老衰で死ぬのを、ヨボヨボのばばあになって看取れ。

もし、お前が病気になった時は、俺が傍でお前の世話をする。お前も老衰以外で死ねると思うなよ?

あー、あとはそうだな。

俺は好きなモンには とことん執着するタイプでな。

他の男と仲良くすんのは無しな。家人でも控えめにな。

もし、お前にちょっかい出す奴が現れたら、王子でも殴り殺す自信があるからな。

後はそうだな。

子供・・・・。は、まあ、お前が12・・・いや、13・・14になったら話し合うか。

残りは追々だな。

んで?返事はどうだ?俺の嫁になる決心はついたか?

つっても、もう俺の嫁に決定だけどな。お前が嫌がっても俺はお前を追いかけ続けるからな。諦めろ。俺に惚れられたのが運の尽きだと思え。

俺はお前を惚れさせるように全力出すかんな。腹括(はらくく)れよ?」

とエンライ様は右の口元を上げつつ、ニヤリと笑った。


鼻血が吹き出るかと思った。

こんなに強引なプロポーズがあるなんて!

ってか、子供のことまで考えてるの?!気が早いよ!!

しかも束縛が強い系だとか!!

自分で言っちゃうのね!

王子様も殺しちゃうほどなんて、相当でしょうに!

しかもさぁ!

惚れさせるように全力出すとか!!!!!!!!

もう既に惚れてるんですけど!!

完全に底惚れなんですけどぉぉぉぉぉぉ!!!!

本当に好みすぎてどうしよう!

この人が私の旦那さんでしょう!?

やったよぉぉぉぉぉ!!!

私、完全なる勝ち組人生です!


ってあれ?

よく考えたら

25歳が10歳にこんなプロポーズはありなの?

あれ?

もしかしてエンライ様はロリコン?

・・・・・・。

まあ良いか。

それはそれで。私に有利なだけだし。

よし!

早速、エンライ様の気が変わる前に、お返事しないと!

私はエンライ様の手を強めに握って


「エンライ様、婚姻のお申し込み このミーニャ・ヌイールが お受けさせていただきます。


さて、ここからは私の言葉で思ったことをそのまま お伝えしますね。

コホン、

エンライ様、先ほどおっしゃっていただけた言葉の数々、私、凄く凄く嬉しいです!

今までこんなことを言われたことは無いし、すごくドキドキしています!

私はまだ10歳ですが、エンライ様に対するこの気持ちや愛おしさが、家族への愛情と違うのは理解できています。

私は既にエンライ様に心を奪われているんです。エンライ様とお話しているとドキドキするし、その強引なところも、私みたいな子供に対して真剣に言葉を紡いでくれるところも、大食いなところも、美味しそうに物を食べる姿も、時々子供っぽくなるところも、私の能力を認めてくれるところも、言葉遣いが荒いところも、顔も。全てが私の理想の男性像です。

勿論、今後、お互いを知っていく中で嫌なところも沢山見えてくると思います。

それでも、嫌なところがあっても

私は貴方と、エンライ様と生涯を共にしたいです。

私はエンライ様が大好きです。

これから末永く宜しくお願いします。」

言いたいことは全て言って、頭を下げた。


それに対してエンライ様は私から右手を離して


「・・・ああ。・・・・。」

と返事を返した。


先ほどの熱い台詞とは違って そっけない態度に驚いて頭を上げてエンライ様を見てみると、私から離した右手で顔を覆ってるエンライ様がいた。

手は真っ赤。

耳も真っ赤。

首も真っ赤。

そこには茹蛸(ゆでだこ)みたいなエンライ様がいた。


うっそ!

エンライ様が真っ赤になってる!

これって照れてるって事?

可愛いんですけど!

【ちょ、ちょっと待て!】

とか言っちゃってて可愛いんですけど!

なにこの人!

自分では恥ずかしい事をぺらぺら言えるのに、言われるのは駄目なの?

言われたことないってこと?

可愛いんですけど!!

真っ赤になって顔を隠しちゃう系の男の人、もんのすごく萌えるんですけど!!


ってエンライ様の可愛さに身悶えしていると、お父様の姿が目に入った。

即座にお父様は私とエンライ様から目を逸らした。

目は正直だよね。

【勝手にしてくれ。バカップル】

みたいな目をしてる。


そして若干気まずい雰囲気の中、エンライ様が覚醒した。


「すまん。待たせた。

ミーニャ、お前も俺を想ってるってことで良いんだな?俺の嫁になるって事で良いんだな?俺はお前より15も上のオッサンだが、それでも良いんだな?」

と再度確認するエンライ様。


「はい。私はエンライ様が大好きです。エンライ様のお嫁さんになりたいです。」

と答えると


エンライ様はガッツポーズをしながら

「っしゃあ!!んじゃ明日、婚姻の申請に連れて行くから、そのつもりでいてくれ。その時にうちの奴等に挨拶させるからな。

それと、来月の頭にはそっちの領に行ける。欲しいもんがあったら教えとけ。買ってく。なんか好きな果物はあるか?茶とか薬草とかドレスとか欲しいもんは俺に言えよ?親父さんじゃなくて俺に言えよ?明日からはお前は俺の嫁さんなんだからな。」

とニカッと笑顔で言ってるエンライ様。


もしかして、お父様も嫉妬の対象になるの?

俺ひとりで嫁さんを養ってやる!

って感じなのかな?

私はその辺の貴族令嬢と違ってお金がかからないタイプの女だけどさ、欲しいものを買ってやるって言われると、凄く嬉しいよね。

値段が云々じゃなくて、まず私の意見を聞いてくれようとする所が嬉しい。

やっぱりいい男だなぁ。エンライ様。

折角だし、ちょっとお願いしてみようかな。


「明日ですね。分かりました。皆様とお会いできるのが楽しみです。

欲しいものですか?本当に宜しいんですか?

では、お言葉に甘えて。

私は果物が大好きなので、種類はエンライ様にお任せしますので、果物を何種類かお願いしても宜しいですか?あと、新しい包丁が欲しいのですが、どこか刀鍛冶を紹介していただけませんか?」

とお願いしてみる。


エンライ様は

「ッブッハ!果物を数種類と包丁か!分かった。必ず用意する。

にしても果物と包丁だけとは流石ミーニャ!アクセだのドレスだの言う女と違って、想像の斜め上を行くな女だな!こーゆー想像範囲外の事を言うから、俺はお前との会話が楽しくてしょうがねぇよ!女がお前みたいなのばっかりなら、俺みたいな女嫌いがこの世から居なくなるだろうにな。お前といると本当に飽きねぇよ。」

とクククッと笑うエンライ様。


お気に召す返答が出来てよかったよー。

でも、私でもドレスやアクセをお願いする時はあるのよー。

舞踏会なんかあったら作ってもらわないと困るし。

まあ、自分のお金で余裕で用意できるけどね。

でも、貴族のご令嬢にあるまじき私の発想を気に入ってもらえるのは本当に助かる。

普通のボンボンだと、怒ったり不機嫌になるからね。

【馬鹿にしてるのか】

【ふざけるな】

【貴族としての誇りをもて】

とかなんとかさ。

それに対してエンライ様は、私のそんな異端な部分を気に入ってくれてる。

凄くありがたい。


うん。

やっぱり、エンライ様となら死ぬまで一緒に生きていける。

腹も括った。

私はこれから もっともっと幸せになれる。

そう確信した。



エンライ様はお父様と急いで明日の集合時間や集める人の話し合いをして、あらかた決まったら直ぐに帰ることになった。

本来なら婚姻が決まった時点でこちらから手紙を早馬で出すべきなのだが、

エンライ様が

【俺が行った方が速い。ついでにぇとは思うが反対意見をねじ伏せてくる。】

とおっしゃったので、全てお任せすることになった。


本来ならリュールやお母様にも顔合わせをする方が良いんだけど、二人は未だに王子様をつかまえて話をしているらしい。

驚いた。すごい。

こんな時間まで、よく話が尽きなかったな。

ってか、リュールはお母様に同席してもらってるの?

ちょっと謎。



エンライ様はそろそろ出発なさるとのお話なので、玄関にて用意しておいたお土産を渡す。

ちなみに、王子様の分は無い。

私の婚約者様だけに私が個人で用意したのだ。

それはオッサン達の憧れの一品

《ジャムの詰め合わせ》

である。


それは私が研究し続けた努力の結晶。

イチゴジャム

マーマレードジャム

ブルーベリージャム

リンゴジャム

アンズジャム

モモジャム

と中々のラインナップであり、味も私が納得いく仕上がりとなっている。

だが、砂糖を沢山使う高級品である上に、まだ極秘のレシピとしているので、私以外に作れる人がいない、量産できない超稀少品なのだ。


瓶を見たエンライ様は不思議そうな、でも興味津々な顔をしていたので、簡単に説明して渡しておく。


「エンライ様、これは私が作ったお土産です。どうぞお持ち帰り下さい。中身は《ジャム》と言って、果物を加工した甘いペーストです。パンに塗って食べる品で、蓋を開けなければ常温で一週間はもちます。蓋を開けたら涼しい場所で保管の上、なるべく早くお召し上がり下さいね。」

という言葉と共に渡す。


エンライ様は

「おう。貰ってく。あんがとな。

・・・嬉しいもんだな。惚れた女に手土産持たされるとか。こーゆーのも悪くねぇな。

ってか、なあミーニャ、お前本当に10歳か?土産まで用意してるなんてよ。気が利きすぎだろ。実は15歳だったりしねぇか?15歳だったら直ぐに手ぇ出せるんだが。」

と照れながら受け取りつつも、真剣にとんでもない事を聞いてきた。


おいおい!

この人、目が本気だよ!

25歳が10歳にする話じゃないんですけど!

この人、本当に(おの)が道を行く人だな!

なんか、ドキドキさせられっぱなしで悔しいので、反撃しとこう。


「正真正銘の10歳ですよ。お土産は用意だけしておいて、気に入らない方だったら手ぶらで帰っていただこうと思っていましたから。お渡しするのはエンライ様だからですよ。王子様の分もありませんし。この意味、分かりますよね? 大人になるのが楽しみですね?」

と、顔が赤い事は承知しているが、笑顔で返事しておく。


エンライ様は10歳という言葉に一瞬肩を落としたが、その後の言葉に機嫌が良くなり、最後の言葉には真っ赤になった。


だからさ!

同じ様なことを言ってるのに、私以上に顔を赤くするのは止めてよ!

私だけが恥ずかしいこと言ってるみたいじゃない!

私が痴女みたいじゃない!

言ったことを後悔した。

反撃したつもりが、大打撃を受けた気分だ。

私もエンライ様も2人して真っ赤である。


周りの人達からの視線が生ぬるいものになった。

会話は聞こえていないみたいで、2人して突然真っ赤になったから、何か微笑ましいことがあったのだと勘違いしているらしい。

でもごめん。会話の内容はもっとハードなんだよ。


エンライ様は何度か咳をして、気合を入れなおしたのか


「ま、俺は全く気が利かないからな。俺には無い部分をお前が補ってくれんのはすげぇ助かる。これからも支えてくれよ?じゃ、また明日な、俺の嫁さん。」

と言って馬に乗り、颯爽と去っていった。


残されたのは、更に真っ赤になった私と、

最後の台詞が聞こえていたらしく、私に向けて微笑ましそうな笑顔全開のメイドさん達だった。

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