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成長と出会い。

ミーニャだけではなく、姉のリュールもまた成長に伴い変わっていった。


お互いに忙しい日々を送る中、5歳を過ぎた頃には2人はほぼ、会わない日々を送っていた。

お祝いの席、お呼びの席以外では会わない日々を過ごした。

理由は簡単。

二人はやる事成す事が正反対になり、住む場所も王都と領地に別れたからだ。


姉のリュールは淑女としてのレッスンに力を入れていた。

王都にある家で、毎日のように家庭教師を呼び、立ち振る舞い、マナー、国の歴史、お花、ダンス、お茶会の主催者としての心得、流行の研究、所謂(いわゆる)《王妃教育》を行っていた。

リュールの王妃様になる為の教育に母親は喜び、リュールに付き添うようになった。

常に傍に居て、王都でリュールと共に他の貴族の奥方様や子供達との親交を深めていった。


逆に、

ミーニャは領地の経営を知ることに力を入れていた。

領地にある領主の家で、領地の経営、領民の生活、王都と領地の歴史、魔法、剣、魔獣についての知識、魔具についての知識と開発、料理の研究を行っていた。

ミーニャの領地への関心に父親は喜び、自分の後を付いてまわるミーニャに様々な知識を叩き込むことになった。


ミーニャは、領主である父親と補佐のオッサンに様々なことを教えてもらいながら、新しい料理や新しい魔具を開発していった。

父親はその品々をミーニャの功績にしようとしたが、ミーニャは断固拒否した。

【自分が考案したとなれば、幼い自分など容易(たやす)(さら)われる。王家からの呼び出しもあるかもしれない。怖いので、お父様の秘密の部下の手柄にして欲しい】

と申し出た。

ミーニャが可愛い父親はそれを快諾。

王家にも見知らぬ(やから)にもミーニャを渡す気は更々なかった。

よって、

ミーニャが考案、開発した新しい魔具や料理は全て、当主である父親の名によって王様の許可を取り、ヌイール領の名物となった。

《最新の魔具や料理は全て、最優先で王族に手配する》=《開発者について余計なことは聞くな》

を王様に直接言いに行った父親の愛は凄い。


そして、王様公認の

【ヌイール家当主の《おかかえ研究者》】

が開発したと言われるそれらは、ヌイール家当主、及びそれらに(かか)わる直属の部下しか知らない極秘の品として管理された。

当然、リュールも母親もそれらにミーニャが関係してる事は知らない。


__________________


中でも、私が考案したブランデーケーキは騎士団や冒険者の方たちに大人気な商品だったりする。

日持ちがする食料はどの国でも大歓迎なのだ。

更に、この世界では驚くことに

【男たるもの15歳を過ぎたら甘いものは(しょく)さない。甘いものを食べるのは女子供である。・・・が、他家で出された甘味に関しては、礼儀として食べるべきである。まあ、苦手ならきちんとお断りを入れなさいね】

が暗黙のルールになっている。

何だかよく分からない決まりである。

食いたきゃ食えよ!

何の苦行なの?

誰得?

と言いたくなる。

が、男は何故か皆この暗黙のルールを守る。

他家で出された甘味以外は食べない。

ついでに言うなら、男が甘味を食さねばならないほど長い時間、他家でお茶をする事は少ないので、15歳を超えた男が甘味を食べられる機会がほぼ無いと言えば分かってもらえるだろうか。

なので、【日持ちのする携帯食として食べている】という大義名分が出来るブランデーケーキには騎士団や冒険者など、15歳を越えている男共に熱狂的なファンが沢山いる。


ちなみに、この世界では

甘味=砂糖を沢山入れたねっとりとした歯に付く驚くほど甘いお菓子

であり、なんだかよく分からないが、甘くてねっとりしてる。

砂糖をたっぷり入れることによって、高級感、裕福さを表しているそうだが、兎に角、甘い。

歯がしびれるくらい甘い。

その為、高貴な貴族の女性達は太ましい方々が多い。

さらには果物は生で食べる物であり、加熱するなんて発想は無い。

ただ、飾り切りや盛り付けに関する技術は素晴らしい。

それがこの国の基本である。


だが、私は今はその暗黙のルールを完全に無視している。

無視するに至った理由。

それは・・・・。

まだ私が6歳だった頃。


_______________


私が最初に甘いものを作った時、いつもの様に一番にお父様に差し入れに行った。

【お父様の《おかかえの研究者》が考案した料理】を領主の娘である私が作ってきたと公言して。


私が父親に内緒で試作したオレンジのマーマレード使った、マーマレードを塗っただけの歪な形の《オムレット》だったが、私がこの世界で初めて作った甘味だった。

私が料理の開発をしているのを知っているコックに相談して、あたかも試行錯誤している様に見せかけ、何とか作り上げた一品だったのだ。

だがしかし、その時は お父様が小隊を率いて魔物討伐の3日間の遠征から帰ってきた、まだ魔物討伐隊の皆が居る前だった。

当時の私は【男たるもの、甘味を~】なんて暗黙のルールの存在を知らなかった。

コックは私が食べるものだと思っていた。

一緒に着いて来た護衛は甘味だとは思わなかった。

そして事件は起こった。

いつもの様に、お父様に食べていただこうと満面の笑みで皿を差し出す私に対して、お父様が食べるのを躊躇(ちゅうちょ)したのだ。


私は泣いた。

ボロボロと涙を零した。

今まで、どんなに厳しく稽古をつけられても、どんなに痛い思いをしても、問題に答えられずにどんなに悔しい思いをしても泣かなかった私が泣いた。

人生初の号泣である。


「お父さまに食べていただきたくて、がんばった」

「お父さまが疲れているだろうから、甘いものを用意した」

「私は甘いもので幸せになれるから、お父さまにも幸せをと考えた」


と泣きながらに語った。

我ながら、子供みたいな内容だと思うが、

実際に父親を慕っていたし、魔物の討伐でも父親は無事に帰ってくると信じて、疲れたときには甘いものだ!と気合を入れていたのだ。


泣きながら心情を訴える私に、お父様は顔色を土色(つちいろ)にして呆然としていた。

皆が見ている中だった為、領主として無様な姿を見せる訳にはいかなかったのだろう。

オロオロとする事も無い代わりに、どうしたら良いのか分からず、まったく動けなかったようだった。

そんな中、子供を持っている小隊のメンバーがお父様に声をかけた。


「失礼を承知で申し上げます。お嬢様が、自らの手で、領主様の無事と幸せを願い作ってくださった甘味です。どうか、お召し上がりください。」


「私も失礼を承知で申し上げます。お召し上がりくださいませ。普段、あんなに領主様を尊敬し、自分の誇りだと明言なさるお嬢様が、領主様の為だけにお作りになられたのです。どうか、どうかお願い申し上げます。」

と、1人、2人と発言すれば、その輪はどんどん広がっていく。

みんなの心が一つになった。

【領主様、さっさとその甘味を食え】

と。


その雰囲気に気づき、我を取り戻したお父様は

【皆がそこまで言うのだし、娘の手作りだし、娘の想いが込もってるし、娘が俺の為だけに作ってくれた特別な品だし】

と、なんだか凄く面倒な言い方をしつつ、食った。

そして生地の軟らかさに驚き、卵とバターの香りとマーマレードのほろ苦い酸味、その美味さに驚きながらも、そのまま完食。

討伐隊の皆に労いの言葉をかけて、直ぐに帰宅した。


私は家に帰って直ぐ、お父様に抱き上げられ、褒められた。

【こんなに美味いものを作れるなんて!お前は天才だ!】

と。

それ以来、私は最新の設備の整った調理場で、様々な甘味を試作することを許可された。

勿論、【当主様の《おかかえの研究者》が考案した甘味】を

お父様への愛情を込めて《当主の娘》である私が作り、差し入れる甘味は討伐隊の公認とされ、

時々、討伐隊のメンバーへの差し入れに持っていくことも許される様になった。


むしろ、魔物との戦いに参加したオッサン達は我先に!喜んで!と甘味を食べていた。

男のプライドが邪魔をして、今まで食べたくても食べれなかった甘味。

15歳という年齢の制限によって別れを告げた、至福の味。

それがオッサン達にとっての甘味だったのだ。

だが、領主の娘である私が、領主である父親に甘味を差し入れし、同じものを少しだが皆にも配る。

それによって

【領主様のご令嬢様が差し入れしてくださった物を食べないのは失礼だ!】

と、オッサン達は大義名分(たいぎめいぶん)を手に入れたのだ。

そんな甘味に飢えた、お父様&オッサン達のために、魔物討伐の3日間の間に常温でも持ち運べる甘味を。

と考えて作ったのがブランデーケーキである。


そして今に至る。

私が作り出した物は、父親の提案で営業利益の4割を貰っている。

その一部は新しい商品の開発費としても使用してはいるが、私は既にかなりのお金持ちである。


後は、王子との婚約のフラグが完全に折れれば、私の未来は明るいぜぇ!!!!


_______________



双子の変化によって 回りを驚かせながらも過ぎていく月日。

2人は10歳になった。

周囲には


姉のリュールは正真正銘の淑女、優しい儚げな、自然を愛する純粋な美少女。


妹のミーニャは知識欲が強く、好奇心に溢れ、強く逞しい才女。


そう認識されていた。



そして、2人の10歳の誕生日会の当日。

遂にその瞬間がやって来た。


「皆様、本日は我が娘、リュールとミーニャの為にお集まりいただき、誠に有り難うございます。

今日は二人が10歳という節目であると同時に、皆様にお披露目したい事がございます。リュール、ミーニャ、皆様の前に。」


およ、呼ばれたわ。

いやー。ここまで本当に長かった。

私は名産品や魔具の開発者だし、既に領地経営はほぼ叩き込まれているから、お父様は私を手放せなくなっているはず。

これで私が伯爵家の四男との婚約で決定だな。

王子様との婚約のフラグはブチ折れていると見て間違いない。


と、考えていることを顔には出さず、微笑みながら父親の前にリュールと並ぶ。

久しぶりに見たリュールは最大の猫を被った、大人しい儚げな女の子になっていた。

本当に逆ハーを狙っているのだろう。

驚きの変貌ぶりだ。


そして父親から発表された


「ここにいるミーニャですが、この度、ツヴェイン伯爵家の次男、エンライ殿との婚約が決まりました。

そして、こちらのリュールですが、第3王子であらせられる、ソルエイ様との婚約が決まりました事をここにご報告させていただきます。」



って・・・・え?

あれ?

四男じゃないの?

なんで次男?

エンライ様って25歳だよね?

ダンジョン攻略や魔物の討伐で大活躍な戦闘狂の人だよね?

あれ?

四男って話じゃなかったの?

リュールを見てみると目を丸くして驚いていた。

【何で次男?ゲームと違うじゃない。・・ああ、ミーニャが変になったからバグったのか。フフフっ あんなオッサンが相手とか笑える】

って小さい声だけど聞こえてるよ。


なるほど。そうか。

本来なら四男のはずが、私が性格を変えたりしたせいで次男が相手になったのか。

まあ、馬鹿な脳筋からオッサン脳筋に変更されただけだし、そんなに気にしなくても良いかな。

私がやること自体は変わんないし。

なんて心の中で考えていたら


近寄って来る男が二人。

キラキラとしたオーラがある、サラサラな長い金髪で優しげに微笑んでいる美少年。

分厚い筋肉で短い赤髪、潰れた耳に鋭い目付き、口元がへの字に歪んでいる厳つい顔のオッサンに見える青年。


ありゃー。

見た瞬間に分かるね。

キラキラの美少年が王子様

厳ついオッサンがエンライ様。


王子様はおそらく、

【王子様だし顔も極上だから、女の子にモテるのが当然で女の子の扱いには慣れている。】お方だと思われる。


そして、エンライ様は

【何で俺がこんな小娘と婚約せにゃならんのだ。女は面倒だから好かん】と考えている方だと思われる。

表情に全部出ちゃってるから。

エンライ様。


うむ。こうして見てみると正反対な二人ですな。

並べると凄い違和感。

あ、こっちに来た。



リュールの隣に立つ美少年な王子様。

私の隣に立つ厳つい顔のエンライ様。


並べられた二組の婚約者達に視線が突き刺さる。

勿論、女性の目は王子様へ。


リュールは王子様にメロメロだろうな。

だが、そろそろ私の様子を確認する頃だろう。

リュールなら絶対に私の方を見る。

優越感に浸った顔で、キラキラの王子様と伯爵家の次男でオッサンのエンライ様の差に本来なら真っ青になっているだろう、私を見る。


が、私はリュールなんか見てない。

私はエンライ様を見るのに忙しい。

照れた様に、頬を赤く染め、微笑みながら見つめるのに忙しい。


だってエンライ様、よくよく見てみると、私好みの男なんだもの。

四男の顔は知らないけど、この人、すごく好みの顔だよ。

この人で良かった!とガッツポーズしたいくらいには。

うん。ごめん。

この場の空気には合わないと思うんだけど、

ムハー!!!!

オッサン来たーーーー!!!!

ってテンション上がってます。


エンライ様のこの態度、多分だけど

【女はお喋りで煩くて、見栄っぱりで酷く金がかかる生き物で剣の邪魔をする存在なのに、何故、俺が婚約者にならなければならんのだ!】

ってな事を考えてそう。

たまらんね!

女嫌いの男が婚約者とか、萌えるわぁ!

ああ!こんなに逞しくて男くさい、ゴツゴツとした厳つい脳筋野郎が私の旦那になる人だなんて!

幸せじゃないか!!

と、私は1人、心の中でテンションマックス!!


リュールを始め、周囲の人々は私の《恋する乙女》な表情を見てポカーンとしている。

【え?どこに惚れる要素があったの?】

みたいな視線を感じるよ。

お父様からも何だか不安そうな視線を感じるよ。



が、私はそんな事は気にしない。

エンライ様は女は煩くて好かないと考えている人だと思う。

だから、声は抑えて大人しく

「エンライ様、どうぞよろしくお願い致します。」

この一言だけにしておく。

余分な言葉は喋らない方向で行く。


エンライ様は

「ああ、こちらこそ、よろしく頼む。」

と言ってくれたので、目を合わせて微笑み、頭を軽く下げておく。

そして、そのまま前を向く。

お祝いの言葉をかけて下さる方々に挨拶をしながらも、

時々、思い出した様にエンライ様を見つめて、目が合えば嬉しそうに微笑む。

これを繰り返す。


エンライ様は驚いた表情をしていた。

あのままマシンガントークが繰り広げられると思ったのだろう。

現に隣ではリュールが他の方々への挨拶もそこそこに、気合いを入れて王子様にマシンガントークをかましている。


エンライ様はそんなリュールと私を見比べて、ホッと息を吐いた。

うむ。

リュールよ、生まれて初めていい働きをしてくれた!ありがとう!

《やかましい女》の見本を目の前で見せつけてくれてありがとう!

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