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エンライ様の部下君の話。

この話はミーニャとの婚姻を決めてきたエンライ様が、私兵団の皆を集めた時の、私兵団の中でもまだ若い方に分類される青年のお話です。

気が向かない方は読まなくても大丈夫です。

俺の名前はグニカ。

エンライ様の私兵のうちの一人だ。

俺は隊の中で若い方なのだが、エンライ様には特別に目をかけてもらっている。


勿論、それには理由がある。

俺が【不思議な体質】の持ち主だからだ。

生まれつきの体質なのだが、

簡単に説明すると、俺は二択の時、片方に強く惹かれる。

それが【良いモノ】であろうと【悪いモノ】であろうとだ。

分かるだろうか?

強く惹かれた方に行けば、

金塊を拾うかもしれない。

が、ドラゴンに出会うかもしれない。

この紙一重さは実際に体験してみないと理解してもらえない。

俺は昔からこの《不思議な体質》を理由に様々なパーティーに誘われた。

強い魔獣を狩れれば、手に入れられる金は多く、名声も得られる。

だから、俺を使って様々な手柄を手に入れようとする奴らが寄ってきた。

しかし、俺が惹かれる先にいる魔獣はそれなりの強さになる。

その強さに対応できない人間の場合、最悪は死ぬことになる。

毎回そんなんだ。

金塊を拾う事も、高価な魔石をゲット出来る時もある。

その反面、強い魔獣に会えば組んだパーティーの人間は半分が死に、半分が重傷を負う様な状態。

そのせいで、俺についたあだ名は《死の選択者》になり、徐々に俺は孤立した。


しかし、エンライ様に誘われ、今の私兵団に入ってからは状況が一変した。

今まで俺や周囲が【悪いモノ】と判断していた強い魔獣はエンライ様にとっては雑魚だった。

エンライ様にとっては【金になる良いモノ】だった。

おかげで、仲間が死ぬことも無くなり、エンライ様の私兵団では沢山の友人ができた。


エンライ様は金塊を拾うより、魔石を手に入れるより、強い魔獣に引き合わせる方を喜ぶ。

笑顔で【お前が入ってから強い奴と戦える機会が増えて嬉しいぜ。】って言われたのは今でも忘れない。

俺の本当の居場所が出来たようで、嬉しかった。


そんな俺とエンライ様には暗黙の了解がある。

それは、俺が強く惹かれる方向でも、エンライ様が【却下だ。】と言えば、そちらには絶対に行かないという事だ。

エンライ様が【大丈夫だ】と言えば、倒せる相手か宝石の類がある。

が、却下だと言った時は本当に駄目な時だ。

そこには本当に危険な物があるから。

そちらに行くくらいなら引き返す方を選ぶ。

エンライ様の猛獣の様な勘の鋭さは俺の能力と相性抜群だったのだ。


拾って貰ってから早数年、俺は今でもエンライ様を世界で一番尊敬している。

この人の元で死にたいと思っている。

そんな人の傍で働けることは本当に有り難い事だ。

と、まあ、今は俺の事はおいておいて。



今、俺達、エンライ様の私兵団はツヴェイン家に集まっていた。

エンライ様からツヴェイン家へ召集がかかったのだ。

深夜の緊急招集だったが、私兵団のほぼ全員が集まっているところを見ると、エンライ様の人徳が目に見えて分かる。


エンライ様は思いついたら即行動の人。

いつもとんでもない事を言い出すので、俺は今、ハラハラしている。

しかし、古参の方々ともなると【いつもの事だ】と、欠伸をする余裕まであるらしい。

【今からダンジョン潜るとか言い出すかもだろ?オレ、武装してきたぞ。】

【旅に出るかもしれんから、旅の用意を一式持ってきたぜ。】

【俺、酒飲んで来ちまってんぜ。どーすっかなー。】

なんて笑いあっている。

すごいよな。

俺もあれぐらい余裕のある男になりたい。

なんて考えていると、上機嫌な様子のエンライ様が現れた。

すると、即座に全員が隊列を組み、頭を下げる。

エンライ様に対する尊敬、忠誠は厚い。

そんな皆がエンライ様に注目する中、エンライ様は口火を切った。


「おー。急な呼び出しすまんな。お前ら。待たせた。で、呼び出した理由なんだが、俺は明日婚姻することになった。んで、ミーニャ、、婚約、いや、明日には嫁さんになる女と一緒に来週にはヌイールに行こうと思っている。」


・・・・。

ん?

何だって?

何が何だか分からないぞ?

婚約者?ヌイール?

何を言ってるんだ?

突然の事に俺は理解出来なかった。

が、古参の方々には理解出来たんだろう。


「おい、クソガキ。順を追って話せ。お前の婚約話事態が初耳のやつもいるはずだ。」

と、一言を言ってくれたおかげで、詳しく説明してもらえた。


簡単にまとめると、元は嫌々な婚約だったが、今日初めて会った相手をとても気に入ったので、他の男に取られるのを防ぐ為に、明日婚姻することにした。

あまりにも好ましい女なので、他の男が寄らないように最大限の警戒をしつつ直ぐにでもヌイールへ共に行く。

エンライ様はヌイールで骨を埋めるつもりだと。

私兵団の中でエンライ様について行くやつはヌイールに連れて行く。

残りたい奴はツヴェイン家で契約続行可能。

エンライ様は来週ヌイールへ出発する。


って・・・。

おいおいおいおい。

んな無茶な。

婚約の話も今、聞いたばかりだったのに、突然、ヌイールに着いて来いって・・・。

相変わらず、この人は突然だな~。

普通、婚約発表の日に婚姻の話を決めて、しかも翌日に婚姻の儀を行って、来週には相手の家に婿入りするか?

かなり強引な押しかけ婿じゃないか?

大丈夫なのか?

相手の御方の了承は得ているのだろうか?

そう疑問に思いつつ、俺の心は既に決まっている。

エンライ様は

【俺は一人で生き、死ぬ。嫁も子も持たない。】

そう宣言していた人だったのに、覆すなんて、よっぽどいい女だったんだろう。

ま、俺としては、エンライ様が幸せなら相手は誰でも良い。


良し!

俺には両親はいないし、先日、彼女に浮気された上にフラれたばかりだ。

友人は全て私兵団の中にいる。

ヌイールに行ってからでも会おうと思えば会える。

俺はエンライ様について行く!!

そう言おうと思ったら、


「あー、忘れてた。来週連れて行くのは何人かの《オヤジ共》な。他の奴らは一月後に隊列組んで勝手に来い。受け入れ態勢を用意する時間も必要だからな。あと、必要な時以外、俺の嫁に会わせるのはオヤジ共に限定する。俺の嫁の護衛はオヤジ共に任せるぞ。俺と殺し合えるオヤジ共なら護れるだろ。年齢的にも問題なさそうだしな。つー訳で、この地に未練がねぇ奴らは俺について来い。ヌイールは魔獣の山だぞ。たまんねぇな。」

って、ギラギラとした目で楽しそうに笑っているエンライ様。


どうやら、来週は家族のいない古参の方々だけを連れて行くらしい。

あの方々は、エンライ様を叱ることも出来る素晴らしい方々だから納得だ。

多少御歳を召されている方々が多いが、古参の方々は未だに現役。

俺みたいな若手なんかより強い。強い。強い。

エンライ様が《オヤジ共》とお呼びになる方々は、若手全員を護りつつも、エンライ様の破天荒な動きと指示に対応しながらダンジョンに潜れる方々の集まりなのだ。

俺達の様な弱い足手まといがいなければ、エンライ様と共にドラゴンでも狩れる方々だという噂もあるくらいだ。

正直な話、王様を護るべき国軍よりも強いんじゃないかと思ってる。

そんな古参の方々に護られる、エンライ様の奥方様って・・・。


俺達が行けるのは一月後。

この地に嫁さんやら子供がいる人たちは悩んでいるらしい。

ついて行きたいけど、ヌイールは他と比べて魔獣が多い地域だ。

不安もあるだろう。

一部は残るかもしれないが、他はついて行くと決めたらしい。

溜息を吐きつつも【俺は行く。】なんて目を輝かせている奴らの多い事。

本当に、ここは俺を含めて、エンライ様を心から慕い、魔獣退治に人生をかけてる脳筋野郎共の集まりだよ。


俺は参加の意思を伝える為に、エンライ様の元へ急いだ。

若造が参加しても良いか聞いた方が良いかもしれないからな。


「エンライ様!俺、行きます!エンライ様について行きます!」


すると、エンライ様は俺の顔をじっくりと見て、


「・・・・。あー。グニカか。んあー。連れて行きてぇけどな・・・・。お前、歳はいくつだっけ?」


って、なんで年齢?

というか、この流れって断られるんじゃ!?

俺は必死に、《行きたい!!》という雰囲気を全力で出した。


「行きたいです!20歳です!若造ですが、行きたいです!ついて行きます!」

俺の全力を感じ取ったのか、エンライ様は少し悩んで


「んあー・・・・。なあ、10歳。10歳の女をどう思う?」


って、何だそりゃ。

突然なんなんですか?

なんでそんな質問を?

思わず、そんな気持ちが声に出た。


「は?女の子?」


すると、エンライ様は魔獣でも狩りそうな真剣な顔で


「10歳の女だ。惚れる可能性はあるか?少しでも。気の利く早熟な10歳の女だ。どうだ?惚れるか?どうだ?」


って、何を言ってんだこの人。

俺の歳で10歳の女の子を好きなんて、ロリコンだろうが。

良く分からないが、エンライ様に嘘は通じない。

だから、正直に言おう。

もし駄目でも、俺は引き下がらないぞ!


「10歳の女の子はガキです。早熟でも見た目が10歳ならガキでしょう。10歳は男女同じ感じのガキに区分されますよ。そもそも、俺は熟女マニアです。出来れば、40歳以上を紹介して欲しいです。」

と、言わなくて良い事まで話した直後


「よし、採用。連れてくわ。来月、ヌイールに来い。お前には期待してるからな。今後も宜しくな。」

と、即答された。


決まった。

俺はヌイールに行ける。

今後もまだエンライ様の元で働ける。

嬉しい。

けど、何だったんだろうな。

あのやり取り。

本当に必要なやりとりだったのか?

少し不安が残る。


俺の他にも、その場で行くと決めた奴がほとんどで、残ったのは家族持ち。

そいつらも【家族に相談してから、俺一人で行くか家族も一緒か決める】と言っていた。

その後、全員に質問を終えたエンライ様が数人を連れていなくなった。

皆も俺と同じ質問をされたらしい。

皆、何が何だか分からない状態だったが、

連れていかれたのは、極僅かなロリコン趣味の奴らだった。

戻ってきたロリコン野郎共は、【とある契約書】にサインをしたらしい。

何度聞いても内容は教えてくれなかったが、そいつらの顔色は土色だった。



そいつらの顔色の意味、質問の意味が俺達にも何となく分かったのは一月後。

ヌイールの地でエンライ様の隣に立つ、柔らかく笑う少女を紹介された瞬間だった。



あの質問の時、俺の心の声

【俺の歳で10歳の女の子を好きなんて、ロリコンだろうが。】

を言葉にしなかった自分を褒めてやりたい。

他の奴らも冷や汗で真っ青になっていたので、皆、俺と同じ心境だろう。


エンライ様に促されて、ニコニコと大輪の薔薇が花開く様な笑顔で俺らに挨拶をしてくださる《エンライ様の奥方様》と、幸せそうな笑顔のエンライ様を見て、

奥方様がエンライ様に出会って下さって良かった。

そう思った。

その晩、エンライ様の私兵団のメンバーで宴会になった。

魔獣を殺す事に全てをかけている様な、人生を生き急いでいる様な

ギラギラとしたエンライ様が、幸せになれる事を皆で祝った。

これからはエンライ様とエンライ様の奥方様のお二人を支えられるように、魔獣討伐を頑張ろう!と、皆で乾杯した。


この時の俺達はまだ知らなかった。

エンライ様が実は《とても嫉妬深く》

奥方様と会話をすれば【何を話したのか俺の目を見て全て報告しろ】と言ってきたり、

奥方様に名前を憶えてもらえば【名前を呼ばれるようになった経緯を報告しろ】と詰め寄って来たりする、面倒な男だという事を。

人前でも気にせず、奥方様とイチャイチャする男だという事を。

奥方様を大事にし過ぎて時々空回りし、落ち込む様な姿を見ることになるという事を。

奥方様の父親と、領主補佐のオジサンと奥方様の事に関して口喧嘩して負ける姿を見る事になる事を。

そして、そんなエンライ様を慕い愛していらっしゃる奥方様の幸せそうな笑顔を見る日々を過ごすことになるとは、思いもしなかった。


独り身の男には辛い日々の始まりである。


それでも、俺達のエンライ様を尊敬し、一生ついて行く気持ちに変わりはない。

人間味のあるエンライ様もまた良いのだ。

本当に幸せそうなエンライ様と奥方様を見守り、ヌイールの地を護っていくのが、我ら魔獣討伐隊の幸せなのだ。



・・・・・。

このヌイールの地でも俺の《不思議な体質》は大活躍である。

魔獣討伐の時なんかは俺の体調に合わせて日程を組んでもらえるほどである。

そんな【良いモノ】【悪いモノ】に惹かれる自分だが、

ヌイールの領主館内での《不思議な体質》の発動は本当に勘弁してほしい。

勝手に領主館内を歩く訳にもいかず、指定の場所で立ち止まっていると強く惹かれる方向から必ず現れる。


【エンライ様の奥方様】


この御方が、俺の一番の難敵である。

これは時々なのだが、奥方様がお作りになられた、持ち歩き出来るお菓子の【型崩れ作品】をいただくことがあるからだ。

最初にいただいた時、俺は自分の人生に終止符が打たれた気分だった。

あの嫉妬深いエンライ様に知られれば、死ねる。

そう思った。

奥方様としては

【俺の歳が一番奥方様に近く、頼みやすい事】と

【エンライ様と年齢が近いので味覚も似てる、改良して最高のものをエンライ様に渡したい】と

【形が崩れてしまったからエンライ様には渡したくない】という、

可愛らしい乙女心から、何とも思っていない俺に渡されるのであるが・・・。

俺としては、例え失敗作だとしても、エンライ様に渡してあげてほしい。

最初の時、パニックになりつつも、そう申し上げた。

が、、、、

【もう少し改良したいから感想をお願いします。】

と、渡されてしまった。


その時の俺は、自分の人生に終止符が打たれた気分だった。

走馬燈が見えた。

が、奥方様が去った直後、強く、強く、強く惹かれる方向があった。

これは!!!!!!!

と、思い、俺は走った。

今までで一番の走りを見せただろう。

強く惹かれる先にいたのは、エンライ様!!!

この強い惹き!!!!!!

間違いなく、ラスボスに匹敵する御方だ!!

エンライ様は俺が領主館内を爆走したことを怒ろうとしたが、俺はその声を遮った。


「奥方様からの贈り物です!!!!!!!」


俺は奥方様に心の中で謝罪をし、経緯を説明。

型崩れのお菓子をエンライ様に進呈した。

勿論、経緯の中には【型崩れした不格好な物を大好きなエンライ様に渡したくない。という、可愛らしい乙女心があって、俺に処分役が回ってきた。】という事もきちんとお伝えした。

更に、畳みかける様に


「もし、これがエンライ様の目に触れたと知れば、奥方様は悲しむかもしれません。ですが!!自分はエンライ様の幸せを願う者であり、このお菓子は自分の口に入るべきではありません!!これは、本来ならばエンライ様のお口に入る為に、奥方様が愛情を込めてお作りになられたのですから!!」

と、熱弁した。

殴られるかもしれないと思ったが、エンライ様の反応は違った。


「良い判断だ!!」

エンライ様は俺の頭をワシワシと撫で、そっとお菓子を受け取り、その場でお一つ、お召し上がりになった。


「美味い。もう少し硬い方が持ち運びしやすいな。そう伝えろ。次からも持ってこいよ。」

そう言って、壊れ物を扱うかのように、大事そうに愛おしそうに、お菓子をポケットに仕舞って、鼻歌と共に去っていった。


それ以来、俺は恐ろしいほどの奥方様との遭遇を経て、エンライ様へのお菓子届役をこなしている。

そんなこんなで苦労も多いが、毎日楽しく仲間と一緒に暮らしている。

ヌイールに来て、いや、エンライ様に着いてきて本当に良かった!!



はい。

今回のお話的には、《オヤジ共》と呼ばれる方々は強いんだよー。

ってことです。

以前、ワイバーンを倒した話もしてましたが、あれも全員で戦ったわけじゃありません。

《オヤジ共》は別行動です。

というか、私兵団には人数が沢山いるので、数人でパーティーを組んでダンジョンに潜ってます。

その時に各パーティーのリーダーがオヤジ共になると。

でも、巷では割と大人数で倒してるって情報が蔓延してたらいい。

エンライ様の私兵団もそこまで強くは無い(他より一歩進んでる)って認識だったらいい。

でも、実は最小戦力で最小限の怪我で終わらせてます。

というか、エンライ様が倒した中でワイバーンが最強じゃないです。

国に報告してないだけ。

国軍に勧誘されるのも面倒だし、私兵団は自分を慕ってる人間ばかりなので口止めしてます。

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