なんでお前が!!
今、目の前で起きている事が理解できない。
私はあの後、何の問題も無く宿に帰り、眠りについたはずだ。
そして、迎える、清々しい朝。のはずが・・・・。
私は眠い目を擦りながら、寝間着のまま補佐のオッサンに抱えられて、
お父様が寝ているはずの部屋に連れていかれた。
「で?」
お父様の為にとった宿の一室で、朝から不機嫌なお父様の声が響く。
補佐のオッサンは口をポカーンと開けて、私を抱えている。
そんな状況の中で言葉を返してきたのは、
「ハハハハ、やはり怒ってらっしゃいますか、ヌイール侯爵様。」
「ハハハ、そりゃ怒りますよね。申し訳ない。」
と、苦笑しながら、少し居心地が悪そうなオジ様方。
そう、この四人は先日、エンライ様が連れてきたオジ様達です。
なぜこの方々がここに?
というか・・・・。
「怒るのは当然だ!なんでお前がここにいるんだ!エンライ!!」
お父様の怒号が更に響く。
そう、なんと!
オジ様方を引き連れているのはエンライ様!
なんで?
一カ月後、領地に来るんじゃなかったの?
しかも、その後も二日間の接近禁止令じゃないの?
何でここに?
私もオッサンも驚きが大きすぎて、反応できないんですけど。
そんな私達を置いてけぼりに、
エンライ様は
「約束は守った。二日。ミーニャには近寄らなかったからな。」
と、ニヤリと笑って言った。
あ、その顔、悪戯が成功した子供の様で可愛いです。
ニヤリって笑うの良いなぁ。
可愛い。
なんて惚れなおしてると、お父様が反論する。
「いや、いやいや、待て。領地に来るのは来月で、その後、2日間、ミーニャに接近禁止だろうが。何を言ってるんだ。お前は。」
お父様は怒っているが、かなり混乱してるらしい。
「んあ?ちげぇよ。俺は【2日間、ミーニャに近寄らない、触らない。】という約束をしただけだぜ?来月だの、領地に到着してからだのなんだのと、そんな約束はしてねぇだろ。」
と自信満々なエンライ様。
お父様は目を見開いて
「いや、待て。俺は最初、【来月、ヌイールに到着してから二カ月、ミーニャに近寄るな】って言ったはずだ。その流れから言って、その約束は【来月、ヌイールに到着してから2日】になるだろう。」
と返す。
すると、今度は驚いた顔のエンライ様が
「はあ?俺は最初っから、【2日間、ミーニャに近寄らない、触らない。】って条件だけで話を通してただろうが。っつーかよ、俺は最初っから、この旅についてってヌイールに行くつもりだったんだぞ?今更、何を言ってんだ?」
と返した。
うん?
なに?どういうことなの?
私にはチンプンカンプンなんですが。
そう思っていると、お父様が話を纏め始めた。
「あ゛~、そうか・・・・。まず、お前は俺達が出発する日に、そのまま俺達と一緒にヌイールへ向かうつもりだったと。あの時、そっちの護衛が俺に、エンライ、お前の護衛としてヌイールに行くって言ってたが、あれは来月の為の顔合わせじゃなくて、あのまま同行するからよろしくって事だったのか?そうか。それを先に言え、馬鹿野郎。んで?あの騒動で一緒に来るのを断念して、お前の考える約束の二日後の今日、現れたと。そういう事か?
なあ、これはお前との最終的な約束をする時に《来月、ヌイールに到着してから》という言葉を付けなかった俺が悪いのか?」
と聞くお父様。
勿論、エンライ様は間髪入れずに頷いた。
成程。私的にまとめると。
来月なんて言わず、ミーニャ達と一緒にヌイールに行っちゃおう!
護衛にはオヤジ共4人を連れていけば良いだろう!
領主に挨拶もさせたし、完璧!
やっべ!ミーニャを気絶させちまった!
ペナルティで二日間近寄れない。
しょうがない。出発は見送ろう。
・・・・・。
二日後の早朝に会えるように、馬で後を追おうぜ!
見つからないように、近寄りすぎないように!
よっしゃ!約束の日の朝だ!会いに行くぞ!宿に行くぞ!
で、早朝からお父様の部屋にいらっしゃってると。
こんな感じですかね?
エンライ様と目が合ってるし、お話したいんだけど、お父様の様子とオッサンの様子から、動くに動けない。
エンライ様も下手に突きたくないのか、私の方を見ているけど、まだ言葉は発してない。
ちゃんとお父様から許可をいただくつもりなんだと思う。
んだけど・・・。
お父様が頭を抱えて下を向いてるんですが。
話が進まないよ~。
どうするの?
こんな時は、やはりこの男。
期待を裏切りません。
「あ~、まあ、来ちゃったもんは仕方がないと思うんで、取りあえず、朝ごはんでも食べながらお話ししましょう。今日は早いうちにここを出て急がないと、次の宿に着くのが夜中になってしまいますからね~。さあさ、領主様も、一度切り替えて、朝ごはん。朝ごはん。」
と、ゆる~い発言と共に私を抱えたまま部屋を出て行こうとする補佐のオッサン。
咄嗟にエンライ様が手を伸ばしたのが見えたけど、
「お嬢様はまだ寝間着ですからね。きちんと着替えてからでないと。」
と補佐のオッサンが釘を刺すかの如く発言したため、引き留めることも無く、手を引っ込めた。
その姿を見ながら、私は退出。
兎に角、急いで着替えて、エンライ様に先日の謝罪をしないと!!
____________________
ミーニャが退室し、目の前にいるエンライの足を見ながら考える。
本当になんなんだ、この男は。
毎度毎度、俺の考えの斜め上を行く。
まあ、今回の件では、きちんと詳細を決めなかった俺も悪いと納得するしかないが。
道中はエンライ達が居たほうが安全であることも確かだしな。
今日から同行させよう。
ま、俺とミーニャの馬車には乗せてやらんがな。
お前は自分の馬で走ってろ。
それよりも、聞いておかねばならないことがある。
「で?昨日の視線はお前か?」
エンライに視線を向けて聞いてみる。
昨日、ミーニャと悪友と共に外出した際、何度も視線を感じた。
こいつらが遠くから見ていたのなら納得できる。
「ああ、その件な、正しくは俺らじゃねぇ。俺らも居たけどな。とある奴らがミーニャを見てて、俺らは遠くからそいつらを見てた。そいつらはミーニャを狙う人攫いの団体さんだった。ミーニャみてぇに可愛くて大事にされてる子供を誘拐する専門の奴らだ。溺愛してる親から金を毟って、返さずに高値で売り払う。最低だよなぁ。屑野郎共だよなぁ。ゴミだよなぁ。ああ、安心して良いぞ?もう存在しねぇからな。ミーニャを狙うなんて馬鹿な奴らだよなぁ。たかが30人程度で、俺のミーニャを攫おうとするなんてなぁ。馬鹿だよなぁ。ああ、ミーニャを一日中見てやがったんだだからよ、目でも抉ってくるべきだったか?いや、もう二度と会う事もねぇし良いか。」
目をギラつかせながら語るエンライに寒気がしたのは気のせいだと思っておこう。
「・・・そうか。お前が未然に防いだんだな?・・・あいつらがどうなったのかは聞かない。ミーニャを護ってくれた事には礼を言う。ミーニャの為に動くお前には感謝してる。」
ああ、感謝はしてる、してるさ。
こいつはきっと、ミーニャの不利になりそうなことはしないだろう。
今回の事もきっと、他の奴らにはバレないように処理してあるはずだ。
ミーニャの為に鬼になれる男。
これがこいつの危うさを分かっていながらもミーニャとの婚姻を許した理由でもある。
「ああ、構わねぇよ。俺のミーニャを長時間見てただけでも罪人だろ。しかも誘拐となりゃ、俺が相手してやるしかねぇだろ。な?」
「そうだな。俺の可愛いミーニャを誘拐しようとするなんて罪人だな。」
「おい、オヤジ。あんたのじゃねぇ、俺の、俺のミーニャだってーの。」
「いや、俺の愛娘のミーニャだ。」
「いやいや、ちげぇっつーの!!夫婦だぜ!?俺の嫁のミーニャだって!!俺の!!俺の!!助けたのも俺だからな!あんたがミーニャと遊んでる間にミーニャの為に悪者退治したのは俺!」
「お前の嫁になってもミーニャはずっと俺達の娘だ!それに遊んでたわけじゃない!確かに、そいつらを倒したのはお前だが、俺達だって存在に気付いていたし、周囲を固めてたぞ!俺達だってミーニャを護ってた!!」
「おいオヤジ!!感謝してるんじゃねぇのかよ!張り合うのかよ!」
「感謝はしてる!してるが!!ミーニャは俺達の娘だぁぁぁぁぁ!!」
「俺の嫁だ!!!!!」
「だああああああ!!エンライ!お前と話してると貴族としての言動が吹っ飛ぶ!!こんなところをミーニャに見られたらどうしてくれる!!俺が築き上げた【素敵なお父様像】が!!【渋くてカッコ良くて頼りになるお父様像】が崩れるだろうが!!」
「はあああ??知るか!俺だって、もっとカッコよく見られてぇよ!!こんなガキみてぇなとこ見られてたまるか!つーか、オヤジよ!!あんた、俺とミーニャの婚姻に賛成だったんじゃねぇのかよ!!ついこの間までは俺の言動に呆れてただけだろうが!!たいして反対もしてねぇだろうが!!なんで今更、張り合ってんだよ!!」
「煩~い!!婚姻を認めた時も、婚姻の儀の時も、馬車で靴を履かせた時も、俺は我慢してたんだ!!ミーニャが目の前に居たから、必死に耐えたんだよ!!俺はヌイール家の当主として、ミーニャの父親として、【器が大きい、寛大な男】を演じてただけだ!!お前との婚姻が決まった日には泣いたんだぞ!!枕をボッロボッロに切り刻んでやったわ!!目ん玉に突っ込んでも痛くない位、可愛がってきた娘を取られる悲しさが分かるか!?徐々にショックが大きくなるんだよ!!しかも、お前と会話をするようになってからはミーニャの前でも素の俺が出てくる、出てくる!!言葉使いもだ!ちくしょう!!」
「オイオイ!全然、俺達の仲を認めてねーじゃねーか!!俺のせいにしてんじゃねーよクソオヤジ!!」
「誰がクソオヤジだ!このクソガキが!!勘違いするな!俺はお前を認めてる!!お前がミーニャを世界で一番愛する男な事も、ミーニャを護れる男な事も、ミーニャが愛した男な事も認めている!!が!!俺は父親として特別枠だからな!!一生物だからなぁぁぁぁ!!」
苦笑いしているエンライの部下には気付かず、俺とエンライの叫びは暫く続いた。
_____________________________
俺だ!俺だ!
と騒ぐ声が聞こえるドアの前で
入るタイミングがつかめないのですが、どうしたら良いですか?
お互いのミーニャだって言い始めた辺りから聞いてるんですが。
お父様、聞こえてるよー。
私、お父様のそんな姿もちゃんと知ってるのよー。
だから、無理に【素敵なお父様像】を作らなくても大丈夫よ~。
常に格好良くあろうと頑張るお父様も可愛くて大好きだけどね。
まあ、枕をエンライ様に見立ててボロッボロにした件は聞きたくはなかったけども。
エンライ様も充分素敵ですから。
もっとカッコよく見られたい!なんて、可愛いんですけど!
もっと良いとこ見せたいぜ!みたいな感じ?
可愛い事この上ないよね!
にしても、私、狙われてたんだ・・・・。
知らなかったよ。
お父様とオッサンが傍にいたし大丈夫だとは思ってたけど。
きっと、昨日、寝る時にオッサンが傍にいたのは私を護るためだったんだろうなぁ。
護ってくれていた、お父様とオッサンにも感謝しないと。
勿論、悪者退治をしてくれたエンライ様達にも。
「お嬢様、ここは聞かなかったフリをしてあげましょう。エンライ様には男としての意地、領主様には父親としての意地があると思いますから。ね?」
手を引くオッサンに笑顔で言われて、頷くしかなかった。
「お嬢様の御着替えが終わりましたよ。さ、朝食も運ばせますから、さっさと席についてください。」
オッサンが声をかけながら室内に入っていく。
すると、声がピタリと止まった。
更に、
「おい、オヤジ。この前は悪かった。んで、もうミーニャに近寄っても良いだろ?隣の席でいいだろ?なあ、俺、二日も我慢してんだぞ?隣で良いよな?」
と、エンライ様はお父様に話しかけつつも、返答を聞く前に椅子を自分の真横に持ってきて、私を持ち上げた。
お父様はため息を吐き、
「はぁ、ああ、もういい。好きにしろ。ミーニャ、傍にいる事を許すから、そんな目で私を見ないでくれ。」
と、エンライ様と私の前に座る。
そんな目って・・・。
ああ、お願いする時と同じような顔になっていたのかな。
私もエンライ様の隣に座りたかったし。
兎に角、お父様からのお許しがでたのなら、エンライ様にご挨拶しないと!
先日の謝罪に、それから悪者退治の感謝も!!
「エンライ様!おはようございます!お会いしたかったです!来てくださって嬉しいです!先日は挨拶も無に出発してしまい申し訳ございませんでした。あと、あと、昨日は悪者を退治してくださったんですよね?ありがとうございます!御怪我はございませんか?」
言いたいことがありすぎて、いっぱいいっぱいになった。
「っはは!落ち着けミーニャ!俺も会いたかったぜ!お前を護るのは俺の役目だからな。気にしなくていい。ケガなんざしてねぇから安心しろ。・・・・オヤジとオッサンもミーニャを護ってくれてたらしいぞ。ウチの老兵共も頑張ったからよ、労いの言葉をかけてもらえると助かる。」
私を抱きかかえたまま、頬を撫でてくれるエンライ様。
「そう言っていただけて嬉しいです。お父様も、第二のお父様も、エンライ様の護衛の方々もありがとうございました。皆様のおかげで私は怖い思いさえすることなく、安全に夜を過ごせました。」
お父様と補佐のオッサン、エンライ様の護衛のオジ様方にお礼と共に頭を下げる。
「いや、お前を護るのは当然だ。俺の義務だからな。」
と、キリッとした顔のお父様。
「いえいえ、お嬢様を御守りするのは私の幸せですからね。これからも私の働きに期待してください。」
と、嬉しそうに微笑む補佐のオッサン。
【はっはっは、ミーニャ夫人がご無事でなによりです。】
【ミーニャ夫人に何かあれば、このクソガキが大変な事になっていたでしょうなぁ。】
【我らの平穏はミーニャ夫人にかかってるんですぞ。当然です。】
【貴女の様な素敵なご婦人を御守りする役目につけた事、有り難い。】
それぞれ、好きに語るオジ様方。
「・・・おい、もういいだろ。飯にしようぜ。」
皆で笑っていると、エンライ様は私を隣の席に座らせた。
和気あいあいとした雰囲気をぶった切った、エンライ様の突然の行動に驚く私とお父様と補佐のオッサン。
それに対して慣れているのか、
【嫉妬か。】
【ああ、俺達がミーニャ夫人と話してるから拗ねたんだろ。】
【相変わらずの気の短さ。】
【坊のこんな姿が見れるとは。槍が降るか?】
と、笑うのはオジ様方。
「うるせぇ。余計な事言ってねぇで、さっさと飯にすんぞ。」
と、エンライ様はご不満の様子。
嫉妬?
私がオジ様方と談笑していたから?
それが本当だとしたら・・・・。
私、かなり愛されてる!
護衛であるオジ様方との会話でも嫉妬してくれちゃうくらいに、私の事を想ってくれてるって事でしょ?
私、愛されてる!
今、ジーンときた!
フフフフフ♪
「エンライ様、そうだとしたら嬉しいです。私、幸せです。ふふふ♪」
ついついニヤケちゃうよ。
あまりの嬉しさに、ニコニコと笑顔で【どうぞ、どうぞ】と
並べられた朝食の中から、エンライ様が好きそうなお肉類を、私のお皿からエンライ様のお皿に移す。
最初は断ろうとしていたが、私があまりにも嬉しそうだったからか、エンライ様は断らず
「・・・おう。」
という言葉と共に黙々とご飯を食べ始めた。
可愛いねぇ。
首や耳が赤くなってるの、皆も気づいてるからね。
【オジ様方に嫉妬して、自分の横に嫁を移動させた男】
として、微笑ましい目で見られてるからね。
それが恥ずかしくて赤くなってるんだろうけど、可愛いよ。
すごく可愛い。
少し拗ねてるみたいで、オジ様方の方を見ては顔を背けたりして
ムスッとした顔で食べ続けてるのが愛らしい。
ああ、
その逞しい胸板に抱き着きたい。
頭を撫でまわしたい。
頬っぺたに頬ずりしたい!!
さ わ り た い
うわぁ~~~!!
少し会わない間にヤバイ女になった気がする!
あれ?
元からだっけ?
いや、違うよね?
私、こんな痴女みたいなキャラじゃ無かったよね?
ヤバイ方向に進化してるよね?
いかんいかん。
気をつけないと。
エンライ様に嫌われたらショックどころじゃない。
気を引き締めて行こう。
「お嬢様、百面相しながら悩むのは後にして、先にご飯食べちゃってください。後でお腹空いちゃいますから、しっかりと食べてくださいね。」
と、補佐のオッサンは肉が無くなった私のお皿を確認して、パンを一個増やしてくれた。
流石の気づかい。
オッサン、マジで母上様。
お礼を言って美味しくいただきました。
お腹いっぱいです。
ご飯が終わると同時に、直ぐに宿を出ることに。
今日は早く出発しないと、次の宿に着く前に、森で夕方になってしまう可能性が高いらしい。
そうなると魔獣退治やらが大変になるので、夕暮れ前には森を抜けてしまいたいとの事。
なので、急いで用意を済ませ馬車に乗る。
勿論、馬車には私とお父様と補佐のオッサンが乗る。
エンライ様も一緒に乗りたそうにしていたが、オジ様方から声を揃えて名前を呼ばれた時点で諦めたらしい。
お父様からも
【昨日の事がある。見張りに出ていてくれ。】
と言われて、頷き、先頭を行くらしい。
はぁ~。
此方に背を向けて馬で駆けていく姿もカッコイイ。
逞しくて、頼りになる素敵な背中。
飛びつきたい。
が、我慢です。
お父様を目の前に、オッサンに横に座ってもらい、馬車は出発する。
これから通る道は気が抜けない。
領地に近づくほど、どんどん魔獣が出没し始めるからだ。
来るときも次回の宿までは領地の人間が護衛に来ていたくらいだ。
なので不安もあったのだが、
何もなかった。
と言うか、魔獣が現れても、エンライ様が瞬殺。
オジ様方は馬車の周囲を固めるだけ。
ほぼ、エンライ様の独壇場。
エンライ様が魔獣の首を飛ばして、オジ様1人とヌイールの護衛を数人置いて
魔獣の解体をさせ、私たちは先を行く。
置いて行かれたオジ様とヌイールの護衛は解体を済ませ、鞄に仕舞い、即追いかけてくる。
これをオジ様を変えて繰り返す。
そうして、森を抜けて次の宿に到着する頃には、鞄にいっぱいの魔獣が狩れていた。
宿に到着すると同時に、オジ様方の一人が冒険者ギルドの方へ魔獣を売りに行ったらしい。
「ミーニャ!」
馬車から降りたエンライ様が、馬車に乗っている私の両脇に手を入れて抱え上げてくれた。
うむ。
いつも思うけど、流石の安定感です。
ピクリともしない、その逞しい上腕筋、素敵です。
冒険者ギルドから帰ってくるオジ様が持ってくるお金で、みんなで食事に行こうという話になった。
折角、領地以外の場所にいるのだし、色々な食材と料理を見るのも良いだろうという事だ。
美味しいかどうかは別だけど、私としても知らない料理と食材があるかもしれないので、賛成する。
味は薄いだろうから、塩と胡椒や醤油、マヨネーズは持って行きますけどね。
宿の部屋に入り、着替えをすることになった。
エンライ様やオジ様方は土埃が凄いし、エンライ様に至っては魔獣の血も付いてるだろうからね。
私は自分の部屋についてからエンライ様に降ろしてもらい、
流石に着替えの間にエンライ様に部屋にいられるのは恥ずかしいので、退出をお願いする。
「エンライ様、私は着替えますので、一度ご自分の部屋の方に・・・・」
「いや、そのまま着替えて良いぞ。着替え終わったら、お前を俺の部屋に連れて行って、俺が着替える。」
と、椅子に座ったエンライ様。
いやいやいや。
待て待て待て。
いくらなんでもそれは無い。
その選択肢はないよ、エンライ様。
相手が10歳の女の子でも、そんな、目の前で椅子にどっかりと座られても。
【さあ、何時でも良いぞ。着替えろ。】
みたいな態度でこっちを見られても・・・。
困るんですが・・・。
そう思った次の瞬間、ドーン!!
という音と共に扉が開いた。
その扉の先にいたのはお父様と補佐のオッサン。
2人の頭には青筋が立ってる。
『ちょっと来い。』
2人はエンライ様の左右に立ち、ガッチリと腕を掴み、引きづって行く。
驚いている様子のエンライ様は
「はあっ?おい待て、オッサン、オヤジ!おい!っ痛ぇ!!っだあ!!ミーニャ!赤だ!赤い服にしろ!良いな?!」
という叫びと共に去っていった。
お父様とオッサンがエンライ様に拳骨を落としたのは気のせいでしょうか?
と言うか、なぜに赤い服を指定?
と、ポカーンとしていると
「ミーニャ夫人。馬鹿はあの2人にお任せして、着替えてください。赤い服はどうせ、あのクソガキが自分の髪の色を着せたいとかいう馬鹿な独占欲ですから、お好きなのを着てください。馬鹿ですみませんね。本当に。」
と、オジ様の一人が言い、
「そうですよ。お好きなものを着てください。あんな馬鹿に合わせる必要はありませんよ。私達が見張りをしますからね。ゆっくり御着替えなさってください。」
と、もう一人のオジ様が扉を閉じた。
・・・・・・。
うばああああああ!!!!
何という事だ!!
まさか、
まさかの、【自分の色を身に着けてほしい】という
《独占欲》だなんて!!
私に独占欲を抱いてくれるなんて!!
しかも、それが当然の様に発言してくれるなんて!!
嬉しいよぉぉぉぉ!!
私は自分の鞄を抱えながら、ベットにダイブ!!
ベッドの上をゴロゴロと転げまわった。
私はムフムフと、暫く幸せに浸った。
そこでハッと気づく。
早くしないと!
早く着替えないと!!
早速、鞄の中から赤いワンピースを探し出す。
それを手に取り、早速着替える。
着替えてる途中で、外から聞こえる
「まだだっつってんだろーが!クソガキが!」
「入るなよ!」
と怒るオジ様方の声をBGMに着替えを済ます。
夫婦の証のイヤリングもしたし、靴も履き替えて、
さあ!いざ!出陣!!
ミーニャを可愛がっているお父様。
最初は当主として、領主として娘の婚姻を我慢していましたが、
リュールがいなくなり、ミーニャが正真正銘の一人娘になり、
エンライと話をしているうちに、素の自分を見せられるようになり、
最終的には今の様に文句を言う関係になりました。
当主としてではなく、家族として接せられるようになったんです。
補佐のオッサンと同じように喋れるようになりました。
が、ミーニャの前ではまだまだ頑張るお父さんです。




