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初めてのキス。

私はエンライ様にキスをしないかと提案した。

理由は色々あるけど、

まず、

【押せ押せ!モード】状態だったことが一番の理由だろう。

暫く離れる寂しさも大きかった。

そこで、恋愛偏差値の低い私は

エンライ様に少しでもムラムラを解消していただくべく【キスをする】という発想に至った。

そして、お馬鹿な事に提案してしまったのだ。

目の前の、己の欲に耐えているだろう、25歳の男性に。


そして、悲劇は起きた。



私が提案を告げた瞬間、エンライ様の顔から表情が無くなった。

そして、一瞬の沈黙ののち、


「そうか。そうか。そういやそうだな。俺とお前は夫婦だもんな。そうだよな。接吻の一つや二つ、しても可笑しくねぇよなぁ。ああ、そうだ。夫婦だもんな。妻からの期待に応えてこその夫だよな?じゃねぇと男が廃るよな?そうか、そうか、お前の気持ちは良~く分かった。任せろ。」

見たことがない笑みを浮かべるエンライ様がいた。


脳内で警報が鳴る。

【やらかしちまったぜ!逃げろ!】

的な警報だった。

本能的に体が逃げようとしたにも関わらず、

エンライ様の両腕が腰にまわっていて逃げられない。


「ん?どうした?なんで逃げんだよ。大丈夫だ。お前に苦痛を与える様な事はしねぇよ。だからよ、お前は安心して、俺に、、、身を委ねろ。」


笑顔だった表情が変化し、真剣な、見たことも無いような色気の漂うエンライ様に背筋がぞくっとする。

前世も含めて、恋愛偏差値が低い私は、そんな雄の顔をしている男性を前に、すっかり萎縮してしまった。

私が怯えたのが分かったのか、エンライ様は再び、笑顔をつくった。


「大丈夫だ。取って食ったりしねぇよ。お前がまだ10歳なのは分かってる。お前の親父さん達にも散々注意されたからな。大丈夫だ。ただ口と口を合わせるだけだ。大丈夫、大丈夫だ。」

まるで赤子をあやす様に言葉を紡ぎ、頭を撫でるエンライ様。


その言葉にホッとして、少し体の力を抜いた次の瞬間、

唇への柔らかい感触と共に

【チュッ】

という可愛いリップ音が私の耳に聞こえた。

目の前にはエンライ様のニヤリと笑う顔があり、まるで、ご馳走を目の前にした野獣の様に、エンライ様自身の唇を舐めていた。

その姿を見て、ようやく、自分の人生で初めてのキスをエンライ様とした事を頭が理解した。


全身の血が沸騰するかの様に全身を駆け巡り、体温が急上昇するのが分かった。

無性に恥ずかしくて、頭が上手く働かず、無意識に口がパクパクと音も発さずに動き、熱が集まる顔を隠したくて、両手で顔を覆うとした時、頭上から声が聞こえた。


「あ~、ダメだな。想像以上だ。・・・わりぃ、ミーニャ、少し我慢してくれ。」


その言葉と同時に、私の後頭部にはエンライ様の手が添えられ、

近づいてきたエンライ様の顔に驚くと同時に、キスされた。

先程とは比べ物にならない位、濃厚なのを。

中々、離れない唇に息が苦しくなっていって、エンライ様の胸元を叩くけれども、びくりともしない。

漸く口が離れたと思っても、今度は違う角度で口を塞がれる。

心臓が破裂しそうなくらいバクバクと煩くて、言葉も出なくて、息も苦しくて、手足に力が入らなくなってきた時、口の中にエンライ様の舌が侵入してきて、私の脳内は回線がショートするかの様に一瞬で白く染まった。


そこで私は意識を失った。









目を覚ましたら、見たことも無いベットに寝ていた。

なんでこんなところにいるのか、ぼーっとする頭で考えて思い出したのが、エンライ様とのキスだった。

あの場面を思い出して赤面し、ベッドを転げまわった私。

思う存分、羞恥心と闘い、正気に戻った時、

私はとある事に気が付いた。


ここはどこか。

見たことも無いベットの上だ。

着衣の乱れはなく、いつもの寝間着を着ている。

周囲を見るに宿らしき場所だというのが分かる。

そして、窓から見える夜空と月。


今は夜。

どこかの宿の一部屋。

しかも、高級な宿の一部屋だ。

そう、私達ヌイールの人間が、ヌイールの領地から王都へと出てきた際に使用した宿と同じ部屋。


つまり、私は気を失ったまま、領地へと向かう旅に同行している。


その事実を理解した瞬間、一瞬にして全身の血の気が引いた。

エンライ様にお別れの言葉を言っていない。

それどころか、目の前で気絶してしまった。

話をした時間も短いし、失礼な事この上ない。

更には、メデルーのシロップのホットケーキも振る舞っていない。



最低だ。私。

あんな馬鹿な提案をした過去の自分をぶん殴ってやりたい。

我慢してくれているエンライ様にあんなことを言えばどうなるか位、冷静に考えれば分かる事だろうに。

いくらテンションが上がりすぎて興奮状態だったからと言って、この惨状はありえない。

泣きそうになるが、泣いている場合じゃない。

むしろ、泣きたかったのは私に気絶されたエンライ様の方だろう。

今すぐに着替えて、エンライ様への謝罪のお手紙を早馬で送ってもらえるように、お父様にお願いしなくては。


私は滲む涙を自分の袖で乱暴に拭い、手近にあるワンピースに着替えた。

そして、いつもなら扉の向こうにいるであろう、侍女に声をかける。

すると、まさかの人物の声が返ってきた。






「あ、お嬢様?起きました?身体は大丈夫ですか?ドアを開けても?」

領主補佐のオッサンだった。


扉を開ける許可を出し、中に入ってもらう。

お父様は既に寝ているかもしれないし、このオッサンに早馬の手配を頼んでも大丈夫だと思う。

気が急くのを押さえつけて、


「大丈夫。驚かせてごめんなさい。エンライ様なのだけど、あの後どうなったの?怒ってらっしゃった?それとも呆れてらっしゃった?メデルーのホットケーキも出していないし、嫌われたらどうしよう。謝罪の手紙を・・・・」

矢継ぎ早に話を始めると


「ああ、お嬢様、待ってください。落ち着いて。顔が真っ青です。座って下さい。んで、取りあえず、黙って俺の話を聞いてくださいね。はい、これ。お水。」


私をベットに座らせて、水を渡してきたオッサンは目の前に椅子を持ってきて座り、あの後の事を話し始めた。





_______________________________





俺のミーニャが突然、


「く、くちづけ、をしません、か?!・・・・あの!その!暫く会えなくなりますし!もう夫婦なのですし!その、エンライ様がお嫌でなければ!」

なんて何か吹っ切れたかの様に、勢いよく言いやがった。

こっちは必死に自分の欲と闘ってるのに、だ。


まあ、この提案は俺にとっちゃあ、好都合だ。

なんの問題もねぇ。

まあ、ミーニャの親父さんやらウチの爺には

【5年後まで待て!】

と散々、口うるさく言われちゃあいたが、ミーニャからのおねだりとなりゃ、話は別だろ。

俺は自分の中で昂る興奮を抑えつける事に全力を注いだ。

そしたらよ、俺の本性が無理矢理に隠されてるのが本能的に分かったのか、ミーニャの腰が引けた。

おいおい、冗談だろう?

ミーニャからのおねだりだぜ?

今更、引く気はねぇぞ?

残念、逃がさねぇよ。


かといって、嫌われるのもビビられるのも勘弁願いてぇ。

俺はミーニャを出来るだけ安心させられるように、声色を出来るだけ優しくして、【大丈夫だ】と何度も声をかけた。

俺自身にも【ミーニャは10歳だ、ただ口を合わせるだけだ、大丈夫、俺は抑えられる】

そう言い聞かせながら、な。


ま、結果から言うと自分を抑えるのは無理だったが。

まあ、しょうがねぇよな。

ありゃ不可抗力だ。

最初はよ、軽く、本当に軽く口を合わせるだけにしようとした。

んで、実際に口を合わせてみるとだ、

フニフニと口が柔らけぇ。

直ぐに離れるのは惜しい。

が、綺麗な目ん玉が落ちそうなくれぇ見開かれてたから直ぐに離れた。

そんな少しの間でもだ、なんつーか、満足感っつーか、充実感っつーか。

俺のモノだっつー所有印が一つ付いた気がして、支配欲やら何やらが満たされた。



んで、余韻に浸るみてぇに口を舐めてたら、ミーニャの顔が一気に真っ赤になって、目が潤み始めた。

これがまた、一撃必殺みてぇな威力を発揮しやがった。

今までにも赤くなるミーニャは沢山見てきた。

それらのほとんどが、【可愛い俺だけの女の子】を照れさせたくて、ガキみてぇにちょっかいを出して見れた、恥ずかしがってる顔だったのに比べて、

今回のは完全に【俺の女】が見せた表情だった。

それを目の当たりにした瞬間、自分に言い聞かせた言葉なんて吹っ飛んだな。

全部。

完全に。

勢いよく。

んで、気がつきゃ、顔を隠そうとしてるミーニャの頭を抑えつけて濃厚なのブチかましてた。

口を少し離すたびに、顔を赤くしながら、必死に息をする姿も堪らない。

そんな姿を見ながら、俺の心には

【俺のミーニャだ。俺だけのミーニャだ。こんな事が出来るのは俺だけだ。これは俺だけが見れる顔だ。】

なんて独占欲がドンドン広がっていった。

そんな事を考えてたら、いつの間にかミーニャの身体から力が抜けていった。

焦った俺は直ぐに口を離して、名前を呼んで呼吸なんかを確認したが、反応がない。

どうやら気絶させちまったらしい。


やべぇ。

やっちまった。

相手は10歳だっつーのに、何やってんだよ、俺。

いくら接吻した事が無いっつっても、もう少しまともに相手出来ただろうに。

何の為に、恥を忍んで あいつに女の扱いを聞いてきたと思ってんだ。

・・・・。

いや、あいつの知識はまともじゃねぇってミーニャに言われたばっかりだったな。

何が

【女の扱いは俺に任せろ!良いか?女はな、顎の下を優しく撫でるとゴロゴロと可愛く鳴くんだぜぇ。】

だ!死ね!クソ野郎!

思い出しただけでも腹が立つ!


ミーニャを優しく抱え直し、あいつに呪詛でも送ってやろうかと考えてると、


「エンライ様、お呼びでしょうか?」


タイミング良く第二の親父さんが来た。

ミーニャの名前を呼んで呼吸を確認した時にでも、声が聞こえて侍女がオッサンを呼んだんだろう。

出来れば、こんな事になったなんて知られたくねぇが、仕方ねぇ。腹くくって、説教でも聞くか。

そう思ってオッサンを中に入れた。


「・・・・。これはどういう事だ?てめぇ、お嬢様に何をした?返答次第ではブッ殺す。」


オッサンからドギツイ殺気が放たれる。

思わず口笛を吹いちまう位に、すげぇのが来た。

こいつは強い。

死ぬ気で俺を殺すだろう、本気の目だ。


「落ち着いてくれ。まあ、結果を言えば俺が悪いんだがな、その、なんつーかな、ミーニャに接吻をねだられてだな、してみたら・・・。まあ、加減が分からずに気絶させちまった。面目ねぇ。」

自分で言ってても情けねぇ事この上ねぇぜ。


オッサンは顔色を変えねぇ。

しかも、こっちに近寄ってきたかと思えば、ミーニャを俺から取りあげて、近くにあったソファに横に寝かせた。

こりゃ信じてねぇな。

ミーニャを渡すのは名残惜しいが、余計な事を言って事を荒立てたくねぇから両手を上げてそのまま座って待つ。


「首を斬られるのを覚悟で言うけどな、俺はミーニャお嬢様を本当の娘の様に思ってる。俺には妻も子もいねぇからな。それこそ、目に入れても痛くねぇ位には可愛い存在だ。お嬢様に危害を加えることは許さねぇぞ。それと、25歳の貴族の男が、女相手に手加減を知らねぇなんざ馬鹿みてぇな嘘ついてんじゃねぇよ。手加減が分からねぇじゃなくて、手加減しなかったんだろうが、この変態野郎。」


オッサンは青筋を立てながら詰め寄ってくる。

こりゃ、本気で死ぬ気で警告してきてるな。

ミーニャの陣営にもいい人材がいたもんだ。

思わず感心しちまう。


「俺はな、自分で言うのも何だが人を見る目がある方だ。悪友、領主様も俺の人間観察の目をかって傍に置いてる。で、俺はあんたを【危険な人間】だと思ってる。力が強いだとか、魔獣退治が得意だとかそんなんじゃ無くてな。危うい方の人間だと思ってる。あんたはミーニャお嬢様に対する執着が強すぎる。胃袋を掴まれたにしても、そんなに入れ込む理由はなんだ?そのイヤリングも10歳に贈るもんじゃねぇだろう。普通の男は10歳の女の子に気絶する様なキスをブチかましたりしねぇよ。何を考えてる?」


傷口を抉る様な言葉ばっかり言ってくんな、このオッサン。

俺もキレそうになるが、ま、自業自得だ。仕方ねぇわな。



「あー、まずな、ミーニャに危害を加える気なんざ全くねぇよ。それと、オッサンの貴族に対する常識をぶち壊すぞ。あー、そのな、俺は本来の貴族が受ける性教育は受けてねぇ。【一生独り身で生きる】を盾にして逃げてきた。【そもそも、女に触らなきゃ孕ませられない。大丈夫だ。】っつー考えで生きてきたからな。

おかげで女の扱いが全く分からなくてな。イヤリングも俺が考えた最高の贈り物だったんだがな、そんなに可笑しいか?ミーニャは喜んでたみたいだけどよ、変なのか?・・・・まあ、もう贈っちまったもんはしょうがねぇ。

話を戻すぞ。

流石に女の扱いの知識が皆無なのは自分でもヤベェと思ってよ、ミーニャを嫁にした後に知り合いの中で女の扱いに慣れてる野郎に教えを乞うた。まあ、クソみてぇな情報だったらしいからな、新しく師を見つけねぇといけねぇが。まぁ、一言で言うなら、俺は本気で手加減が分からん。色恋沙汰なんて初めてだしな。家の人間以外で女に触れたのはミーニャが初めてだぞ。勿論、キスも、な。俺は正直、ミーニャが15になった時にちゃんと抱けるかどうか不安でしょうがねぇ。それまでには知識を完璧に頭に入れておかねぇと。」


俺は自分で語りつつ、頭を抱えたくなる。

マジで大問題だ。

俺を疑ってたはずのオッサンも、これでもか!と驚いた表情で

マジか?こいつマジか?

みてぇな目してやがる。

止めろ、その目。

へこむ。



「んで、オッサン。何を考えてるって言われてもな、俺は難しい事なんて何にも考えてねぇよ。そりゃ、最初は打算込みでの婚約だったけどよ、婚姻を決めたのは俺だぜ?なんだよ、出会う前の打算から全部話せってか?」

面倒だと表情に出しながら聞いたんだが、オッサンは当然だとばかりに頷く。

マジか。

まあ、信頼関係を得る為、今後、ミーニャと穏便に生活するためだ。

仕方ねぇ。



「一度しか話さねぇからな。良く聞いとけ。ああ、ミーニャの親父さんに報告するのは構わねぇぜ。ただ、ミーニャには聞かれたくねぇな。」


俺は自分の記憶を遡り、オッサンに話しを始めた。

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