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お帰りです。

メイド長からお叱りの言葉を受けて、全員が着席、再び食事を開始しました。


エンライ様は

メイド長が置いた椅子をもっと自分の方に引き寄せてから、私を座らせたので、メイド長から溜息を1つ頂戴してました。


お父様は無事に復活して、ツヴェイン家の皆さんと楽しそうに談笑中。

我が家のお父様は、領主とはいえ魔獣退治なんかで部下の人と寝食を共にすることが多いからか、他の貴族と比べると かなりフレンドリーな人である。

友人兼補佐のオッサンも貴族じゃないのに、昔から野山を一緒に駆け回ってたらしいし。

勿論、貴族としての立ち振る舞いは完璧ですけどね。

そんな庶民派なお父様だったからか、自由気ままなエンライ様をお育てになられたツヴェイン家の皆さんとも気が合ったご様子。


今は子育ての大変さで盛り上がってるみたい。

普通の貴族は子育ては使用人に任せるのが普通なんだけど、

お父様は子供の世話を使用人に任せっきりにするような人ではなかった。

リュールは母親に全て任せてたけど、あの子はお父様を毛嫌いしてたから、しょうがないし。

私なんかは付きっきりで育てられたってレベルだと思う。

だからか、子育ての大変さなんかで話が盛り上がってるみたい。

特にツヴェイン家の皆さんの食いつきが半端ない。

【我が伯爵家はクセ者が多い】

【アクが強い】

【生まれた時から、なんか違う】

【使用人が逃げるから自分で育てるしかない】

とか好き勝手言ってるんですけど。

しかも、


「特にエンライは大変でした。エンライの子供がどんな子供になるのか、今から不安ですよ。いざという時には両家で協力して育てましょう。」

なんてエンライ様のお父様から言われて、不安が募るんですけど。

お父様は


「そう言っていただけると有り難い。私もミーニャの子供がどんな風に育つのか、全く想像出来ません。不安が大きい。」

なんて複雑そうな顔で頷いてるけど。


え?

私、そんなに大変な子供じゃなかったよね?

そんなに手のかかる子供じゃないよね?

なんで不安なのさ。

比較的に楽だったでしょう?

と疑問に思いつつ、


【エンライ様は手のかかる子供だった自覚はあるのかな?】


と隣に座っているエンライ様を見てみると、ちょうど食事が終わったらしい。

口元をナプキンで拭って、水を飲んでいた。

そして、私の方を向いて


「ごちそうさん。美味かった。なぁ、ミーニャ。一緒に住むようになったらよ、毎日毎食、お前が作ってくれたりしねぇか?食材は俺が狩ってくるからよ。駄目か?」

と頭を傾けるエンライ様。


うん。

周囲の話を全く聞いてなかったのね。

こういう食事会の時は、周囲の会話を聞きつつ、いつ話を振られても良いように食事を進めるべきなんだけど・・・。

まあ、真剣に食べてくれるのは嬉しいから良いんだけどね。


「お口に合って良かったです。もちろん、私が毎食作りますよ。エンライ様の為に、朝、昼、晩と愛情と心を込めて作らせてもらいます。エンライ様は沢山お食べになりますから、沢山の食材を取ってきてもらわないといけませんね。買い物なんかも一緒に行けると嬉しいです。好きな食材や嫌いな食材も知りたいですから。」

とお返事すると


「うっし!決まりな?撤回は無しだからな?よし。毎日毎食ミーニャの手料理か・・・いいな。ああ、いい。お前が毎食、俺を想って飯を作って、それを2人で食う。一日に3回、愛情を確認できる最高の時間じゃねぇか。夜食もあると尚更嬉しいんだがな。まあ、その日の俺の頑張りを見てから決めてもらうのも面白ぇか。自分の食う分ぐれぇ余裕で狩ってくるぜ。今でもそうだしな。好き嫌いなんてねぇな。野営ではなんでも食うしな。虫でも何でもな。泥水もすする。けど、買い物は行くぞ。一緒にな。」

とガッツポーズを決めた後に、子供みたいに はしゃぐエンライ様。


笑顔が可愛いなぁ。

一日に3回、愛情の確認の時間だなんて。

なんて素敵な事を言ってくれるんだろう。

もう、本当に好きです。

私をこんなに笑顔にしてくれる言葉を次から次へとくれるのはエンライ様だけだよ。

なんて二人で向き合ってニコニコウフフしていると、

お邪魔虫、基、ツヴェイン家のご当主お爺ちゃんが言った。


「おーおー。エンライがこんなにデレッデレになるとは思ってはおらんかったがのう、仲が良くて何よりじゃ。こんな強面がクッサイ言葉をかけても喜ぶミーニャ嬢は凄いのう。うむ。お似合い。お似合い。そんな二人を引き合わせた爺に、もっと感謝してくれてもいいんじゃぞ?」

と感慨深そうに言っているご当主お爺ちゃんだけど、

エンライ様の額に血管が浮き出たから、今すぐに止めて!

この人、揶揄っちゃいけない人!

ガチで怒るから!

と内心で戦々恐々としているとお父様が口を開いた。


「毎食は無理だな。魔獣退治の日、遠征の間は帰れないからな。残念ながら不可能だ。」

って何を真剣にツッコミくれちゃってんの?

空気読めよ!オッサン!

変な所で真面目すぎなんだよ!

とキッときつくお父様を睨んでいると、今までニコニコしていたエンライ様のお母様が会話に参戦してきた。


「まあ、まあ、落ち着いて。良いじゃないの。ミーニャ嬢はデレッデレのエンライを気味悪がらずに、頬を染めてくれてるんですし、当の本人同士が良いのなら幸せな事でしょう。それよりも、先ほどの話ですよ。エンライの子供が大変な手のかかる子供になるのは、普段の会話でも分かると思いますが、なぜミーニャお嬢様の子供が大変なんですか?大人しくて出来の良いお嬢さんじゃないですか。」

と不思議そうな顔をしている。


それは私も疑問に思ったことだけどさ、

あの、ご婦人、ご自身の息子さんに対して結構辛辣なんですね?

エンライ様、凄い低音で【あ゛?】とか言ってますよ?

怖くないんですか?

え?

【エンライ、そんなに怖い顔しても、私には効かないわよ?】

ああ、なるほど。

慣れてらっしゃるのね。

私もその位あっさりと対応出来るように精進します。

お母様。

と尊敬の念で見ていると、お父様が重い口を開いた。


「ミーニャは・・・。実は、昔はおっとりした感じの優雅な貴族らしい女の子だったんです。しかし、幼少期に頭を打ってから今の性格に変わりました。それが一番の不安なんです。頭を打たなければ、昔の性格のまま。今のリュールの様な女の子になっていた可能性が高い。それを考えると頭が痛い。

頭を打ってから、物覚えが良くなり、何事にも興味を抱く子になったのは私にも割とすぐに分かったのですが、ミーニャの異変に気付いたのはそこにいる、領主補佐であり私の悪友の男です。泣かない、物欲が無い、我慢することが当然だと思っている。小さな子供が出来る事じゃないでしょう。何か感情に欠落があるのかもしれません。私としては可愛くてしょうがない子なのですが、私の妻とリュールに流れる血が強く出れば、我儘な子供に育つ可能性も高い。」

とお父様はため息をついた。


・・・・・。

ああ、そうだった。

記憶を取り戻してから、階段から落ちたふりをして性格を変えたんだった。

すっかり忘れてたけども。

やばいな。

どうしよう。

エンライ様はリュールが嫌いだと思う。

リュールに似た子供が生まれるかもなんて知って、嫌になったりしないかな?

私は恐る恐るエンライ様の顔を覗き込んだ。


エンライ様の眉間には皺が寄っていた。

今までで一番の皺だ。

終わったかも。

そう思った。


「頭打ったって、医者には見せたのか?大丈夫なのか?後遺症は?どのへんだ?触っちまっても大丈夫なのか?」

エンライ様は次々にお父様に質問を浴びせた。


お父様は怒涛の質問に驚きつつも


「あ、それは問題ない。医者に見せたところ、怪我と言ってもタンコブだけで記憶力や学習能力には何の問題も無いそうだ。触っても大丈夫だ。」

と答えたところで


「そうか。なら、好きに触れても大丈夫だな。」

と私の後頭部を優しく撫でてくれるエンライ様。

それに対して、苦い顔のままのお父様は意を決した様にエンライ様に問いかけた。


「・・・エンライ殿は先ほどの話を聞いてもミーニャとの子供が欲しいですか?我儘な子供になるかも・・・」


「構わん。俺のガキを産むのはミーニャだけだ。ミーニャが嫌ならウチの一族から養子でも貰やー良いだろ。ミーニャの姉貴の子供はお断りだけどな。つーかよ、ミーニャに我儘な血が流れてようがなんだろうが、俺のガキの時点で我儘なのは間違いねぇよ。女だろうと男だろうと絶対に己の道を行く。それに何となくミーニャよりも俺の血が濃く出る気がすんぜ。それと、男なら絶対に《大食い》が生まれる。ツヴェイン家はそういう家系だからな。」

エンライ様はお父様の話をぶった切った。


って、そうなの?

私的に私自身はお父様に考えが似てるし、教育をしっかりとするつもりだから、私に似た子供が育つと思ってるんだけど、エンライ様の血が濃く出るの?

《大食い》は決定なの?

ツヴェイン家はそういう家系ってどういう事?

疑問に思いつつ、エンライ様を見てみると

エンライ様は未だに私の頭を撫でて優しく微笑みながら、


「さっき見たろ?ツヴェイン家は《大食い》だ。これな、昔からなんだぜ?代々、ツヴェイン本家の男は大食い。女でも稀に大食いはいるが、男なら確実に大食いだ。分家やら、よそから来た人間、嫁とか婿は普通だけどな、ツヴェイン本家の人間の血が入った男は大食いになる。それが理由でツヴェインは親戚なんかとの婚姻やら、平民と子供を作る事が多い。子供を作らない奴も多い。この大食いには秘密があるから尚更な。良いか?親父さんも良く聞いとけよ?

【ツヴェイン本家の血をひく男は《大食い》だが、大量に栄養を摂取していれば、大概のケガは一日で治る】

擦り傷や刺し傷なんかも治る。だからツヴェインは武力に特化した脳筋一族として有名なんだよ。大体の野郎が騎士団やら傭兵に入るかんな。俺も魔獣退治に関しては誰にも負けねぇ。」

と秘密を話してくれた。


そう言えば、ツヴェイン家は他の貴族と違って、平民との子供やら、子供が居ない、婚姻しない人も多いって話だっけ。

噂では、脳筋が多いから結婚できない奴らばっかりだって聞いてたんだけど。

そんな秘密があったんだ。

へー。

大食いなのはケガを治すために身体が頑張ってるからなのね。

エネルギーが沢山必要だってことだな。

うん。

怪我が治るのは良いけど、痛いだろうし、血が沢山出れば倒れることもあるから、最低限のケガで済むように戦ってもらわないと。


「エンライ様、治るとはいえ、痛みはあるんでしょう?あまりその特異性を過信せずに、無理はしないで戦ってくださいね?もう、一人の体では無いんですから。エンライ様に何かあれば、私が悲しむのを分かっていてくださいね?本気で泣きますからね?」

と脅しておく。

治るからって自分の体を盾にして戦いそうだもん。

エンライ様。

ってか、絶対やってるでしょ。

今、目を逸らしたもんね?


「わ、分かった。注意する。出来るだけ、怪我はしねぇようにする。・・・んで、これでガキの件について他の奴らも文句ねぇよな?ミーニャの親父さんも良いよな?ん、良し。んで、ミーニャ、ガキとはいえ、ツヴェインは食うからな。俺たちの年の差なら最大でも2人ぐれぇが限度だ。良いな?ミーニャを独占してぇからよ、あんまり早くにガキ持ちにはなりたくねぇんだけどな、早めに育てとかねぇと、年老いた俺一人で養えるか不安にもなるんだよなぁ・・・。やっぱり、今のうちに出来るだけ貯め込むかぁ・・・。」

と最終的には今後の家族計画を話し始めたんですけど、どうすればいいですか?


「ゴ、ゴホン、エンライ殿、まだまだ先の事です。ミーニャはまだ10歳ですからね。10歳。5年以上先の話を今からしなくても良いでしょう。それよりも、今はミーニャを大切にすることだけを考えて欲しい。」

真剣な顔つきで言うお父様。


「いや、話を振ったのはそっちだろ」


って確かに。

そうですよね、エンライ様。

貴方、さっきまで話聞いてなかったくらいだもんね。

ああ、お父様が【そうでしたね】なんてションボリしちゃってる。

大丈夫!

私にはちゃんと伝わってるよ!

心配してくれてありがとう!

口には出さないけど!

さっきと同じ過ちはおかしたくないので、見もしないけど。


ツヴェイン家の皆さんも

【あーあ、一族の秘密なのに】

【勝手に喋っちゃって】

【本当に、自由に生きてるよなぁ】

なんて言いながらも納得してるみたいだし、子供に関してはコレで終わりで良いのかな?

一応、私の子供が我儘でも大丈夫だと太鼓判を貰えた気分だ。

躾はしっかりとするけどね。

リュールみたいな子供は嫌だから。



お父様とツヴェイン家の皆さんは私たちの昔話で更に盛り上がる。


昔、料理をするなんて言われた時には魂が飛び出るかと思いました・・・。

差し入れを食べるのを躊躇ったら泣かれた事があって・・・。

他にも・・・。

とお父様が言えば


分かります。

昔、まだこんなに小さい時に、隣の家の不良青年と喧嘩した挙句、相手を家まで引きずってきて

【どうだ!おれすげーだろ!】

なんて自慢された日には魂が抜けるかと思いました・・・。

何度、料理を横から取られた事か・・・。

子供なのに自分より大きいイノシシを担いで帰ってきて【これ、今日の夕飯な!】なんて言われた時には・・・。


って、おい、待て。

それは違うでしょう。

お父様、

うんうん。分かります。分かります。

なんて頷いてるけど、違うでしょう。

どんだけハードな幼少期なんですか?

私のエピソードとちゃんと比べてみて!


「おお、そうだ。イノシシで思い出した。ミーニャ、昨日の茶会での話が途中だったよな?ワイバーンについて。話しとくか?」

とエンライ様は自分のイノシシ狩りを思い出してか、昨日の話の続きをしてくれるらしい。


やったー!嬉しい!

ワイバーンの情報もだけど、私との話が途中だったことをちゃんと覚えていてくれたのが嬉しい。


「覚えていてくださったんですね!是非!是非聞きたいです!」

とウキウキとエンライ様を見ると、

スッと持ち上げられて、横向きに膝の上に乗せられた。

あ、やっぱりコレが定位置なんですね?

文句は無いですけど。


「ミーニャ、こっち向け。よし、昨日は魔法での攻撃まで話したか?あーっと、ワイバーンの速さなんだがな、小回りが利くっつーか、緩急をつけた動きに翻弄されるな。馬では避けるのがギリギリだ。木の間を縫うように逃げれば何とかなるがな。尾は魔法で狙うのも難しい。あいつらにとっても攻撃の要だからな。上手く避ける。飛行の高さはなぁ・・・。身体が重いのかそこまで高くは飛ばねぇな。ドラゴンと違って羽根も小せぇし。羽根のついたトカゲだからな。付け根の辺りを狙えばなんとか落とせる。あと、最終的には首を落としたぜ。胸を突くのも考えたんだけどな、懐に入るのは中々に難しくてな。」

と思い出しながら話をしてくれるエンライ様。


私だけじゃなくて、お父様も補佐のオッサンも真剣に聞いている。

ツヴェイン家の皆さんは苦笑って感じだけど。


「なるほど。詳しい説明ありがとうございます。勉強になります。やはり本で読んだりする知識だけでは対処できませんね。知らないことばかりです。これからもエンライ様に色々と教えていただければ嬉しいです。」

とお礼と共にお願いしてみる。


それに対してエンライ様は


「おお、いいぞ。これから時間はたっぷりあるからな。毎日、時間を見つけては討伐やら旅やらの話をしてやるよ。何から話す?魔獣ついでにガキの頃のイノシシとの闘いも聞くか?」

なんて笑いながら語ってくれた。


エンライ少年のイノシシとの闘いの話を笑いながら聞いて、

あっという間に時間が過ぎていった。

そして、時間はどんどん過ぎ

いつの間にか夕暮れ時に。

ツヴェイン家の皆さまもエンライ様もお帰りになる時間だ。


_________________


お父様たちと一緒に皆さんを玄関までお見送りすることになった。

今日は食事を用意していたのでお土産は用意していないのが申し訳ないな。


皆は気を使ってくれたのか、先を歩いて私とエンライ様を2人にしてくれた。

あ、私は毎度ながらエンライ様に抱きかかえられての移動です。

この移動方法について既に誰も何も言わなくなったのが若干怖い。


この幸せな時間も今日はあと少しなんだよなぁ。

寂しい。ずっと傍にいてほしい。

でも、我慢しなきゃ。


「エンライ様、先ほどは面白いお話の数々ありがとうございました。今日はエンライ様と夫婦になれて、お揃いのイヤリングをいただけて、本当に幸せな一日でした。これからも末永くよろしくお願いいたします。」

軽く頭を下げる私にエンライ様は


「おう。こんなに話をしたのは初めてかもな。喉がカラカラだぜ。・・・ミーニャ、お前と夫婦になれたこと、お前が俺のもんだっつー証を身に着けてる事、俺にとっても今日は最高の一日だ。これからもよろしくな。」

と微笑んでくれた。

更には


「ああ、そうだ。昨日の土産の礼がまだだったな。帰ってから1つだけ少し味見したんだけどよ、あれ、美味ぇのな。甘いのに果物の味がちゃんとして、初めて食う食感だった。美味かった。あんがとな。」

と頭を撫でてくれた。


その言葉だけで、撫でてもらえるだけで、凄く幸せを感じる。

今の私は顔が緩んでるんだろう。

エンライ様も笑顔だ。


そして、ついにエンライ様の名前が呼ばれた。


「んじゃ、そろそろ帰んねえとな。来週には領地に帰るんだよな?何時ごろに帰るか決まったら連絡よこせ。見送りに来る。いいな?ちゃんと連絡しろよ?」


「お見送りしてくださるんですか?嬉しいです!では、時刻が決まり次第、ご連絡させていただきますね。来月には領地に来て下さるんですよね?あちらで沢山のご馳走を用意しておきますね。」

と出来る限りの笑顔を心がけて約束すると


「んじゃ、また来週な。」

そう言って頬にキスされた。


頬にとはいえ、突然のキスに驚きと恥ずかしさで私は真っ赤になり、エンライ様の肩口に顔を伏せた。

いつもみたいにクククと笑うか、エンライ様も真っ赤になって、照れ隠しに私を降ろして颯爽と去っていくんじゃないかと思った。

だから、私は肩口に顔を伏せた。

降ろされるのが嫌で。

まだ傍にいてほしくて。

まだギュっとしていてほしくて。


しかし、エンライ様は


「ミーニャ、こっち向け。・・頼むから、顔を上げろ。」

と真剣な声を出した。


何かあったのかと顔を上げると、私と同じくらいに真っ赤になったエンライ様が居た。

そして私の顔を見たエンライ様は


「勘弁してくれ・・・。そんな顔すんな。帰れなくなるだろ。じゃなきゃ、このまま家に攫いたくなる。・・・んなに必死につかまんな。離せなくなるだろうが。」

と真っ赤な顔をしながらも苦笑いしていた。


その顔を見て、言葉を聞いて、エンライ様も私と同じ気持ちでいてくれているのかと思ったら、ポロリと言葉がこぼれた。


「・・・離れたくないんです。寂しいんです。傍にいてほしいんです。・・・エンライ様が好きなんです。」

泣きそうになって、再度エンライ様の肩口に額をつける。


我儘を言うなんて情けない。

我慢できないなんて情けない。

こんな、子供みたいな我儘を、エンライ様を困らせるような言葉を言うなんて、許されないことなのに。

そう思うと涙が込み上げてくる。

駄目だ。笑わないと、笑顔でお見送りして、また会えるのを楽しみにしないと。


そんな私の考えを遮るように、エンライ様が舌打ちをした。


「クッソ!駄目だ!じじい!ミーニャ持って帰るぞ!!!!」

そう叫ぶと同時に馬を呼んで私を乗せた。



皆が驚き動けない中、そんなエンライ様を止めたのはまさかの あの人 だった。











「待ってください!俺のケーキはどうなるんですか?!」





オッサン・・・・。

全員の動きが止まったよ。

エンライ様も止まった。


エンライ様はオッサンを凝視した後、再び舌打ちをした。

そして少し悩んだ後、私を馬から降ろして、抱きしめた。


「・・すまん。うちの馬鹿共のせいで、連れて帰れねぇ。わりぃ・・・。あのオッサンにケーキ作ってやってくれ・・・。」

心底残念そうに、項垂れながら謝罪された。

お持ち帰りされそうになったこんな状況でも、

自分の欲よりも約束を優先させるエンライ様も素敵だなぁ。

なんて考えている時点で、私は相当エンライ様にお熱なんだろう。


「はい。寂しいですが、大丈夫です。来週会えるんですから。来月からはずっと一緒なんですから。大丈夫です。それに、皆にお疲れ様とありがとうの気持ちを込めた食事とケーキを作りたいです。」

と自分自身にも言い聞かせるように告げる。


「そうか。だよな。・・・んじゃな、俺のミーニャ。」

とエンライ様は再び、頬にキスを落として、颯爽と馬に乗って去っていった。


ツヴェイン家のの皆さんを置いて。


他の皆さんはお父様に謝罪してる。

お父様も皆さんに謝罪してる。


そんな混沌とした状況の中、


「俺、ケーキはイチゴが良いです。生クリームたっぷりで。」


なんて笑顔で言ってくるオッサンの神経はワイヤー並みだな。

と感心しました まる。

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