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オールレンジ ユア ストレート  作者: 恐竜 流崎
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4章 禍福は―― 12

 そのまま放課後になると、一斉に生徒が教室から三々五々と散っていく。

 彼らの表情は授業を終えた開放感からか明るいものが大半を占めていた。放課後過ごす時間を各自が語り会いながら教室を去っていく。そんな行為とは無縁の真優は念のため隠しておいた教本ノートを隠し場所から回収すると、所々塗装が剥げかけたカバンに収めて教室を後にする。

 これから望に対してどう説得を試みようかと頭を悩ました。

 望は一度真優の提案を明確に拒絶している。説得にするには否応なしに望の抱える事情に踏み込まなければならなかった。とことんまで情けない話ではあるが、真優はその勇気が持てずにいたのだ。

 普段から憂鬱を吐息に混じらせることの多い真優であったが、特段重苦しい溜息が口から漏れ出した。

(――とりあえず公園に着くまで考えをまとめておかなきゃ)

 上履きから靴に履き替え外へ出る。本日はうっすらと雲がかった天候で、どこか晴れとも曇りともどちらとも取れるような曖昧な空模様をしていた。

 視線を空から前方に移すと校門前で誰かが背中をあずけた状態で佇んでいるのが遠めに見えた。その見覚えのあるシルエットに真優はドキリと心臓を反応させると、少しだけ足早に校門に向かった。

 校門前にいる人物。竜胆奏に話しかける為だ。

 校門が近づき自分の見間違いでないことを確信すると、真優は声をかけるべく口を開こうとする。しかし意外なことに、先に口火を切ったのは彼女の方からだった。


「――あれ、誰?」


 随分と唐突な質問だった。

 まるで要領を得ないその問に真優は首を傾げる。

「……えっと、あれって何だろう。ああ、それよりも今日、学校――」

「あれ、誰」

 真優の会話をぶつ切りにして二度目の問い。

 奏の様子に真優は気圧けおされると誤魔化しに笑みを作った。

「あ、はは……。竜胆さんは僕に何を――」

 胸ぐらを掴まれる。

「だから、誰?」

 至近距離から奏の端麗な顔が真優の瞳を射抜く。

 流石に尋常でない奏の態度に気づいた真優は息を呑むと、急迫に頭を回転させた。

 竜胆奏はしきりに誰かと真優に問うている。

 この近隣にいる人物に向けての言葉だろうか。いや、それはない。だとしたら人物を指すなり指定して問いただすはずだ。そもそも知り合いに乏しい真優に聞く時点で人選を間違えている。彼女もそれは既知のはずだ。

 なら、真優が最近出会った人物の誰かを指してのことか。

 しかし、真優が最近行動を共にした人物は限られている。というより、二人しかいない。

 しかもその内の一人である楠木望はどんな偶然か奏と直接会話している。

 つまり、残される人物はすでに一人しかいない。

 鉄仙堂てっせんどう奈響なびきだ。

「……何か用でもあるの?」

「……いいから、答えて」

 鬼気迫る奏の表情に真優は思わず話してしまいそうになったが、水際でなんとか押しとどまった。奏が何の目的があって奈響について問い詰めているのか全く不明である為、おいそれと情報を渡すことはしたくはなかったのだ。

 そもそも奏がいつ奈響の存在を知ったのかも謎だ。

 浅い呼吸になりながらも、辛うじて視線をそらす。

「……竜胆さんに、関係、ないよ」

「この――!!」

 その言葉が地雷だったのか、彼女がが耳した瞬間拳を振り上げた。

 殴られる。そう思い目を瞑った真優だったが、いつになっても衝撃は訪れなかった。

 やがて圧迫されていた気道が解放される。

 目を開ければ奏が真優に背中を向けて立っていた。

 その様子にどこか拗ねたような、面白くなさそうな気配を感じた真優はもう一度真意を聞こうと彼女に手を伸ばそうとした。

「――っ、触んな!!」

 しかし奏はそれを拒絶するように怒鳴ると、片足に体重を移して左傾した。

 直後伸びてきた右足が真優の腹部に直撃する。後ろ蹴りだ。ここ最近感じていなかった彼女の技の一つに真優は崩れ落ちる。内蔵全てを揺るがすような衝撃に呻くこともままならない。

「――もういい」

 うずくまったまま震える真優に見向きもせず奈響は一言放つと歩き去っていく。

 しばらくして真優が呼吸を取り戻した後はすでに彼女の姿はなかった。

「結局何だったんだ……」

 奏が行う暴力はいつも真優にとって理不尽なものだったが、今日のは別段不可解で理解しがたいものだった。種類は違えど昨日の襲撃者に続いて連日である。よろりと真優は立ち上がると校門前に手をついた。

 奏が背を預けていたその場所には当然温もりは残っていない。

 錆れた鉄の冷たい感触が真優の手に伝わった。


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