良太郎②
こんにちは(゜∀゜)
今回の話は、グロいです。ひたすらに殺しのシーンばっかりで、私も途中具合悪くなりました。みなさんも、読むのが嫌になってくるかもしれませんが…ませんが…とうとうあの人とあの人が出会います…。やっと物語が佳境を迎えました。
今回も、ひらすらに長いです。今までの中で一番長いです。
なので、飽きてきたらゲームするなりほかの小説よむなり、時間を有効に使ってくださいねっ(´・ω・`)
「知ってる?先生」
今日も俺はこの人に会うために早朝から学校に来ている。
俺は裸でうつ伏せになり、美術室のソファーに横たわっていた。
「知ってるって、何をだ?」
「この学校に、超イケメンな美術教師がいるらしいって、噂になってること」
俺は先生のほうを向くため体勢を変えたが先生に止められた。
「ああ待て、動かないでくれ良太郎」
「あー分かったよ。もう、朝っぱらから生徒脱がして真っ裸にして
デッサンするなんて先生の変態」
先生が少し、顔をしかめた。俺はしまったと思い「ごめん」と言った。
「別にいいさ。で、その噂ってなんだ?」
「んー、なんかね、うちのガッコの女子生徒の間、最近その話で持ち切り。
先生ってさ、臨時教員だからかほとんど授業しないじゃん。まあしたとしても一、二回だろ?」
「…そうだな」
「んで、これはなんでか知らないけど一日中美術室閉じこもってんじゃん。
だから先生の授業受けたことある生徒以外はほとんど先生のことしらないんだよ。」
「下手したら僕のことを知らない教員もいるかもな。会う機会ないから。」
「うん。んで、先生の授業受けた生徒の中に、噂好きの女子がいてまわりに広めたんだとさ。幻のイケメン美術教師現るっ、てね」
先生はふむ、と言って悩みこんだ。
「参ったな。僕は細々と平和に過ごしていたいというのに」
なんのために学校に来ているのだろうという疑問が浮かんだが、言わないでおいた。
「先生、じゃ、俺がこうやって毎朝来るのも迷惑?」
「んな訳ないだろ」
先生がデッサンをする手を止め、こちらへと歩み寄ってきた。
そして、うつ伏せの俺を抱き上げ、ソファーに座らせた。
「僕は君を愛しているんだよ、良太郎」
そう言い、自分の唇を俺の唇に這わせた。
俺は目を閉じる。
俺がこの人に会ったのはいつだったっけ。
確か入学して一か月経ったころ。
今から四か月ほど前だ。
美術の時間、好きなテーマで絵を描くという授業があった。
俺はその期間インフルエンザにかかってしまい、ほとんど授業を受けられなかった。
なので、絵を完成させるのが皆より遅れてしまった。
仕方がないので俺は、放課後残って完成させることにした。
その時、美術室にいたのが先生だった。
入学当時から、この学校の美術室に朝から晩までこもっている不気味な教師がいるという噂があり、誰一人近づこうとしなかった。
俺も、良い思いはしなかったがやむを得ず残ることにした。
不気味な美術教師と言われていたが、実際は若くて女子生徒にモテそうな雰囲気である。俺は心なしか安心して、創作に取り組むことが出来た。
俺には苦手な科目というものはなかったが、「自由に創造しろ」、「自由に表現しろ」と言われると少し苦労した。
俺の絵は、皆に怖いといわれるからだ。
勉強やスポーツなどの上っ面なら誤魔化せるが、美術は内面を表現する科目。
常に俺の中にあったのは不安や葛藤、深い悩みに疑問だった。
それを表そうとして、見るものを不快にさせるような絵になってしまうのは当たり前だろう。結局、こういうところで化けの皮が剥がれてしまうんだ。自分を必死に隠してなんとか生きているだけなんだ、そう実感させられた時、俺は自分の存在の意味までが疑問に思えてきた。
そんな時、俺に声をかけてくれたのが先生だった。
「遅くまで残って、偉いな」
「あ、はい」
「君、名前は何て?」
「一年A組の鹿目良太郎です」
「どれどれ、どんな絵を書くのかな、鹿目君は」
そう言って、先生は俺の絵をのぞき込んだ。
「あ、ダメです。俺の絵…みんなに怖いって言われるんです。
今までの美術の先生もみんな書き直せって言ってきたし」
本当だった。俺の絵は、俺の心の中は誰にも理解されることはない。
そう思っていた。しかし先生は目を見開いて言った。
「すごいじゃないか鹿目君‼」
そのときの先生は、大好きなプロ野球選手に初めて会った子供のような目をしていた。その目は黒光りして、俺の姿を映し出していた。
「あ、いや、その、いいっすよお世辞とか」
「本当だよ。僕はこの絵がすごく好きだな。
この世界のやるせなさ、いや絶望感がよく現れている。ただ綺麗なだけじゃダメなんだ。本当の、ありのままの姿を表現してあげることも大切なんだ。
なんだか鹿目君の思っていることがよくわかるよ。どうしても分からない自分のことっ、てあるよな。それがよく現れてる。君は頭が良いんだね、そんなに深く悩んで。つらい時もあるだろう。そんな時は、遠慮しないで僕や友達に相談していいんだぞ?僕は朝、いつも学校に早く来ているからその時にでもおいで」
俺は驚いた。
ここまで俺の心の中を分かってくれる人がいるなんて。
父や母でさえも分かってくれなかったのに。
俺はその時思ったんだ。
「この人なら」って……。
だけど、俺が先生のことを信頼しているかと聞かれたならば、していないと答えるだろう。
第一に先生は結婚している。
妻がいるのに俺にも愛をささやく。
俺は先生の本命にはなれない。ただの「不倫相手」でしかない。
だから俺はいつ先生に捨てられるか不安だ。
言ってみれば、桜塚杞憂のほうが信頼できる。
なによりも彼女といると安心する。
「本当の俺」の姿を見ても俺と友達になりたいと言ってくれた。
だが、恋心とは何か違う。
俺はため息をついた。
本当はこんなサイコパスまがいの人間が人を愛するなんて許される訳はないんだ。
杞憂は、俺はサイコパスじゃないと言ってくれたがあれは信じられない。
あいつは綺麗すぎるんだ。だから俺の中にある恐ろしくて醜い感情が見えないんだ。
それでも、初めて俺の本性を打ち明けられた相手として彼女のことは大切だと思っている。
「愛…か」
俺は呟いていた。
「どうした、良太郎」
先生が聞いてきた。
「いや、なんでもないよ先生。そういえば先生は平和に過ごしていたいから美術室の住人みたいになってるんでしょ?ならなんであの時、俺の悩みを聞いてあげるなんて言ったの?」
先生はああ、と言って俺を膝の上に載せた。
「確かに俺は極力面倒くさいことは避けたい。が、良太郎の絵を見た時、君に興味を持ったんだ。この子のことがもっと知りたいなって。」
「で、俺が毎朝美術室に通ってるうちに欲情が芽生えてきたと?」
俺がにやにやしながら言うと、先生に頭を軽くごつかれた。
「良太郎は、そうやって感情を誤魔化す癖があるな。
まぁそこがかわいいんだけどな」
先生は、俺のことを知ったつもりでいるがサイコパスだということは知らない。
心の準備ができたら言うつもりだ。
杞憂にはあんなに簡単に言えたのに、本当に知ってほしい人に言えないのは
なぜだろうか。これじゃ堂々巡りだ。
一体どうすれば俺はサイコパスじゃないと分かるのだろう。
いつまで経ってもこれだけは解決しないままだ。
何か、俺をこの迷路から抜き出せるきっかけを作ってはくれないだろうか。
それだけでいいんだ、それだけで。
ここはとても寒くて、寂しいから。
今日は珍しく部活が休みだ。
門限まで時間があるので俺は「いつもの」場所に行くことにした。
町のはずれにある廃墟の工場。
その外見はお世辞も思い浮かばないような状態だった。
生やしっぱなしの雑草、崩れかけた瓦礫、必要とされなくなった大型ゴミの山。
しかし俺は昔からこの場所が好きだった。
初めてここに来たのは中一の頃。
偶然近くを通った時、俺は誰からも見捨てられてしまったようか姿に「大きな共感を覚えた。」
誰からも好印象だと言われ、好かれているであろう俺がなぜそこに共感を
覚えたのか。
もし、俺の本性を知れば誰もが俺を見捨てるであろう。
両親だって所詮、俺のいい外面、にしか興味がない。
だから、俺の本性が知れ渡った時の成れの果てのように感じられたのだろう。
この場所と俺は紙一重なのだ。
いつものように、工場の窓から侵入しようとしていると工場の中から男女が言い合う声が聞こえてきた。
ここに来る人間は俺くらいだろうと思っていたのに、と誰に対してでもない嫉妬をしてしまったのは情けない。
俺はとりあえず隠れて様子をうかがうことにした。
途切れ途切れではあるが、会話の内容が聞こえてきた。
「…なんで…がミホの携帯……ってんだよ‼」
「…に騙されて…来た……んたも…バカ…」
「ミホはどうしたん…てか……俺を呼ん…⁉」
何を話しているんだろう。
俺は耳を澄まして聞いた。その瞬間、はっきりと言葉が聞こえた。
「殺してやるわ」
その何秒か後に、男の悲鳴が聞こえた。
俺はただならぬ気配を感じ、思わず隠れていた窓の下から顔を出してしまった。
そこにあった光景は、俺の脳を停止させてしまった。
白いパーカーのフードを頭に被った女が男に馬乗りになっており、そして男の
胸にはナイフが突き刺さっていた。
男と、俺の目が合った。男は血走った目を見開き、最後の力を振り絞りこう言った。
「たっ…助けてくれ」
白いパーカーの女が俺に気付き、こちらを見た。
俺はまずい、と思い逃げようとしたが体がいうことを聞かない。
すると、その女が口を開いた。
「なんだ、怖くて動けないか」
女は男の胸に突き刺さっていたナイフを抜いた。
血が盛大に吹き出る。最後の足掻きとして俺のほうに伸ばされた男の手は、あっけなく降ろされた。
俺はガタガタと震えだした。殺される。
するとその様子を見ていた女が笑った。
「いいよ、そんなに怯えなくても。あんた、これから警察に電話するんでしょ?
仕方ないさ。あたしの復讐もここまでってことだ。」
女が、被っていたフードをおもむろに脱いだ。
同い年くらいだろうか。このような心理状態でも、美人だな、と思った。
必死に震える唇で、俺は言葉を紡ぎだした。
「き、君が殺したのか」
「そうよ、コイツあたしのことレイプしたの。だから殺したっていうより復讐ね。」
既に死体になったものを見ても何ともなかったが、さすがに目の前で人が
殺されるのを見るというのには驚いていしまった。
警戒する俺の姿に女はまた笑った。
「大丈夫だって。あたし、恨みがある人以外は殺さないから」
俺はなぜかその笑顔に安心してしまった。
そして、それと同時にこの人のことを知りたいと思った。
そうだ、もし殺されそうになったら、鞄の奥のナイフを取り出せばいい。正当防衛だ。俺はその女に話しかけた。
「君の…名前は?」
「あたし?サワコだよ」
「サワコ…」
「あんたは?」
「俺は…良太郎」
そう、良太郎、と言ってサワコはにこっと笑った。
「サワ…コは、人殺すのこれが初めて?」
サワコはぽかんとした。
「あんた、あたしが怖いんじゃないの?早く逃げればいいじゃん」
「怖い、けど他人とは思えなくて」
サワコは腕を前に出して伸びをした。
「言っとくけどね、わたしはサイコパスとかじゃないから。あんたはどうか知らないけど」
俺は口をつぐんだ。
「あたしはね、正義のために人を殺してるの。んで、さっきの質問に答えると、人殺しはこれが初めてじゃない。この前に二人殺してる」
「二人…?」
「うん。ミホとタクミってやつ。ミホはね、あたしを強姦させた公園のしげみで殺してやった。同じ思いをさせてやったんだよ。で、タクミは渋谷の廃墟ビルでさんざん苦しめて殺してやった。」
サワコは話し続けた。
「もう、死体は見つかってるかな。まああたしを強姦した人たち全員に復讐し終わったら、逮捕されてもいいんだけどね」
サワコは俺とは違い、人を殺したいと思うのには目的がある。
俺とは違う、が、俺はサワコに親近感を持った。
俺はサワコに尋ねた。
「サワコが殺したのってもしかして、相川美保と川端匠?」
サワコはえっ、と声を上げてこちらを見た。
「何で知ってんの?あいつらの名前」
「俺さ、そのミホってやつの死体の第一発見者なんだよ。
だから、警察から色々教えてもらったてわけ。警察、もう動いてるよ。
サワコだとは目星つけてないみたいだけど」
「そう、じゃあ見つかるのも時間の問題だな。はぁ…アイツに、
いいとこ見せてあげたかったな」
アイツ、とは誰だろう。サワコは、自分のためだけでなく
誰かのためにも復讐していたというのか。
確かに、自分を汚されたのが悔しくて、強姦に関わった人たち
全員殺すって言うのは動機が薄すぎる気がする。
「サワコ、アイツって誰?」
サワコは下を向くと一瞬遠い目をして、話し出した。
「アイツはあたしの…魂の片割れ、とでも言ったらいいかな。んー、ちょっと違うか。でも、アイツはあたしのことを知らないんだ。でも、あたしにとってのアイツはすっごく大切なんだ。もしアイツが泣いてたらすぐにでも駆け付けてやる。
もしアイツをいじめるやつがいたらあたしが殺してやる」
「それが…アイツ、の親であっても?」
俺が聞くと、サワコはうーんと唸ってこう答えた。
「アイツの家族を殺すのは、さ、アイツ自身が生活できなくなって
困るだろうからしないけど。まぁ、ほんとは殺してやりたいけどな」
「サワコ…」
「あたしはね、アイツを命を張って守ってやりたいと思ってるんだ」
生き別れた妹かなにかだろうか。
まぁどっちにしろそいつに認められることを目的として殺人をしたのだろう。
なぜ、それがサワコを犯した奴らを殺すことと関係あるのかは分からないが。
俺と、このサワコという人物は全くもって違う。
サワコが人を殺すのはあくまで正義であって、自分の大切な人に
認めてもらうためである。
一方俺は、人を殺したことはないが、少なくともサワコのように正義ではない。
誰かに分かってもらいたいわけでもない。
だが、俺はサワコを他人と思えなかった。
だから俺は、
普通の人間として生きていくという選択肢を投げ捨てた。
「サワコに協力してやる」
「えっ…」
サワコは、俺が何を言っているか分からないという表情をした。
「サワコの正義がどんなものなのか、もっと知りたい。
だからサワコが全員に復讐できるように協力する。警察なんかに捕まえさせるものか」
サワコはあっけにとらわれていた。しばらくたち、サワコは言った。
「いいよ、あんたのこと信じるよ、良太郎。けどね、一つ言っておかなきゃいけないことがある」
「何?」
「…あたしは涙を流したことはないんだ。心を揺さぶられて、感情に動かされて泣くってことが皆無なんだよ。そんな気持ち悪い人形みたいな人間だよ?
それでもあたしの肩を持ってくれるの?」
サワコは、捨てられた子犬のような表情で俺を見た。
ああほら、俺に似ている。
感情が欠けているところ、そっくりじゃないか。だから勿論俺はこう答えた。
「そんなこと、気にしないよ」
「………ありがと」
サワコは嬉しそうに笑った。
俺は、サワコと明日の夕方もここで会う約束をして別れたのだった。
次の日、俺とサワコは昨日と同じ場所に来ていた。
俺はサワコに借りたスタンガンを、サワコはナイフを持って、物陰に隠れている。
この状況をもし昨日俺が見たらぶったまげるだろうな、なんて考えていると入り口から足音が聞こえてきた。俺たちは息をひそめた。
「おーい、来たぞ~、ミホ」
男の声だった。間違いない。サワコが、美保の携帯で呼び出したレイプ犯の一人だ。
「てかお前サイコー。またかわいいコ拉致ってきたからヤらしてくれるとか、優しすぎんだろ、なぁミホ……ぐぁっ…」
俺は、男の背後からスタンガンを振り下ろした。
男はあっけなく倒れた。
「や、やった…」
俺は息を荒くしながら笑みを浮かべた。
「良太郎、そいつの手足、このロープで縛って。あたしがタクミ殺したとき、仰向けにすんのすっごい重くて大変だったんだから。ほんと、あんたがいてくれて良かったよ」
「ああ…」
「ほ、ほら、目を覚ます前に早く」
サワコは目を反らした。
男は、ミホが殴るとすぐに目を覚ました。
男は大騒ぎしたが、こんな町外れの工場を夕方に訪れる人なんかいなかった。
「お前の地獄行きは最初から決まってたんだ、よっ‼」
「ぐぁっ⁉」
サワコはこれでもかというほどに男を痛めつけた。
「はっ、昨日はスタンガンで気絶させる前に振り向いて気付かれちゃったから。
あんま苦しめられなかったけど、今日は思う存分できるっ‼あははっ」
俺はその様子を傍観していた。
体中がうずいて仕方ない。
俺が少し前に夢で見たのとは結構違った。
血の出方とか、苦痛に耐えきれず出す声とか。
こんなに恐ろしいものを見ても何も感じないなんて。
俺は自分をサイコパスだと半分近く確信し始めていた。
「Go to hell‼」
サワコがその一言と共に男の胸にナイフを突き刺すと、男はうめき声を上げながら息絶えた。
今日は、サワコを犯した男を殺す最後の日だ。
これが成功すれば、サワコは無事全員に復讐できたということになる。
そしてサワコは今日に全てを賭けているらしい。
なぜなら、今日殺すのは、サワコの処女を奪った相手だからだ。
根拠は、今まで殺してきた人たちの中にその相手がいなかったから、だそうだ。
初めて会った日からサワコは、「苦しめてやる、今までの誰よりも…」
と一人呟いている。
サワコはいつもと同じ手順でその男を呼び出した。
「男って単純よね。かわいい子連れてきたからヤらしてあげるって言えば、疑いもせずにノコノコやって来るんだから」
「ああ、本当だよ、男って最低だよな」
「ってあんたも男じゃん‼」
サワコは素早く突っ込みを入れてきた。
俺がそっか、と言って笑うとサワコも笑った。
良かった。少しはほぐれたみたいだな。
あんなに緊張してガチガチじゃ失敗しそうだったので、心配だったのだ。
俺とサワコが笑い合っていると、声が聞こえた。
「いるんだろ?」
俺たちは息をひそめた。まずいな、聞こえたかもしれない。
サワコに同意を求めようとサワコのほうを見ると、サワコは下を向いて震えていた。
「って…」
サワコがつぶやいた。
「早くやって」
サワコが鬼のような形相で顔を上げた。
俺は少し怖くなり、すばやく男の背後に回り、スタンガンを押し付けた。
そして、サワコが無言で差し出したロープで男を縛った。
今回は、サワコの希望で俺が男の顔を蹴り、目覚めさせた。
男はすぐに目を覚ました。
男は辺りを見回し、全てを察したようだった。
「いいよ、良太郎、あんたがこいつに拷問与えて」
「え、だって俺、見てるだけなんじゃ…」
「だめ、あたしはこいつを一番苦しめて殺してやりたいけど、あたしがやったら
憎すぎてすぐ殺しちゃいそうだから」
俺は戸惑った。
俺がしたかったのは、あくまで「手伝い」で、自分と関係ない人を痛めつけることではなかった。俺が迷っていると、袋の中のネズミとなった男が口を開いた。
「殺すのか、俺のこと」
俺とサワコは一斉に男のことを見た。
「あっ、あったりまえじゃない‼あたしの処女奪ったんだもん、誰より苦しめて殺してあげる‼」
殺人予告をされたというのに男は慌てることなくむしろ落ち着いた様子だった。
「殺したいなら、殺せよ。覚悟はできてる」
なんだこいつは。今までの奴と明らかに様子が違う。
「まさか…あんた最初から分かってて…
サワコはわなわなと震えた。
「俺、知ってたんだよ。もう、ミホが殺されてるって。ニュースで見たよ。
殺したのサワコだろうなって、薄々気付いてた」
「あんたは…」
男は話し続けた。
「だから、俺はサワコに謝りに来たんだ。本当に悪いことをしたと思ってる。
謝って済むことじゃないことも。だからもしここで許してもらえたら、自首しようと思ってた」
「うっ…嘘よっ‼」
サワコは目を見開き、恐ろしい物を見るようなような目つきで少しづつ
後ずさっていった。
「でも…それは無理みたいだな。いいよ、殺せよ。拷問でもなんでも。
罪はそれで償う。自首と代償に、俺の命を奪え」
サワコは必死になって言った。
「あっ、あったりまえ‼そんなのっ‼あたしは正義よ、警察に代わってあんたを死刑にしてやるの‼」
「それは違うな。お前には愛というものがないのか。愛があれば人は殺さない」
「っ…」
サワコは口をつぐんだ。
「おまえはただの………」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼‼」
サワコは恐ろしい形相で、俺の右手に握られていたナイフを奪い取り、男の身体に突き立てた。
男は声も上げず、ゆっくりと目をつむっていた。
サワコは何度も何度も、男の身体中にナイフを刺していった。
そこに、自分の憎しみの全てがあるかとでもいうように。
俺は、男の返り血を浴びながら、サワコが男を殺していくのを眺め続けていた。
最も憎らしい相手を殺した後、サワコはずっと無言だった。
俺は何を言っていいか分からなくなってしまった。
自分が何もしてやれなかったということでサワコを怒らせてしまたのか。
しれとも、あの男の最後の言葉か…。
俺が何かを話しかけようかと悩んでいると、サワコが口を開いた。
「良太郎、あたしたち、もう会うのやめよう」
「えっ…」
「良太郎のこと嫌いになったとかじゃないから。安心して。ただ、あたしがあたしを嫌になっちゃっただけ。今まで協力してくれてありがとう。バイバイ」
サワコは俺に背を向けると、去って行ってしまった。
俺は何が起こったか分からないまま、混乱しているうちにサワコの姿は
見えなくなってしまったのだった…。
それっきり、サワコから連絡が来ることはなかった。
ありがとうございました(^_^)/
長かった…ですね。
私もキーボードの打ちすぎで指が痛いです。
早いもので、これで二章が終わったので次は三章です。
今度は、前回の杞憂の話から4か月後と、かなり飛びます。
それでは、またっ(^o^)丿