光と影8
竪琴の音は時として白々とした月の光のように澄み渡り、時として松明の炎のように明るく夜空を照らし出した。
クロフは一つの詩を歌い終えると、竪琴を背中に戻し、大蛇に頭を下げた。
「では今夜はこれで失礼します。月の神シンドゥが夜の安らぎをもたらすように。また次の晩会いましょう」
クロフが湖から馬のところへ戻る途中、奇妙な声が木々の間から響いてくる。
耳を澄ますと、それは人の声のようだった。
クロフは声のする方に松明を掲げ、照らしてみると、衛兵二人が泥の中に腰まで沈んでいた。
三ヶ月が過ぎ、季節が夏に変わるまで森には何の変化も表れなかった。
クロフが耕した土地にはわずかな作物が実り、草木も少しずつ生えるようになっていた。
初夏を迎えたある日。ヒーネが兵士を引き連れて森の側までやってきた。
ヒーネは土を耕しているクロフを見つけると、馬の上から蔑むような目つきで見下ろした。
「君も大変だねえ。こんな土地を耕して何になるんだ? 化け物を倒せば、すべては解決するのに。土地を耕すのは無駄な努力だよ」
ヒーネはクロフの耕した緑の畑を見ようともせず、さっさと兵士を引き連れて行ってしまった。
クロフは言い返すことさえせず、また畑を耕しに戻った。
それから数日後。
夜中に湖を訪れたクロフは、夜風に血の臭いが混じっているのに気が付いた。
クロフは何も言わず、竪琴で悲しげな曲をつま弾いて、彼らの鎮魂歌の代わりとした。
大蛇は青い目を細め、黙ってクロフの詩に耳を傾けていた。
季節は巡り、その度ごとに何組もの討伐隊が森へやってきた。
「化け物を倒しても、土地は元には戻りません。どうか討伐を考え直してはもらえませんか?」
クロフは彼らを説得しようと言葉をかけたが、誰一人としてクロフの言葉に耳を傾ける者はいなかった。
秋になり、クロフは畑で実った作物を収穫し、ささやかながら収穫祭を祝うことが出来た。
牛の丸焼きや、果物、蜂蜜酒は無かったが、奴隷達や衛兵も加わって、大きなかがり火を中心に歌や踊りをして楽しんだ。
この時ばかりは、クロフも皆の前で竪琴を弾きならし、明るい曲を演奏した。
祭りは明け方まで続き、そのにぎやかさは森にいる大蛇のところまで届き、彼女に呆れられるほどだった。
やがて長い冬が訪れ、再び明るい春が巡ってきた。