光と影7
沼地を一巡りして戻ってきたクロフは、奴隷達と共に沼地を掘り返し始めた。
クロフには吟遊詩人になるため、神殿で教えられた様々な知識があった。
土や植物に関する知識もその一つだった。
クロフはその知識を生かし、土地を蘇らせようと考えた。
しかしそれが長い時間を必要とし、とても困難なであることは、クロフにもわかっていた。
クロフは土を調べ、どうすれば土地を蘇らせることが出来るのか、その土地で育てられる作物は何かを調べ始めた。
それから毎日、クロフは奴隷達と共に土を耕し、作物の種をまき、牛馬の世話をし、そこから肥料を作って畑にまいた。
夜明けと共に起き、日が暮れるまで働き、うち捨てられた村へ戻る生活が続いた。
領主に命じられてクロフの様子を見張っていた衛兵は、ある満月の夜にクロフが村から出て行くのに気が付いた。
クロフは足音を忍ばせて馬に乗り、森の方角へ向かっていく。
衛兵はお互いうなずき合って、クロフに気付かれないように後を追った。
クロフは森の端まで来ると、馬の手綱を木の枝に結び、松明を片手に森へと足を踏み入れた。
衛兵はしばしためらった後、後を追って月の光さえ届かぬ暗い森へと入っていった。
クロフは松明をかかげ、ぬかるんだ道を通り、森の中央にある湖へと向かう。
途中、生い茂った枝や、岩に足を取られつつも、クロフは湖にたどり着いた。
クロフが湖の岸辺に到着するなり、月を映していた水面が波立ち、渦を巻き始めた。
渦の中から姿を現したのは、銀のうろこを月光にきらめかせた一匹の大蛇だった。
大蛇はクロフをちらと見、呆れたようにつぶやく。
「また懲りもせず来たのか。数日ごとにこの湖を訪れては、竪琴をつま弾き、世間話をしては帰って行く。お前はここへ何の理由があって訪れているのだ?」
大蛇は青い目を細め、松明の明かりに照らされたクロフの顔を見下ろす。
「別に特別の理由があって訪れているわけではありません。あなたと話がしたいから来ているだけです」
クロフは岸辺の岩の上に腰掛け、松明を岩との割れ目に立てかける。
「ぼくは土地を元に戻す方法を探しているんです。あなたなら、その方法をご存じかと思って」
「それでわたしの機嫌取りか。ふん、いい身分だな」
大蛇は呆れたようにつぶやく。
クロフは背負った竪琴を下ろし、音を確かめるように指で弦を軽く弾く。
そしておもむろに竪琴の音色に合わせ、歌い始めた。
クロフの歌声は夜風に乗り、辺りの森に響き渡る。
月の光が降り注ぐ湖面を揺らし、闇に溶ける木々の葉をざわめかせた。