光と影6
王はそれを聞くなり、部屋中に響くほどの大声で笑い転げた。
家臣達の間からも忍び笑いが漏れる。
「命? 命と言ったか? 言うに事欠いて命とはな。これは面白い」
クロフは王の笑いが収まるまで目を伏せ、黙りこくっていた。
「では一年だ。一年の猶予をお前にやろう。それまでに何の成果も現れなければ、お前の命とやらをもらうとしよう。来年の春を楽しみにしているぞ」
王は傍らに控えていた召使いを呼び、クロフに数人の奴隷と家畜、穀物の種など、必要と思われる物をそろえさせた。
最後に出発するときになって、監視役として衛兵二人を伴わせた。
「あの者が逃げぬよう、くれぐれも監視を怠るな」
クロフは一時の休息も取らず、追い立てられるように奴隷や家畜を連れて城を出発させられた。
太陽が西の荒野に差しかかる頃、うち捨てられた村に一行はたどり着いた。
森に化け物が住み、大地の腐敗がすぐそばまで迫ってきたため、村人が逃げ出し、人の住まくなった村だった。
石壁の家々の扉は開け放たれ、水瓶には水が残り、冬用の薪や鉢に植えられた植物がそのまま置いてあった。
納屋には作業用の鍬や、家畜用のわら、大麦といった食料がそのまま残してあった。
クロフは村で一番の大きな家に奴隷達と一緒に泊まり、残っていた薪を燃やして暖を取った。
城でもらったいくらかの大麦のパンを炉の火であぶり、納屋に引き入れておいた家畜の乳をしぼり、それらを暖めて夕食とした。
奴隷だからといって、クロフは彼らを区別することはしなかった。
パンを均等に分け、五人の奴隷に平等に行き渡るようにした。
南の王に命じられ付いてきた衛兵二人は、部屋の隅で別々に食事を取っていた。
次の日の朝早く、村から少し離れたぬかるんだ土地にたどり着いた。
元々畑や牧草地だった土地は、地の底から気泡が湧き、辺りには鼻をつくような悪臭が漂っている。
その土地には木らしいものは生えておらず、ぬかるんだ平野には葦が伸び、ごつごつした岩地がどこまでも続いていた。
クロフは奴隷をそこで一端休ませ、馬に乗って平野や丘の向こうを見に出かけた。
いくらか進むと、小高い緑の木立が眼前に広がっている。
そこが一帯を沼地に変えたという大蛇が住む森だった。
クロフは緑の森から目を背け、沼地とそうでない土地との境目に馬を進めた。
馬を進めるうちに、沼地が森を中心にほぼ円形に広がっていることに気が付いた。