光と影5
クロフはゆっくりと首を横に振る。
「あなたがもらってください。故郷で暮らすためにも、お金は多い方がいいでしょう?」
クロフはケーディンの肩を叩き、その背を押す。
ケーディンは廊下の壁に片手を置き、ぎこちない足取りで歩いていく。
「ありがとな」
ケーディンは背を向けたまま、小声でつぶやく。
クロフは黙ったまま、その大きな背中が扉の向こうに消えるのを見つめていた。
「森の化け物を退治したところで、作物の実らなくなった土地は元に戻りません。それどころか、もっと悪い事態を招いてしまうかもしれません」
クロフは南の王と面会するなり、開口一番そう言った。
「では、どうすればいいのだ?」
王は椅子に座ったまま、額に手を当てる。
「無礼な頼みとは重々承知しておりますが、どうかわたしに幾人かの農夫と家畜、何種類かの穀物の種をください。彼らと共に土地を耕し、昔のような豊かな土地に戻して見せます」
王の部屋にいた家臣達が一斉に顔を見合わせる。
王は暗く重苦しい声で答える。
「しかし今までに何人もの農民がその土地で作物を育てようとしてきたが、無理だったのだぞ。お前のような農民でもない者が、作物を育てても失敗するのは目に見えている」
部屋の窓から差し込む昼の明るい光とは対照的に、人々の顔には暗い影が落ちている。
「今までそうやって甘言を弄し、わしに近づいて来た者は何人もいたが、誰一人として土地を元に戻した者はおらぬ。それどころか、奴隷や家畜を持って逃げる者や、途中で行方知れずになる者ばかりだ。お前がそうならない保証はあるのか?」
クロフは何も言わなかった。
重苦しい沈黙の中、赤く燃える炉から薪のはぜる音が響く。
「わかった。数名の奴隷と、数頭の家畜、穀物の種を与えよう。しかし、ただでと言うわけにはいかぬ。何らかの物品と引き替えだ」
王はクロフの身なりをじろじろと眺め回した。
クロフの身なりはただでさえみすぼらしいものだった。
森の化け物との戦いの折、服のあちこちは泥で汚れ、破れたままになっている。
「わたしの与えられるものは、たった一つしかございません」
クロフは強い意志のこもった赤金色の瞳で領主を見つめた。
「それは、わたしの命です」