光と影4
クロフはしばらくの間黙り込む。
「しかし、それはとても困難なことです。下手をすれば、あなたの両目は永久に治らず、ぼくも命を失うことになるかもしれません」
ケーディンは喜びの声を慌ててのどの奥に引っ込める。
その時、ケーディンの両目はすでに光を失っていたため、その時クロフがどんな表情をしているか、赤金色の瞳に絶望にも近い暗い炎を映しているのにも、もちろん気づかなかった。
「詳しくは言えませんが、それはとても長い時間がかかるかもしれません。それでもいいですか?」
ケーディンは少しの間考える素振りをしていたが、大きくうなずく。
「まあ、ちっとはおれもため込んでいるしな。故郷に帰って、妹や弟達とつつましく暮らせばしばらくは何とかなるだろう」
ケーディンは豪快に笑う。
ケーディンの明るい様子を見て、クロフの口元にも笑みがこぼれる。
それからしばらくの間、ケーディンのたわいない話が続いた。
両目が治ると聞いて、気分が高揚していたのだろう。
彼はもっぱら故郷に残してきた妹や弟達のことについて話した。
荒野のヒースが夏の太陽を受けて紫色に染まる頃、故郷に戻るといつも一番初めに蜜蜂達のうるさいくらいの羽音にでむかえられるという。
早くに両親を病で亡くし、長兄である彼が妹や弟達の面倒を一度に見てきた。
彼は家計を助けるため、村を出て様々な仕事をやってきた。
街から街に移動するうちに、生まれ持った体格の良さと腕っ節が認められ、地方の権力者の護衛などを務めるようになった。
森の化け物のうわさ話はその時に聞き、一山当てようとやってきたという。
クロフはケーディンの話に相槌を入れ、廊下を歩きながら聞いていた。
しかしその横顔に時折ひどくつらそうな表情が浮かんでいたのを、盲目のケーディンは気付かなかった。
領主の部屋の少し手前まで来ると、クロフはケーディンから腕を放す。
「では、ここでお別れです。あなたは最初に領主の部屋を訪ね、森での出来事や、化け物についてのことを事細かに話してください。そしてその化け物に一太刀浴びせたこと、その代償に両目の視力を失ったことを話してください。そうすればいくら薄情な相手であれ、人々の手前、いくらかの報奨金がもらえるはずです。あなたはそれを持って故郷に戻っていてください」
ケーディンが抗議の声を上げる。
「おい、それは違うだろ! 化け物はお前が」
「いいんです」