光と影3
「手持ちの薬草は限られていましたし、あなたの両目の処置のほうが大事でしたから」
こともなげに言い放つ。
「だからってな、お前!」
ケーディンはクロフに詰め寄ろうとしたが、白髪の薬師に止められる。
「怪我人同士が喧嘩するでない。そっちのひょろっこいのの怪我は、骨まで溶けていないのが不思議なくらいの重傷だし、筋がいくらか切れているから、多少の不便が出るかもしれぬな」
薬師は部屋の隅の清潔な白布を持ってきて、それを広げる。
「このでかいのはかなりの重傷だな。両目とも視力を失っておる。わしの持っている薬草や、過去の文献からでは、こいつの両目を治すのは不可能じゃな」
わかっていたこととは言え、いざ目の前ではっきりと告げられ、ケーディンは肩を落とした。
治療が終わると、二人は老薬師に礼を言ってその部屋を後にした。
長い城の石畳の廊下に二人分の靴音が響く。
城にはほとんど人の気配が無く、薄暗く静まりかえっていた。
窓の外の城下町の方からは、人々のにぎやかな声が風に乗って聞こえてくる。
「あの貴族のぼっちゃんはまだ城門のところにいるのか? 森の化け物も退治していないのにいい気なもんだ」
ケーディンはクロフの肩を借り、ゆっくりと薄暗い廊下を歩いていく。
「森の化け物について触れられたら、彼はどう答えるつもりなんでしょう?」
クロフは苦笑いを浮かべる。
「さあな。貴族どもの考えることは、いまいちよくわからん」
ケーディンはどうでもいいことばかりにはき捨てる。
クロフは廊下を進み、曲がり角を曲がる。
城内の召使いがほとんど出払っているため、領主の部屋までの道のりは、二人の記憶だけが頼りだった。
しかしクロフは立ち止まったり、長く迷ったりすることはなく、廊下を進んでいった。
「おい」
三つ目の曲がり角を曲がったところで、ケーディンが声をかける。
「お前、さっき言ったことは本当なんだろうな?」
クロフは足を止め、わずかに顔を上げる。
「城門の外で言ったことだよ。おれの目が上手くいけば治るとか、何とか。あれは本当なのか?」
クロフは一瞬だけためらうように、光の差し込む窓の外を眺める。
「ええ、そうです」
ケーディンの口から喜びの声が漏れる。
「やった、本当か?」