表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

光と影29

「あなたは、まだ死んでいません」

「君は」

 クロフは差し出された手をつかみ、ゆっくりと立ち上がった。

「戻りましょう。地上に」

 女はクロフの手をつかんだまま、列とは反対の方向へ歩いていく。

「あなたは」

 クロフは手を引かれながら、懐かしい気持ちに包まれた。

 白い女を以前から知っているようにも思え、全く知らない人のようにも思える。

 手から伝わってくる温かさは、彼女が生きた存在であることを物語っていた。

 女の進む先、黒い丘の向こうに、いつしか白い光が差し込み始めた。

 気が付けば、手を引いていた女の姿は消え、その手の感触だけ残っている。

 溢れんばかりの白い光に、クロフはゆっくりと目を閉じた。



 はじめクロフは暗闇の中にいた。

 それは凍えるような孤独の闇ではなく、寝入る前のような安らかな闇だった。

 体の節々が痛み、頭はぼんやりとしている。

 クロフはまどろむような心地で、人々のざわめきを聞いていた。

 薄く光の揺れる先には、見知った人々の姿が見える。

 いつも神殿でクロフの世話をしてくれた女神官、幼なじみのロキウス、心配顔のフィエルナ姫。

 クロフは彼らの喜びに溢れる顔を見て安心した。

 そして視界の端にはディリーアの姿を認め、胸の奥に熱いものがこみ上げてきた。

 クロフはディリーアに向けて口を開いたが、そこから漏れたのは風にも近い乾いた音だけだった。

 クロフが腕を上げようとする前に、ディリーアの姿が視界からかき消えた。

「お父様、その方をどうしようというのです? その方は魔女とは言えど、クロフ様の命を助けてくださったのですよ?」

 フィエルナ姫の厳しい声が部屋に響く。

 クロフはフィエルナ姫の肩越しに、ディリーアが床の上に兵士達の手で押さえ込まれているのを見た。

「どうしようも何も、元々こやつは多くの者達を殺し、国民達を長い間苦しめた森の魔女ではないか。いくらこの男の命を助けたからと言って、罪が軽くなるわけではない。死んだ人々が生き返るわけでもない。罪は罪だ」

「それは」

 フィエルナ姫は口ごもった。

「その女を牢に連れて行け」

 ディリーアは抵抗をする様子も見せず、両腕を兵士に固められ、クロフに背を向ける。

 女神官もロキウスも、暗い表情のまま黙り込んでいる。

「待て」

 クロフはかろうじて声を発したが、のどからは蚊の鳴くほどのささやきしか出てこない。

 クロフの視界の端で、ディリーアの小さな背中が闇に消えていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ