光と影28
その者達は、骨が見えるほどやせ細り、手足は枯れ木のようにしなび、腹が樽のようにふくらんでいる。
人々は皆、白い道の先、青い月の指し示す方角を目指しているようだった。
我に返ったクロフは、ここがどこであるかようやく思い出した。
ここは伝聞にある、死の国へと続くリンボクの林であり、人々はここを通り、月の神の元へ赴くことになる。
クロフは二歩三歩後ろへ後ずさり、押しかける人々の間を縫って、元来た道を戻り始めた。
人々は絶えることなく波のように押し寄せてくる。
人々の数は次第に多くなり、ついには身動きが取れなくなってしまう。
胸から血を滴らせた青年、枯れ木のように細い老人、片腕の亡くなった少女。
彼らがクロフの耳元で恨み言のようにささやく。
「どこへ行く」
「お前だけ逃げるなど、許さんぞ」
口々に叫び、しがみついてくる彼らに、クロフはどうすることも出来なかった。
「息子に、もう一度会いたい」
「一人残してきた妹は、どうしているだろう?」
「村を焼いた彼らに、復讐を!」
彼らの言葉一つ一つが、黒い炎のようにクロフの心を暗く染めていく。
「やめろ!」
クロフは赤い髪を振り乱し、人々の間から叫んだ。
叫びは星一つ無い暗い空に吸い込まれ、消えていく。
「やめろ! やめろー!」
それでもクロフは叫び続けた。
クロフの叫びに呼応するように、空に白い雲がかかり、瞬く間に青い光を遮った。
雲は地表に雨を降らし、人々の怨嗟の声が徐々に小さくなっていく。
雨粒は白糸のように人々の上に降り注ぎ、心にたまっていた苦しみ、悲しみの黒い炎を消していくようだった。
細い雨はクロフの上にも降り注ぎ、彼に心の安らぎを思い出させた。
クロフの手足をつかんでいた人々も、雨に打たれ、それぞれに手を放し、リンボクの林へと向かっていった。
道の端に取り残されたクロフは、人々が進んでいく先を黙って見つめている。
「彼らの憎しみ、悲しみも、青い月へ行けば、やがて忘れ去るでしょう」
クロフの隣には一人の女が立っていた。
女は白く細い手をクロフに差し出す。