光と影24
ディリーアは部屋にいる面々を見渡し、不機嫌に鼻を鳴らす。
「あいつ一人のために、こんな大勢が集まっているとはな」
その部屋には王や家臣、城の主要な人物が集まっていた。
そして寝台の枕元には青い衣をまとった人影が人々から離れて立っている。
人影は風に揺れる柳のように、寝台のクロフをじっと見下ろしていた。
ディリーアは部屋の入り口で立ち尽くしたまま、ちらりと青い衣の人影を盗み見た。
「部屋に、月の神の使者が来ているな」
前を歩く女神官に小さく耳打ちする。
女神官の驚きが背中越しに伝わってくる。
「あそこだ。寝台の枕元に、クロフをのぞき込むように立っている」
ディリーアは痛む頭から指を放し、平静な面持ちで部屋に足を踏み入れた。
ディリーアの後ろをロキウスやフィエルナ姫が続く。
寝台の枕元まで来たディリーアは、ちらと月の神の使者を視界の端に留めた。
その瞬間、ディリーアは吐き気さえもよおす、激しい頭痛に襲われた。
「邪魔をするな」
月の神の使者は青い頭巾の下から、獣にも似たうなり声を上げる。
雪原を渡る北風のように、その声を聞いてディリーアはぞっとした。
ディリーアは気丈にもにらみ返す。
「お前はどういう理由あって、こいつを連れて行こうとするのか」
女神官やロキウス、周囲の人々の息を飲む気配が伝わってくる。
「この者の死が近いからに決まっておろう。地上で死んだあらゆる魂は、等しく地下におわす月の神の御前に連れて行くのが、我々の役目だ」
ディリーアの頭に激しい痛みが走る。
月の神の使者の姿も、発した声も周囲の人々には全くわからないらしく、部屋中の視線はクロフの枕元に立つディリーアに注がれている。
「しかし、こいつは死に瀕しているものの、体は至って元気だ。死んだ者でなければ、死の国に連れて行くことが出来ないはずだが?」
ディリーアは精一杯気持ちを奮い立たせる。
そうして少しでも気を強く持っていないと、頭の痛みで気を失ってしまいそうだった。
「そうだ、お前の言うとおりだ。それ故、こいつの魂が肉体を離れ、本当の死を迎えるのを待っているのだ」
使者は青い頭巾の下から、風がうなるような低い声で笑う。
「こいつの死後の罪は重いぞ。何しろ、天から与えられた命を自分の手で吹き消そうとしたのだから。月の神の審判の後、死の国での責め苦は免れないだろう」