光と影23
天上での祝宴のこと、月の神のこと、火の神とのやり取り。
もう天上の神々でさえ忘れ去ってしまった、遙か昔のことさえ彼女は思い出してきた。
短剣を持って突進してきた村人の前に、突然水柱が立った。
その水柱の水滴は鋭い刃となって村人の持っていた棒や槍の柄を真っ二つにする。
彼女の瞳に青い輝きが灯り、水の上にゆっくりと立ち上がる。
村人の悲鳴、血しぶきを受け、彼女は静かに目を閉じた。
気が付けば、彼女の体は銀色の巨大な蛇に変わっていた。
大勢の靴音に目を覚ましたディリーアは、痛む頭を押さえ起きあがった。
そして牢の前に居並ぶ人々を見てうんざりした。
そこには最初に牢を訪れたロキウスと奴隷達、中年の女神官、フィエルナ姫までもが集まっていた。
「今度は何の用だ?」
ディリーアは不機嫌に尋ねる。
「あの方を、クロフ様を助けていただきたいのです」
フィエルナ姫が鉄格子に歩み寄った。
「魔女の力を借りるのはしゃくだが、あいつの状態は普通ではない。怪我は治っているはずなのに、魂が呼び戻せないのだ」
ロキウスは悔しそうに杖を握りしめる。
「彼を助けられるのは、あの子の心を呼び戻せるのは、あなたしかいないのです」
中年の女神官はうつむき、ディリーアに頭を垂れる。
「どうか、クロフ様を助けてください」
「お願いします」
「お兄ちゃんを助けて」
奴隷達が頭を下げる。
ディリーアは痛む頭を押さえ、牢の前の人々を見回した。
「わかった」
ディリーアは長いため息とともに立ち上がった。
ディリーアは女神官に案内され、その部屋に足を踏み入れた。
部屋の奥にある寝台には、目を閉じた一人の青年が横たわっている。
顔色が青白いことをのぞけば、まるで眠っているかのようだった。