光と影21
「あいつは、死という安らぎを求めているのかも知れないのに。なぜ、どいつもこいつも無理に生かそうとする」
そのつぶやきに、女神官は動きを止めた。
「あの子が? 自分から死を選んだというの?」
「さあな」
ディリーアはどうでもいいかのように吐き捨てた。
「わたし達は、火の神の宿命を背負ったあの子に、何不自由ない暮らしをさせてきたつもりです。詩も、学問も、生きるための知恵も、戦い方も、出来る限りのことを教えてきたつもりなのに」
女神官の瞳は虚空をさまよう。
「強くあれ、優しくあれ、と育てていたつもりなのに」
ディリーアは女神官の独り言にも近いつぶやきに、眉根を寄せる。
「それはお前の偏見だろう? 今回のあいつの行動はそう言うことだ。あいつが幸せであったか、心の底から満たされていたか、自分の胸に手を当てて考えてみたらどうだ?」
ディリーアは女神官に背を向けて、さっさと石の上に横になった。
女神官の気配が牢の前から消えて、ディリーアはゆっくりと浅い眠りに落ちていった。
ディリーアは暗闇の中で夢を見た。
それはディリーアが人の子供として生まれ落ち、物心が付いた頃の夢だった。
彼女はある地主の家で働く、奴隷の娘として生まれた。
両親と兄と他の奴隷達と一緒に、物心付いた頃には家畜の世話を任されていた。
朝から晩まで畑仕事をしたり、牛の世話をしたり、家事をしたりする毎日。
ディリーアはいつもくたくたに疲れ果て、皆と一緒に床についた。
彼女はその仕事が大変だとは感じていたものの、お互い助け合い、奴隷達と一緒だったから何とか今までやってこられた。
ある寒い冬、両親や何人かの奴隷が死んだ。
原因は飢えや寒さから来る病だった。
後に残された兄や奴隷達は、その時から死んだ彼らの分まで働かなければならなくなった。
彼女は兄と寝る間も惜しんで働いた。
しかし仕事はいっこうに楽にならない。ついには疲れのため、病にかかって死ぬ者さえ現れた。
命の危険を感じた彼らは、ある夜、地主の屋敷から逃げ出した。
サンザシの塀に囲まれた塀をくぐり抜け、村の外の荒れ地へと走り出た。