光と影2
今まで口を引き結び黙り込んでいたケーディンはゆっくりと顔を上げる。
「本当か?」
馬の歩みに揺られるようにして、クロフは黙ったままごつごつした城壁の石垣を眺めている。
「すべて、上手くいったら、ですよ。もちろん、そんなに上手くいきっこないことくらい、ぼくにもわかっているんですけどね」
クロフはそれきり口を閉ざした。
城壁を渡る風が荒野の草花を揺らし、青空の彼方へと吸い込まれていった。
苔むした日陰の道を通り、二人は鉄格子のはまった裏門にたどり着いた。
門の前には二人の衛兵が鎧甲を身につけ、槍を構えて立っている。
クロフは衛兵にケーディンの怪我のことを話し、裏門を開けさせた。
門を通り、白い石柱の立つ中庭に出たところで、ケーディンは感心したようにつぶやく。
「あんたの口の上手さもなかなかのもんだな。あの貴族のぼっちゃんと引けを取らないくらいだ。まあ、あんたの方はぼろを出さないだろうがな」
ケーディンは手綱を握り直し、口元に笑みを浮かべる。
森から帰ってきて以来、初めて見せた和らいだ表情だった。
「嘘は付いていません。ただ必要なことしか口に出していないだけです」
クロフは苦笑いを返す。
白い石畳の敷き詰められた中庭を抜け、二人は城の入り口に馬を止める。
クロフは城の小姓と二言、三言言葉を交わし、馬の手綱を手渡した。
召使いに案内され、二人は城仕えの薬師の部屋に通された。
通された先は薬草の匂いが立ちこめる、薄暗い部屋だった。
天井や部屋の壁には様々な色の植物がつるされ、赤い炎の揺らめく炉には大きな鉄鍋がかけられている。
薬師は白髪の痩せた老人だった。
二人の怪我を見るなり、棚から毒々しい薬の壷を取り出す。
二人とも打ち身や擦り傷だらけだったので、薬師の塗ってくれた塗り薬が傷に染みて危うく悲鳴上げそうになった。
薬師が目を見張ったのは、大蛇の毒液を受けたクロフの腕とケーディンの両目だった。
クロフの手首からひじまで、炎に巻かれたように赤く焼けただれ、ひどい水ぶくれを起こしていた。
「こんな大怪我で、お主、よく今まで平気じゃったのう」
薬師の話を聞いてケーディンは顔色を変える。
「おい、お前、そんな大怪我を、どうして今まで放っておいたんだ!」
ものすごい剣幕で怒鳴られ、クロフは笑いを返す。