光と影18
「貴様!」
ロキウスは手に持っていた杖で床を叩く。
すると杖の先からは赤い炎が吹き出した。
ディリーアは炎を見据えたまま、鼻を鳴らす。
「所詮、神官でも力でものを言わせるか」
神官達の炎は森で何度となく浴びせられたため、そのときの憎しみが心に舞い戻ってくる。
「もう一度、この炎で全身を焼かれたいか?」
「ふん、やれるものならやってみるがいい。ただし、頭の固い神官共が、クロフを救うことが出来るならな」
「何を!」
ロキウスは杖の先の炎を鉄格子の間から差し入れた。
燃えさかる炎が、ディリーアの顔を赤く染める。
「確かに、お前ならば今のわたしを殺せるかも知れない。だが、クロフのそばに月の神の使者が来ている。お前のような神殿の若僧に、月の神の使者を追い払うほどの力はあるまい」
「月の神の使者、だと? 伝聞にある月の神の使者が、あいつのすぐ側に来ているというのか? お前にはそれがわかるというのか?」
ロキウスの顔色が一変する。
「だったら何だというのだ? 仮にわたしが地下の神々を崇める魔女であるのならば、それも当然ではないか。ああ、そう言えば。天上の神々の声を聞き、その使者の姿を見ることが出来るのは、最近では神殿の神官の中でもごくまれだと聞いたことがあったな。お前ほどの神官ならば、さぞかしはっきりとその姿が見えるのだろうな?」
ロキウスは鉄格子の間に差し入れた杖を引き、牢の鍵を懐へ戻す。
「魔女の力など借りなくとも、あいつの命は我々の力で助けてみせる!」
歯ぎしりさえ聞こえてきそうな顔つきで、ロキウスはディリーアをにらみつける。
白い裾を振り乱し、靴を響かせロキウスは牢屋から遠ざかっていく。
二人のやり取りを眺めていた奴隷達は、ロキウスが去っていった先を眺め、顔を見合わせた。
「……だそうだ。あいつの命は、お優しい神官様方が助けてくれるそうだ」
石床に両手をついたままでいた男は、ディリーアの顔を見上げた。
ゆっくりと立ち上がり、ぼんやりした目差しで辺りを見回している。
「クロフ様は、助かるのか?」
体格のいい男は、同意を求めるようにつぶやく。
腰の曲がった老人がうなずく。
「よかった」