光と影15
娘の一言一言にまるで呪いがかけられているかのように、クロフの心を傷つけ、切り裂いた。
クロフは黙って娘の顔を見つめていた。
ちらちらと松明の炎が揺れ、石畳には長い影が出来ている。
長く重苦しい沈黙が辺りを支配する。
「それで、もしあなたの言っていることが本当だとして、その後、あなたを殺した後、ぼくはどうすればいいのですか?」
クロフは震える声で尋ねる。
「さあな。自力で火の神として天上に戻るか、このまま地上に残って人間として生きるか、お前の好きにするがいい」
娘は素っ気なく答える。
クロフは口を開いたが、もはや何を言っていいのかわからなかった。
おぼつかない足取りでクロフは壁にもたれかかりながら、階段の方へと歩いていく。
「吟遊詩人様、大丈夫ですか?」
クロフの青白い顔を見た牢番が心配して近寄ってきたが、クロフには彼の姿など見えていなかった。
ただ歩くだけで精一杯だった。
彼の目には何も映らず、彼の耳には誰の声も届かなかった。
どこをどう歩いたのか、気が付けばクロフは城壁の上に立っていた。
冷たい風が彼の赤い髪を揺らし、夜空には青白い月が妖しい光を投げかけている。
クロフは虚ろな目で夜空を振り仰いだ。
クロフの赤金色の瞳にわずかな生気が宿り、同時に底知れぬ闇が宿った。
「夜を支配する月の神シンドゥよ。どうかぼくに安らぎを与えたまえ。平穏を与えたまえ」
かすれた声でささやくなり、クロフは城壁から暗闇へと落ち込んでいった。
鉄格子の隙間から差し込む松明の明かりに、ディリーアはうっすらと目を開けた。
城での祝宴は夜通し続き、人々のざわめきがディリーアのいる地下牢まで響いてきた。
ディリーアは眠い目をこすり、ゆっくりと起きあがる。
地下牢には窓が無く、松明の明かりだけが唯一の光だった。
辺りは静まりかえっており、祝宴が終わったということだけはディリーアにもわかった。
目が覚めてから水の滴る音、松明のはぜる音さ聞こえない。
牢番の兵士もどこかへ行っているらしく、囚人達も普段と違い息を潜めているようだった。
ディリーアの背筋を冷たいものが駆け上った。
両手を固く握りしめ、拳を額に押しつけた。