表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

光と影14

「つまり、お前は太陽の女神の神託を頭から信じ、自分のことを知りたいがために、わたしを探していたというのだな?」

 娘は青い瞳に怒りを宿し、声にも険しい響きが混じる。

「どいつもこいつも、自分のためか。人間とは愚かしいな」

 クロフには娘がなぜ急に怒り出したのかわからなかった。

 彼にとっては太陽の女神の神託が自分の信じる道であり、神殿の教えが彼のすべてだった。

「わたしがお前の正体を知っているというのは、嘘だ」

 娘は氷のような一言を返す。

「お前は何か勘違いをしているようだな。わたしがお前の正体を知っている? 太陽の女神の神託? 今までそんな馬鹿みたいなことを信じ、ここまで来たというのか? 本当におめでたい奴だな」

 娘は口元に冷笑を浮かべ、クロフを嘲った。

「ならば教えてやる。お前は火の神クルスス。お前の役目とは本来は、わたしと対になるもの。火は水と相争うもの。お前が森の湖で剣を持ったとき、自分でない何かを感じなかったか? それこそが本来のお前。天上の神々さえ忘れてしまった原初の火の神の姿だ。火の神は普段は人間の生活を助け、温もりと安らぎを与えるが、一度荒ぶれば、森を焼き、生き物の命を奪い、その熱と光ですべてを灰にする。現に、お前は湖でわたしを死の淵にまで追いやったではないか。それが天上の神々の意志であると、なぜわからない?」

 湖で聞かされた言葉がクロフの胸に蘇る。

『神々の命で、わたしを殺しに来たのか!』

 その時には痛まなかった胸が、娘の口から発せられるたびに鈍く痛む。

「違う! 太陽の女神様の神託では、あなたを探し、助けよとのお告げで」

 神託を否定されてしまったら、クロフを支えていたもの、信じていたものが、音を立てて崩れていってしまう。

 光も差さない暗闇にクロフは放り出されるような気分だった。

「太陽の女神とて万能ではない。道を違え、神託を間違えることもあるだろう。ならば聞こう。お前は太陽の女神の神託を守り、お前の正体を知り、わたしを救ったところで、いったい何の得があると言うんだ?」

 それはクロフが今まで目を背けていた部分だった。

「それは」

 クロフは言葉に詰まる。

「答えられないだろう? お前がそのつまらない神託を信じたせいで、わたしを殺して得られるはずの神々の栄誉も、地上で得られる名誉も、報奨も、姫の愛情も、お前はすべてを失ったのだぞ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ