光と影14
「つまり、お前は太陽の女神の神託を頭から信じ、自分のことを知りたいがために、わたしを探していたというのだな?」
娘は青い瞳に怒りを宿し、声にも険しい響きが混じる。
「どいつもこいつも、自分のためか。人間とは愚かしいな」
クロフには娘がなぜ急に怒り出したのかわからなかった。
彼にとっては太陽の女神の神託が自分の信じる道であり、神殿の教えが彼のすべてだった。
「わたしがお前の正体を知っているというのは、嘘だ」
娘は氷のような一言を返す。
「お前は何か勘違いをしているようだな。わたしがお前の正体を知っている? 太陽の女神の神託? 今までそんな馬鹿みたいなことを信じ、ここまで来たというのか? 本当におめでたい奴だな」
娘は口元に冷笑を浮かべ、クロフを嘲った。
「ならば教えてやる。お前は火の神クルスス。お前の役目とは本来は、わたしと対になるもの。火は水と相争うもの。お前が森の湖で剣を持ったとき、自分でない何かを感じなかったか? それこそが本来のお前。天上の神々さえ忘れてしまった原初の火の神の姿だ。火の神は普段は人間の生活を助け、温もりと安らぎを与えるが、一度荒ぶれば、森を焼き、生き物の命を奪い、その熱と光ですべてを灰にする。現に、お前は湖でわたしを死の淵にまで追いやったではないか。それが天上の神々の意志であると、なぜわからない?」
湖で聞かされた言葉がクロフの胸に蘇る。
『神々の命で、わたしを殺しに来たのか!』
その時には痛まなかった胸が、娘の口から発せられるたびに鈍く痛む。
「違う! 太陽の女神様の神託では、あなたを探し、助けよとのお告げで」
神託を否定されてしまったら、クロフを支えていたもの、信じていたものが、音を立てて崩れていってしまう。
光も差さない暗闇にクロフは放り出されるような気分だった。
「太陽の女神とて万能ではない。道を違え、神託を間違えることもあるだろう。ならば聞こう。お前は太陽の女神の神託を守り、お前の正体を知り、わたしを救ったところで、いったい何の得があると言うんだ?」
それはクロフが今まで目を背けていた部分だった。
「それは」
クロフは言葉に詰まる。
「答えられないだろう? お前がそのつまらない神託を信じたせいで、わたしを殺して得られるはずの神々の栄誉も、地上で得られる名誉も、報奨も、姫の愛情も、お前はすべてを失ったのだぞ」