光と影13
「ならば、なんだと言うんだ?」
娘は低い声で不機嫌に答える。
奴隷の身につけているぼろをまとい、手足は枯れ枝のように細く、無数の擦り傷や切り傷がいたるところに見られる。
クロフが口を開くより前に、背後にいた牢番が口を挟む。
「まさか、森の化け物が、こんな小汚い娘だったとは思いませんでした。神官様に退治していただいて、これで一安心です。でも気をつけてくださいよ。下手に近づくと、この娘に呪いをかけられるかもしれません」
案内してきた牢番は身震いして、逃げ出すように立ち去った。
牢の前に取り残されたクロフは、食い入るように青い目の娘を見つめている。
「どうした? わたしのこのような姿が、そんなに珍しいのか?」
娘は疲れたように息を吐き出した。
「いえ」
クロフは言いかけて口をつぐんだ。
放心しているような顔を見て、娘は忍び笑いをもらす。
「相手が人間だと思って、少し油断したらこの様だ。わたしを魂ごと滅ぼすことは出来なかったが、神官達の魔法の炎で散々な目にあった」
疲れたような娘の表情には、どこか諦めの色があった。
もうこのまま自分がどうなってもいいという、深い絶望の気持ち。
クロフは炎に照らし出された娘の横顔にその気配を感じ取った。
「あなたは、どうして大蛇の姿をしていたのですか?」
クロフはためらいながら尋ねる。
「どうして、とは? あの大蛇の姿がわたしの本当の姿かもしれないぞ? 今の姿は人間達を油断させるためにしている姿とは、考えないのか?」
「それは、考えませんでした」
クロフは照れくさそうに笑う。
それから娘から視線を外し、早口に話す。
「ええと、実はぼくは西の神殿に下された太陽の女神様の神託で、ここにたどり着いたのです。太陽の女神様の神託では、詳しいことまでは教えられなかったのですが、ぼくにはあなたが人の姿をしていると思ったのです。これはぼくのただの望みかも知れませんが。一度も会ったことのないあなたの姿を知っているというのは、変だと思うかも知れません。でもぼくは太陽の女神様を信じていましたし、神託には」
「待て」
娘はクロフの言葉を手で遮る。