光と影12
他の家臣達も馬を帰し、畑にはクロフと奴隷たちが残された。
まだ畑の上を吹く風は冷たく、生えそろった新芽のあぜの間を音を立てて吹き抜けていった。
その晩、城に到着したクロフは、宴の場にロキウスの姿があるのに驚いた。
それは相手も同じだったらしく、ロキウスも目を丸くしてぼろぼろの服を着たクロフの姿を見つめている。
「このような席によくお前が顔を出せたものだな。化け物退治一つ満足にこなせないような、お前が」
「どうして」
クロフは白い衣をまとったロキウスをまじまじと見つめた。
ロキウスは冷ややかな笑みさえ口元に浮かべ、蜜酒を一息に飲み干した。
「どうして、とはな。おれがあのまま化け物にやられて、くたばるとでも思ったのか?」
「違う」
クロフは目の前が暗闇に覆われたような気がした。
ロキウスは手に持った杯を近くの給仕に差し出し、注いでもらう。
「彼女は、彼女はどうしたんだ?」
「彼女?」
ロキウスは片眉をつり上げ、不愉快そうに息を吐き出した。
「ああ、あの大蛇に化けていた女のことか。あの女だったら、神官達の炎に巻かれてもまだ息があったのでな。神殿への報告のために、今はこの城の地下の牢屋に閉じこめてある」
クロフはそこまで聞くと、広間の扉へ向かって駆けだした。
「おい、待て!」
背後からロキウスの呼び止める声が聞こえる。
クロフは立ち止まらず、広間から飛び出した。
廊下を通り、階段を一足飛びに駆け下りる。
クロフは無我夢中で走り続け、気が付けば薄暗い地下牢にたどり着いていた。
松明の灯りがちらちらと揺れ、どこからか水の滴る音、罪人達のうめき声が木霊している。
クロフは牢番の兵士に頼み、大蛇に化けていたと言う女のいる牢屋を案内してもらった。
一番奥の頑丈な鉄格子の向こう、闇の中から青い瞳が射るようにこちらを見つめている。
「きみが、あの大蛇なのか?」
松明の炎に照らし出された姿は、クロフが思った以上に小さく痛ましい姿をしていた。
年の頃ならクロフと同じくらい。
黒くぼさぼさな髪をした色白の娘だった。