光と影11
「保証は出来ない。しかし努力しよう」
クロフは驚いて顔を上げる。
辺りが再び光りを取り戻したときには、大蛇の姿はどこにもなかった。
クロフは晴れない気持ちを抱えたまま、村に帰り着いた。
床に潜り込んだクロフは、昼間の仕事の疲れのため、大蛇の言葉を深く考える余裕もなく眠りに落ちた。
それから二日が経ち、領主の定めた期日がやってきた。
南の王はお供の家臣とフィエルナ姫を引き連れ、馬に乗ってクロフの耕した土地を見に訪れた。
王はきれいに耕され、うねの出来た畑を見て感心した。
しかしそれは全体の沼地の半分にも満たないわずかな土地だけだった。
王はその時になり、クロフにほうびを与えるのが惜しくなった。
また無理な要求を与えれば、この若者は応えてくれるだろうと考えたのだ。
「確かにお前の言ったとおり、この土地は元に戻った。だがそれはほんのわずかだ。残り一年の間に、すべての土地を元に戻し、森の化け物も退治して、わしのところに来るがいい。その時こそ、姫もほうびも思いのままだ」
王は内心クロフを快く思ってなかった。
愛娘のフィエルナ姫が彼に好意を持っているのも、気に入らない理由の一つだった。
クロフは背後にいる奴隷達を振り返り、声を張り上げる。
「わたし達はこの一年の間、一生懸命働いてきました。すべての土地ではないにしろ、沼地だった土地を元の豊かな土地に戻しました。わずかな報酬も休息も与えられないまま、わたし達に馬車馬のように働けと言うのですか?」
南の王はクロフの言葉に聞く耳を持たず、馬上から冷ややかな目で見下ろしている。
「お父様。彼らはお父様のために、ここまで土地を耕し、作物を植えてきたのですよ。心ばかりのほうびを与え、城でもてなしてやってもいいのではありませんか?」
フィエルナ姫が控えめに意見する。
王はフィエルナ姫の言葉に考えを改めたらしい。
「わかった。ならば今宵は城で宴を催そう。今夜ばかりは何もかも忘れ、貴賤の差も気にせず、宴を楽しむがいい」
王は馬を返し、クロフに背を向けた。
「では、クロフ様。今宵宴の席で会いましょう」
フィエルナ姫はクロフに会釈して、南の王の後に続く。