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生贄の巫女 ~偽りの巫女と仮面の守護者~  作者: 雨包おん
第8章 王都への道:赤と黒の咆哮
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第40話 衝突



「あれは!?」


 巫女一行を追跡するニアティは、彼らのひづめの後を追う内に、平原に佇む三人の男を見つける。

 それは、最初に巫女たちを追跡していた三名の部下たちだった。


 彼らは傷つき、その場に座り込んでいるが、見た所命に別状はなさそうだ。辺りを見回すが辺りに彼らの馬はいない。

「どうした!? 大丈夫か?」


「ニ、ニアティ様!!」

 傷つき、馬を失って平原に放り出された彼らは、味方の到着を見て安堵の表情を浮かべる。


「申し訳ありません。彼らを追跡していたのですが、急に反転してきて蹴散らされてしまいました。彼らは槍と盾で武装し、弓で我らの馬を傷つけて追い払ってしまいました!」


 ニアティはギョッとして聞き返す。

「槍と盾だと? 奴ら、完全に武装しているのか! ……くっ、剣では相手にならないではないか!」


 少し遅れて、後ろから追いついて来た副官たちに向けてニアティが大声を張り上げる。

「敵は槍と盾で武装しているぞ! 何故事前に把握できなかった!? 同胞にその旨連絡しろ!!」


「ニアティ様、飛ばし過ぎです! 単騎で突出しないでください!!」

「そんな事はどうでも良い! どうなんだ!?」


 副官は眉間に皺を寄せて溜息を吐く。

「武装の件については情報はありませんでした。全員が馬で町を脱出した事に見張りの注意が向きすぎていたか、又は何らかの偽装を施していたのかもしれません。


 また、連絡についても難しいです。先ほどの町から各拠点当てには伝書鳩を飛ばしましたが、一度拠点を離れてしまえば精々伝達笛くらいしか連絡手段はありません。それも音が届く距離までです。それに、こちら宛ての笛の音を確認するには、一度止まらないと振動の内容を解読することができません。


 もちろん、今から町まで戻って武装について伝書鳩を飛ばしても、もう仲間の出発には間に合わないでしょうし。」


 先程まで、頭に血が上って数頼みに力押しすれば何とかなると考えていたニアティだったが、冷静に考えれば朧は戦闘用の人員ではない。ある程度はこなせるが、本職の守護神官には当然敵わない。

 しかも、相手は決戦用に装備を整えているという。


「槍と盾で武装した奴らに、我々は勝てるか?」

 先程までの勢いを失い、妙に弱々しく問うニアティに、副官は思わず逡巡する。だが、この場において事実に基づかない励ましは無意味と思い直し、重い口を開く。


「勝てるか、というご質問ですが、武装した彼ら相手にして王城への侵入を阻止できるか、という質問と解釈した上でお答えしますと、恐らく、こちらに多数の死傷者が出るでしょうが、不可能ではありません。


 我々は巫女さえ討ち取れれば良いのです。それさえ達成できれば、他の者は取り逃がしても脅威になりません。とにかく巫女を狙う事に注力すべきかと存じます。」


(……確かにその通りではある。だが、何故か嫌な予感がする。今までだってあの男には裏をかかれてきた!)


 圧倒的優位が揺らぐのを感じ、ニアティは今までの自分の判断が正しかったのか疑念を抱く。

(四十対五。八人で一人を相手取れば良いのだから、行けるはずだ! だが……)


 焦れば焦るほど思考が空回りし、昨日見た、奉献の徒の面々が自分たちの味方を蹴散らし、王都に入る吊り橋を渡るイメージが浮かび思わず身震いする。


(何か、何かないのか。このままでは……。仕留められなくとも、王城への侵入を阻止するには……。)


 ハッと目を見開くニアティ。それを固唾を飲んで見守る副官。

「ここから伝書鳩が使える一番近い町はどこだ?」

「へ? ……ええと、ここからなら、元の町か、城塞都市ロソルネイか。……余り差は無いかもしれません。」

「近い方に一人、どちらが近いか分からなければ両方に一人ずつ向かわせろ!」


 意味が分からず困惑する副官。

「は、はい! どのような伝達を行いましょうか?」


 ニアティの目に力が宿り、口元に微かに笑みが浮かぶ。

「これはあくまで万が一への備えだが、強力な切り札になり得るかもしれん。奴ら、何でも思い通りにいくと思うなよ!」


 副官の彼にとってニアティの思惑が分からないのは良くあるの事だが、微笑みを深くし、自信を取り戻しつつあるニアティを前にして、彼自身も力が湧いてくるのを感じながら、ニアティの次の言葉に耳を傾けた。




「右旋回!!」

 アガナタの叫び声に合わせて一斉に馬を右に旋回させる守護神官達。途端に正面から矢の雨が鋭い風切り音とともに降り注ぎ、先ほどまで彼らがいた地面を抉って突き刺さる。


 前方を塞ぐように立ちはだかっていた二十騎程の敵影に対して、進路を右に転じる事で初撃をかわしたものの、すぐに敵もこちらを追う形で二手に分かれて走り始める。


「くっ! 挟撃する気か!」


 目の前で震えながら体を倒し、馬にしがみつくユオーミ。そして彼女に覆いかぶさるようにその身を守りながら馬を操るアガナタは心の中で舌打ちをする。


(朧の迎撃は想定内だが、思ったより数が多い……振り切れるか?)

 振り返りながら敵を確認すると、二手に分かれた敵の一方は真後ろから、もう一方は左後方から追撃してきている。


(元来た方に押し返そうとしている……。このままでは町から追ってきている連中も加わり三方向から囲まれる!)


 その時、先頭を走るオッドーが叫んだ。

「左旋回して進路を戻せ! 俺と左翼の青の守護神官で敵に突っ込むから、お前たちは先に行け!!」


(だが、それでは……)

 恐らく二十騎程いる敵の群れの中に彼らを置き去りにすることになる。


 迷うアガナタに、オッドーが吠える。

「お前は何を成すんだ! 犠牲が必要なのは初めから分かっていた筈だ! お前の覚悟はそんなものかッ!!」


 友の言葉に背中を押され、アガナタは絶叫する。

「左旋回!! 先頭及び左翼で敵を攪乱かくらんしろォォッ!!」



 進路を再び王都方面に向けて直進を始めるが、先頭のオッドーと左翼の拳骨の神官はそのままさらに左に旋回を続ける。


「振り返るな!! 行っけェェェ!!」


 突如自分達に向かってきた二騎を前に、左後方から彼らを追走していた一団が一斉に矢を放った。


 鋭い風切り音とともに矢が降り注ぐとオッドーが掲げた左腕の盾に一本の矢が鈍い音を立てて突き刺さる。重いその振動を受け止め、そのまま勢いを殺さずに敵に突撃した。


「オオオオォォォ!!!」


 敵が二射目を放つよりも早く敵集団に突撃してゆく二人。オッドーが薙ぎ払った槍を剣で受け止めた男がそのまま馬上から吹き飛ばされ、隣の馬に激突するとその馬とともにひっくり返った。


 後続の敵が落馬した仲間を踏みつけるのを避けるため、慌てて手綱を握って旋回するが、その横っ腹から突っ込んで来たオッドーに薙ぎ払われてたまらず馬から転げ落ちた。


「クソッ! 怯むな! 敵はたった二騎だ!!」

 指揮官らしき男が怒鳴り声を上げるが、相手の圧倒的な武力を前に隊に動揺が走る。


 拳骨の神官が叫びながら槍を縦横無尽に振り回して敵を圧倒すると、相手は攻撃を避けてバラバラの方向へ走り出すが、避けきれずに一名が馬上から叩き落された。


「止まるな! スピードを失うと包囲されるぞ!!」

おうッ!」


 敵の集団を突破してオッドーが振り返ると、敵は四人が落馬し、残った者も陣形を乱して混乱しているのが見えた。相手は慌てて体制を整えようとするが、オッドー達はそちらは無視して、アガナタ達の後ろを追走するもう一方の集団のに狙いを定めた。


「誰一人、邪魔させるかよ!!」




 疾走するアガナタ達に、背後から無数の矢が降り注ぐ。本来、馬上での射撃というものは非常に難易度が高く、地上でのそれとは比較にはならない程命中精度は低い。しかし、狙っても当たらないそんな射撃であっても、一斉に放たれればそれは脅威となる。


 空気を切り裂きながら頭上を掠めた複数の矢が地面を穿つ鈍い音を響かせる中、その音を追い越してアガナタはさらに前へ馬を走らせる。景色が瞬く間に後ろに流れ去り、刻一刻と変わってゆく地形や周りの状況に脳をフル回転させながら、彼は馬を操り活路を見出す。


 馬が走る速さは、その馬の純粋な脚力と騎乗者の体重で決まる。この戦場の中で、明らかに一番遅いのが二人乗りしているアガナタとユオーミの馬だった。


 全力疾走しながらも少しずつ追跡者との距離が詰められてゆく。射程距離に彼らを捕らえた敵が弓を構えて矢を放つ間のみ、僅かに相手を引き離すことができるが、そこで稼いだ距離もあっという間に取り戻される。


 背後から一斉に放たれる矢がどこに着弾するかは誰にも分からず、それを躱す術はない。つまり、当たるか当たらないかは運次第とも言える。そして、繰り返された運試しが、やがて絶望的な結末を引き当てた。


 放たれた矢が放物線を描きながら恐るべき速度でアガナタの背中に迫り、激しい衝撃とともに左肩に突き刺さった。

「グッ!!」


 バランスを崩して落馬しそうになるも、必死で手綱を引き寄せて何とか立て直す。矢を受けた個所を中心に、体の中で熱が暴走するような感覚を覚え、遅れてやってきた痛みに歯を食いしばって耐える。


「アガナタさん……?」

 自分に覆いかぶさるアガナタに異変を感じたユオーミが、身を捩って様子を伺おうとするが、アガナタはそのまま自分の体でユオーミを押さえつけて、努めて冷静に語り掛ける。


「大丈夫。ちょっと掠めただけだ。……ッ!!」


 その時、アガナタは高速で後ろに流れて行く景色の中、右前方に新手の姿を確認した。その数、七騎。深く、長く息を吐き出し、右を並走する背の高い青の神官を見やる。


 アガナタは、味方を危険に晒す己の無能を悔いながら鬼の形相で吠える。


「青の神官! 赤の神官! 右翼の新手を叩け!!」


「すぐに戻ります!!」

「頼むぞ!! 」


 新手に突っ込んでゆく二人を見届ける事もなく、アガナタは単騎走り続ける。必死の形相で前方を睨みつけると、地平線の先に僅かに城壁が見えた。傾いた太陽が、次第に雲をオレンジに染めて行く。


「城壁が見えた!! ユオーミ、あと少し辛抱してくれ!!」


 叫ぶと同時に再び矢が降り注ぐが、今度の運試しは大丈夫だったようだ。

(頼む!! 持ってくれ!!)


 後方で怒声が響き渡る。最早振り返る余裕はないが、聞き覚えのある声に思わず安堵のため息が漏れる。オッドー達が後方の敵に肉薄したようだ。


 視線を右方向に向けると、先ほどの新手と赤青の守護神官達が入り乱れて混戦状態となっていた。だが、既に敵を二騎倒し、残りの敵の掃討も時間の問題と思われた。



 背後からの攻撃が止み、アガナタが上体を起こす。

 体を捩って振り返ると、後方でも激しい戦いが繰り広げられていた。その中心にいるオッドー達。


(彼らの献身に応えなければ……)


 前を向き直ると、不安そうに体を捩るユオーミと視線がぶつかる。

 微笑み、前方の城壁を指さすアガナタ。

 希望が、目に見える形でそこにあった。


「皆が戦って敵を引き付けてくれている。今のうちに少しでも王都に近づくぞ!」

 アガナタの言葉にユオーミの瞳が揺れた。けれど、彼女は唇を噛み、すぐに力強く頷く。


「お願いします!!」




「クソッ! 逃がすかよ!!」


 赤の守護神官と協力して、七騎のうち三騎を落馬に追い込み、彼らの馬を追い散らした。

 背の高い方の青の神官は、散開して逃げる敵を前に誰を負うべきか迷い、頭の中が真っ白になって思わず馬を止める。


 肩で激しく息をしながら、滴る汗を腕で拭う。半日馬で走り続け、その上での多勢を相手にした戦闘で激しく疲弊している彼は、一度止まった体が酷く重く感じられた。

(疲れすぎて、頭が回らない……)


「先に行くぞ!!」

 止まらず、叫びながら駆けてゆく赤の神官の行く先では、散開した敵が合流し、アガナタ達に向けて走り始めていた。


「クっ!」

 鉛のように思い体に活を入れ、再び手綱を引いて走り始める青の神官。しかし、それと同時に後方から複数の矢が襲い掛かった。


 左の太ももの表面を切り裂いた矢が馬の腹に刺さり、驚いた馬がさお立ちになる。体勢を維持できず馬から振り落とされた彼の元に、ニアティ率いる一団が襲い掛かった。



 迫る馬が酷く大きく感じられた。そして、その大きな影の上から振り下ろされる敵の剣。

 咄嗟に手繰り寄せた槍でかろうじて防ぐも、馬を避けた際にバランスを崩してよろけ、そこに通りかかった別の複数の敵から、至近距離で矢を放たれる。


「ッ!!」


 咄嗟に体の前に盾を出すと、そこに強烈な衝撃が二発直撃し、同時に頭、肩、足を矢が掠めてそれが地面を抉った。木の盾を僅かに貫通し、突き出た矢先を目の当たりにし、よろけた足で踏ん張りが効かずにそのまま後ろに倒れ込んだ彼は、その時初めて死を覚悟した。


(……俺、何やってるんだ?)


 その時、ふとよぎったのは両親の顔だった。





いつもありがとうございます。感想、お待ちしています!


ついに追いついたニアティたちに対し、奉献の徒は死力を尽くす……

<毎週 月・金 更新中>

【次回】第41話:無価値

12/15(月)19:00頃 更新予定です

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