発見と死
「おとーちゃん、ここくらいよ、こわいよー!」
「大丈夫だ。大丈夫……」
暗がりの中で息子の細い腕が、おれの腕にしがみついている。凄まじい揺れだった。まるで大地そのものが悲鳴を上げたかのような振動。いったい何が起きたというのか。息子と一緒だったことが、唯一の救いだが――いや、しかし、それもまだわからない。
「ぼくたち、どうなっちゃったの? あれ、なんだったの? お空が急にくらくなって、すごくゆれて、こわかったよお」
「大丈夫、大丈夫だから。落ち着きなさい……」
そう言いながら、おれは自分にも言い聞かせるように心の中でその言葉を繰り返していた。大丈夫だ、こうして生きている。しかし――。
「今もゆれてるし、音がするよお。どうなってるの……?」
「わからない。でも、きっと大丈夫だ……」
数十秒前。おれは息子と手をつなぎ、ショッピングモールの広場を歩いていた。突然、轟音とともに影がかかったかと思えば、あっという間にあたりが暗闇に包まれた。そして、地面が激しく揺れた。おれは咄嗟に息子を抱き寄せ、身を屈めた。
あのときほどではないが、今もまだ揺れている。それに、ゴオオオという海鳴りのような不気味な轟音も響いていた。
「なにも見えないよー。みんなの声がこわいよー」
「ああ、みんなも怖いんだ。でも、一人じゃないぞ……」
何も見えない。あたりは漆黒に包まれ、人々の恐怖と困惑に満ちた叫び声が響いている。おれは息子の片方の耳に、そっと手を添えた。
「たぶん、あの大きさからして、この街ごと……いや、もっとかな……。とにかく、ほら、おばあちゃんも一緒かもしれないぞ」
そうだ。あのとき空から降りてきた何かが、街全体を包んだのだ。
「わあ、ぼく、おばあちゃん好き! あえるかなー?」
「ああ、たぶんね……」
「ねえ、おとーちゃん! じゃあ、お母さんも、ともだちも、みんなここにいるってこと?」
「あ、ああ、そうかもな……」
「よかったあ! あ、おとーちゃん! 明かり!」
「ああ、たぶん、非常灯がついたんだな……」
オレンジがかった、ぼんやりとした光が空間にぽつりぽつりと灯った。
「きれいだなー……みんなも、もうこわくなくなったんだね」
「え?」
「だって静かだもん。みんな眠っちゃったのかなあ」
「ああ、きっとそうだな……」
先ほどまでの人々の喧騒が、嘘のように静まり返っていた。わずかに囁き合う声と、すすり泣きが聞こえる。だが、それも次第に消えていっている。
「ぼくも眠いや……寝てもいい?」
「え、いや……ああ、お眠り。お父さんがそばにいるからな。いい夢見るんだぞ……」
「うん……あ、明かりが消えちゃったね」
「ああ、でも寝るにはちょうどいいな」
「そうだね……なんだか、体が軽いや……浮いてるみたい……」
「ああ、そうだな……きっと、夢の中でどこまでも飛べるぞ」
「うん……ふふふ……おやすみなさい……」
「ああ、おやすみ……お父さんも、眠るよ……」
◇ ◇ ◇
それから時が流れ、地球では人々があるニュースに沸き立っていた。
『さあ、もうすぐ無人小惑星探査機≪トラフグ≫が、無事地球に帰還します! トラフグは惑星探査を目的に開発され、今回、生命反応のあった小惑星から貴重なサンプルを回収し、帰還の途についています! それでは、街の人々の反応を見てみましょう。現地リポーターのウラキさーん!』