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◯年後:真理と悠一の春
5年後
真理は、穏やかな陽だまりの中で、ベビーカーを押していた。
隣には、変わらない優しさをまとった悠一が歩いている。
「この子の名前、教えてあげようか。」
「もう決めたの?」
真理は微笑みながら、赤ちゃんの頬にそっと触れる。
「“こと葉”。――“言葉”から“葉”が生まれるって意味。」
悠一はしばらく黙ってから、涙ぐみながら頷いた。
「ぴったりだよ。」
言葉があったから、ふたりは出会えた。
そして今、その言葉が、命の名になった。
桜がまた咲きはじめる季節。
新しい家族の物語が、静かに始まっていた。