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第三十三章:沈黙を破る文字
佐野は迷っていた。
もう何通か手紙を交わしたあとだった。
玲奈の文字――まだ名も知らぬその人の言葉には、いつも丁寧な息づかいがあった。
「私も、誰かを信じることが、怖かった。
でも、あなたの手紙を読んで、信じてみようと思えました。」
彼はゆっくりとペンを走らせる。
「僕も、誰かの言葉に救われたのは初めてでした。
もし、差し支えなければ、あなたの名前を教えてくれませんか?
そして、よければ…僕の名前も、受け取ってください。佐野雅人です。」
一文、一文、文字を確かめるように綴った。
その夜、佐野は初めて「会いたい」という感情を手紙の中で使った。




