最善策
「──流動斬!」
駆けつけたツヴァイの大剣が、フーゴのメイスと衝突する。
撃ち落とされたアインスはなんとか受け身を取り、5秒経過とともに視覚が復活する。
「ツヴァイ……お前はドラゴンに突っ込んでいったはずだァ……どうしてここにいる」
「ふん。アレはただの実験。あたしの最優先事項はリーダーを守ることよ」
ドラゴンの攻撃パターンを確かめた後、ツヴァイはすぐにアインスのいる場所へと駆け出していた。
「お荷物を抱えると大変だなァ」
「……その言葉を聞いて安心したわ、フーゴ」
「あァ?」
「アインスがお荷物に見えるなら、アンタはただの……脳筋バカ!」
流動により加算されたツヴァイの腕力が、フーゴのメイスを弾き返す。
「ぐッ!?」
「アインスが必勝法を導き出すまでの時間を稼ぐ……簡単な仕事よ」
ドラゴンが空中で体躯をうねらせながら、ツヴァイたちの背後から迫りくる。
神話に伝わるような、雲や雷を巻き起こすほどの威厳は何もない。まるで『空を飛ぶだけの蛇』のような動きだ。
「くっ……調子狂うわね」
しかし危険生物であることに変わりはない。
その口が大きく開かれ、鋭い牙が露出する。
「ツヴァイ!」
アインスは叫び声を上げて、頭上に短剣を投げる。
「私の体に掴まれ!」
ツヴァイは抱きつくようにアインスの体に掴まる。
「──ヘンテコ発動」
黄色い電気が放たれ、アインスの手に握られたもう片方の短剣に引っ張られるように2人の体は空中へと浮き上がり、ドラゴンの『噛みつき』をすんでのところで回避する。
感情や勢い任せの選択は即死亡へと繋がる。それがギフト保持者を相手取るヘンテコ保持者……ナンバーズの共通認識だ。
サイドに躱すこともできた。しかしそれはフーゴの追撃範囲内で体勢を崩すという自殺行為。
ドライを『奇襲フィールド』として配置した以上、この戦闘は2対2で行われる。エーデルブラウのときのような数的優位には立てていない。
感情を捨て、合理的に、最善の選択だけを取り続けなければならない。
アインスは呟く。
「空中ならフーゴの攻撃範囲外……五感を奪うギフトはまだ10秒のクールタイム。そして──」
ツヴァイはアインスの体から離れ、真下にいるドラゴンの元へと落下する。
「『回避』は『反撃』に転じなければならない。狩りの基本だ」
ツヴァイは大剣の切先を真下に向ける。
リタのような翼がなければ、ロルフのように空を蹴ることもできない。しかし同じ状況を擬似的に作り出した。
「こうでしょ! 追突・燐光剣! 光らないバージョン!」
切先がドラゴンの胴体に触れ、その細長い体を『く』の字にへし折る。
勢いは収まらず、そのままドラゴンの体を突き落とし、そして──
「はぁぁぁあ!!」
──地面へと串刺しにした。
召喚能力で生み出された生物には体液が存在しない。その体から血が吹き出すことはなく、ただ激しく地面をのたうち回るドラゴン。
やがてその動きを止め、黒い霧となって散っていく。
アインスは着地し、その様子を眺めながら思考する。
……倒した。
剣撃は通用する。それなら『火炎放射』を除けば、ストーンリザードほどの脅威ではない。
攻撃パターンは2つ……至近距離にいる敵には『噛みつき』、そして離れた場所にいる敵には『火炎放射』だ。
それなら何故、今の攻撃は『噛みつき』だった?
ツヴァイとの距離は十分にあったにも関わらず、ドラゴンはわざわざツヴァイの元に向かって『噛みつき』を仕掛けた。
あの召喚能力は『単発型』だ。ドラゴンは独立して自分の意思で動いている。
召喚する際にだけデミスの指示が与えられるとしたら、『アインスとツヴァイだけを攻撃しろ』と命令されている可能性が高い。
火炎放射を使わなかった理由は、あの状況では仲間のフーゴを巻き込んでしまうからだ。
「なるほど……見えてきたぞ」
ドラゴンを倒し、体勢を整え切れていないツヴァイへとフーゴのメイスが振り落とされる。
「グッ……!?」
大剣でなんとか凌ぐも、その衝撃で腕が悲鳴をあげる。
「ツヴァイ、お前は『力の流れ』をコントロールしているなァ? 今みたいに余裕がない状況なら、ただの非力な女だ」
「ナ、ナメんじゃないわよ。これくらい屁でもないわ!」
「その強がりがいつまで保つかァ」
ツヴァイとフーゴの力はほとんど拮抗している。
ダメージを負った側から不利になっていくのは明らかだった。
そして──
アインスとツヴァイの後方で『どろり』と不気味な音が鳴る。
振り返ると、両目から赤い電気を放つデミスの足元でまた地面が波打っていた。
「はぁ……嫌になるわね、アインス。ここまでやってなんとか倒したのに」
「ああ、まったくだ。ギフト保持者との闘いはいつも絶望させられる」
その地面からドラゴンが生み出され、宙でとぐろを巻く。
……代償なし。ギフトを使えばドラゴンは復活する。
倒しても倒しても、何度でも。
「あのちんちくりんなドラゴンを倒しても意味ないわね。でも召喚者のデミスはあんなに離れた場所にいる」
「そしてデミスへの経路はしっかりドラゴンが塞いでいる、か」
「それならやることは決まってるわ」
ツヴァイはフーゴを一瞥する。
「あいつを先に──」
「いいや、違う」
アインスはツヴァイの言葉を遮る。
「先に倒すべきはそっちじゃない」
「ア、アインス、あんた何言ってんの?」
「耳を貸してくれツヴァイ」
そしてアインスは不気味に笑った。
「デミスを倒す策がある」




