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召喚能力

 林から放たれた弓矢がデミスの顔にぶつかり、絶対防御で弾き飛ばされる。変わらずその目から赤色の電気が放出されており、5秒経過すると同時にデミスの前方の地面がどろりと波打つ。

 波は次第に大きな波紋となり、アインスやツヴァイの元まで地響きが届く。


 召喚能力はありふれたギフトだ。召喚される生物は必ず足元から現れる。


 それを最初に見たとき、アインスとツヴァイは『気持ち悪さ』を感じた。

 地面からにゅるりと姿を現し、舞い上がっていく生物。しかしまだ地面から身体は伸びていき、目測で8mほどの細長い体躯が空中でうねった。

 ツヴァイが声をあげる。


「何あれ!? 蛇!?」

「いや、よく見ろツヴァイ」


 鋭利な牙、そして下顎にたくわえられた髭。


「ドラゴンだ」


 全長8m。蛇のように細長い生物であるため、ストーンリザードのようなサイズ感での恐怖は薄い。しかし空を飛んでいる。


 そして──


 大きく開いた口から、黄色とオレンジが混じったようなモヤが揺らめく。


「ま、まさか……!」


 ツヴァイは咄嗟にアインスの元に飛び込み、その身体を抱いて地面へと転がる。

 ドラゴンの口から放射されたそれは、2人の背後で悪魔の舌のように地面を這い、その熱風にツヴァイの背中は焼かれる。


「……っつぅ!」

「ツヴァイ!?」


 ──火炎放射。

 能力と魔物が存在するこの世界でさえ、ファンタジー作品を彷彿とさせるような現実味のない攻撃。


「ツヴァイ、大丈夫か!?」

「大丈夫よ。でも空から火炎放射を連発されたら絶対勝てないわ。あれはデミスが操ってるのかしら?」

「いや、召喚したドラゴンを常に操っているならデミスのギフトは『持続型』になる。単発型である以上、召喚した時点で能力の発動は終わっている」

「ドラゴンは自立して動いてるってことね。それなら知性は高くない」

「さすがに私たちだけを狙うくらいの指示は与えているだろうけどな」


 アインスは思考する。


 考えることは山ほどある。

 まず、何故召喚されたのが『ドラゴン』なのか?

 セリアの森で見た生物は『大きな熊』だった。あれも間違いなくデミスが召喚していたはずだ。

 2種類以上の生物を召喚できる能力なんてものは聞いたことがない。この『大熊』と『ドラゴン』には必ず共通点がある。


 そして……召喚時の赤色の電気は何故『目』から放出されたのか?

 5秒経過すると同時にドラゴンは現れた。それなら『5秒間何かを見続ける』のが能力の発動条件ということになる。


 アインスは周囲を見渡す。


 ……何もない。こんな暗闇で何を見ている?


 直感する。


「……このカラクリを解かなければ、デミスは倒せない」


 ツヴァイがアインスに話しかける。


「ねぇアインス。あんた真面目に考えてるけど、もっとおかしなところあるでしょ」

「な、なんだ?」

「あのドラゴン、ダサすぎない!?」


 大きな蛇に牙と髭を生やしただけのような姿。手足も鱗もない……まるで子どもが描いた絵のようだった。


「ドラゴンってもっと仰々しくてグアァーって感じで恐ろしい生き物じゃないの!?」

「た、確かに言われてみれば……でも火を吐いたぞ」

「あんなのから火が出てきたからビビったわよ!」

「なんなんだ、あのギフト……」


 チンケではあるが、凶暴なことに変わりはない。召喚能力を打ち破る鉄則は能力者自身を倒してしまうことだが、ドラゴンはしっかりとデミスへのルートを遮っている。


「そして背後にはフーゴか」

「アインス、作戦はある?」

「ドラゴンを倒すのは魔物討伐と同じだ。まずは特性を見極める必要がある。問題は……その余裕があるかどうか」

「大丈夫よ、アインス」


 ツヴァイはドラゴンの元へと駆け出す。


「アンタにはあたしがついてる!」


 回り込むように走り、火炎放射にアインスを巻き込まないよう立ち回る。

 ドラゴンは大きく口を開き炎を放つが、ツヴァイは横に飛び跳ねて回避する。


「……基本攻撃は火炎放射ね」


 フーゴはメイスを構えて、ツヴァイと離れて1人になったアインスに攻撃を仕掛ける。


「当然そうなるだろうな」

「ザコ冒険者ァ……お前は1人じゃ何もできない」

「ふふっ、あいにく私は逃げるのは得意なんだ」


 アインスは双剣の片方を頭上高くに放り投げ、手に持ったもう片方を天にかざす。


「──ヘンテコ発動」


 黄色の電気とともに、短剣はアインスの身体を引っ張って空中へと浮き上がる。放り投げられた片割れを目指し、時速10kmで進んでいく。


「なんだとォ!?」


 そして双剣がくっついたところでまた片割れを投げ、黄色い電気とともにアインスの身体は空中浮遊を続ける。

 10秒のクールタイムが存在しない持続型だからこそ成せる芸当だ。


「ふふっ、私のヘンテコは特訓すればこんなことができる。さぁフーゴ、どうやって私に攻撃を当てるつもりだ?」


 ツヴァイはドラゴンの目の前まで迫る。


「そこからよく観察してなさいよ、アインス!」


 ドラゴンは鋭い牙を露出させて、ツヴァイへと飛び掛かった。


「──流動斬」


 ツヴァイの放った大剣はドラゴンの牙を数本へし折ったところで停止し、今度はその突進力で彼女の身体が飛ばされる。


「くっ……!」


 近づいたら『噛みつき』……これはストーンリザードと同じ習性だ。手足がない分、近接攻撃はこの一択に絞られる。

 空を飛んでいても、知性の低いドラゴンは噛みつき攻撃を仕掛けるために地上へと降りてくるということだ。


 アインスはフラフラと宙を飛び回りながら、地上のフーゴを見下ろす。

 これはただの時間稼ぎ……ドラゴンとフーゴを同時に相手取れば、確実に私たちは負ける。まずはドラゴンの特性を把握し、簡単に仕留められる理論を構築する必要がある。

 しかし、この時間稼ぎも長くは保たない。


「お前のヘンテコの特性は大体わかったぞォ」


 能力は見せれば見せるほどにタネが割れる。フーゴはアインスのヘンテコを見極めつつあった。


「浮き上がってるのがその短剣なら、空を飛んでいられる時間はお前の『握力』に依存する。もう限界が近いんじゃねェかァ? そして──」


 右手をあげ、人差し指をアインスに向けた。


「こうやって撃ち落とすこともできる!」


 人差し指から赤色の電気が放たれた。


 アインスは視界を奪われ、マッチングペアでたどり着いた双剣の片割れをキャッチできずに能力が解除されてしまい、勢いよく落下する。


「くそっ……!」


 フーゴは落下地点へと駆ける。


「くたばれェ……破竹!!」

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