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ロルフvsウド②

 ロルフは、ウドが潜んでいるであろう方角を一点に見つめている。

 こうしていれば自分の真後ろにワープゲートを出現させることはできない。少しでも『振り返る角度』を削る措置だ。

 そして当然、俺の『前方』に出現させるなどあり得ない。それでは『攻撃をかわしてくれ』と言っているようなものだからだ。


「『右斜め後ろ』か『左斜め後ろ』か……この2択だ」


 そこにワープゲートを出し、再び拳銃で襲いかかってくる。

 あの黒い渦は発生時に『ブォン』と音が鳴るようだ。右か左かの2択ならそのタイミングで絞れる。

 ある程度の距離は取ってくるだろう。腕を引っ込められるまでにワープゲートの元まで辿り着くことができたなら──勝利は確実だ。


「覚悟はできてるか? 俺と闘うってことは……テメェは戦場に足を踏み入れたってことだ、ゴロツキ」


 次だ。

 次の一撃で勝負は決まる。


 あたりは静寂に包まれている。

 いや、違う。

 ワープゲート発生時以外の音をもうロルフは感じ取っていない。

 聴能形成──音響技術者などが音の違いを聴き分ける能力を体系的に習得する訓練法であり、ロルフはこれを磨き上げている。

 真の強者というのは、能力の強さや使い方に依存しない。

 最後にものを言うのは己の戦闘技術だ。

 あの討伐隊の中で見込みがありそうなのは……ツヴァイというガキくらいだった。


 ブォン──ワープゲートの発生音。


 ロルフは即座に振り返り、駆け出す。

 ワープゲートとの距離は5mほど離れていた。そこからはウドの右腕が伸ばされており、手には拳銃。当然、銃口はロルフへと向けられている。

 そして、その指が引き金を引いた。

 放たれた弾丸はロルフの心臓部へとまっすぐ飛んでいき──


 やがて、ロルフの体の数㎝手前で『何かにぶつかった』ようにひしゃげて、弾かれる。

 何事もなかったようにワープゲートへと駆けるロルフの姿に、ウドは驚愕する。


「バカな!?」


 ……銃弾が弾かれた?

 明らかに能力によるものだ。

 絶対防御? いや違う。電気は放たれていなかった。あれは間違いなく『常時発動型』だ。

 銃弾が効かないなら何故一度目の奇襲をわざわざ避けた?

 いや、そんなことよりも──


 ウドは咄嗟にワープゲートから腕を引っ込めようとする。

 絶対防御が発動している以上はダメージを与えられることはない。しかし、殺意を持った『人間兵器』が迫りくることに恐怖を抱くのは生物として当然の反応と言えた。


「テメェの負けだ。ウド」


 ゲートの奥からロルフの声が聞こえてくる。

 ガシ、とその腕が掴まれた。


「くっ……!?」


 ウドは力づくで腕を引き抜こうとするが、ピクリとも動かせない。ロルフの単純な筋力だけで制されているのだ。

 一度目の奇襲をあえて避けたのは、『銃弾は効かない』という情報を敵に与えてしまい『逃げ出す』という選択肢を排除するためだった。


 ウドは狼狽しながらも、ニヤリと口端をあげる。


「腕を押さえたところで何になる!? 俺は今、絶対防御に守られて──」

「このまま腕が抜けなければどうなる?」


 ロルフの言葉に、ウドの表情が固まる。


 このまま腕が抜けなければ──


 ロルフは腕を掴む手に更に力を込め、セリアの森でリタが拘束された後の出来事を思い返す。

 ウドのギフトを初めて目にしたときの出来事だ。

 あのとき、リタとフィアとともに『拘束していたツル』もワープゲートを通過していた。

 単発型の発動時間は5秒。5秒経過すると同時にワープゲートは消えてしまう。

 その際、ワープゲートを通っていたツルは『切断』されてしまった。

 ワープゲート間を完全に移動してしまえば何も問題はないが、『通過している最中のもの』は能力解除時に切り離されてしまうのだ。

 それが──このギフトの致命的な弱点。


「能力を見せすぎた。それがテメェの敗因だ」


 ウドは恐怖で顔を歪める。


「よせッ!! やめろ!! 離せェ!!」


 ──5秒。

 能力が強制解除される。


 ゲートが消えるとともにウドの右腕は勢いよく切断され、ロルフの掴んでいる腕の断面からは血が噴き出し、重力に従ってぶらりと垂れ下がる。


「……グァァァあああああああ!!」


 絶叫がルーテブルク・ロードに響き渡る。


「そこか」


 ロルフは小さく呟き、絶叫の聞こえてきた方へと駆ける。

 地面を蹴り、そして『空気を蹴り』、木の上で切断された腕を押さえながら悶えるウドの元へと跳びはねる。


「……ひぃぃっ!?」


 獲物を狩る獣のようなロルフの鋭い眼光に、ウドは悲鳴をあげながらたじろぐ。痛みと恐怖で顔の筋肉がぐにゃりと歪み、咄嗟に切り落とされていない方の腕を前方に出して自分の身を守ろうとする。

 しかしロルフは、その剣をウドではなく彼の乗っている大きな木の枝へと滑らせる。

 切り落とされた枝とともに地面へと落下するウド。

 痛みを堪えて立ちあがろうとするも、喉に添えられていたロルフの剣にその動きを止める。


「ぐっ……!」

「ウド、俺がテメェの立場なら腕を切り落とされようと悲鳴は上げなかった。敵に居場所を教えてしまうからだ」


 恐怖で言葉を失うウドに対し、ロルフは告げる。


「テメェには、戦場に立つ覚悟も資格もない」

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