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ロルフvsウド①

 ルーテブルク・ロードを歩くロルフは、警戒を怠らず周囲を見回す。

 ……対人戦において、ギフト保持者の最大の弱点は『奇襲』だ。

 この森に挟まれた道はそれに適している。

 仲介人を襲撃するにはもってこいだが、そのためにやってきた俺を襲撃すべく『既に敵が潜伏している』可能性がある。

 あるいは俺を監視し、俺がどこに潜むかを仲介人に伝えるという選択もあるだろう。

 この脅威は排除しておきたい。

 もしもその役割を担う者がいるとすれば──いざという時に俺の反撃から逃げられる『ワープ能力』を持ったウド。

 植物を操る拘束能力を持ったヤンは、念のためリタの元から離れられない可能性が高い。


「……推測に過ぎないがな」


 そもそも既にリタを王子の元に届けられていればアウトだ。俺が単身でルーテブルク宮殿に乗り込み、リタを強奪するという強硬手段しか残されていないことになる。

 しかしフィアというガキの居場所を特定できるヘンテコを持ったナンバーズがこちらに向かっていないことから、リタもまだメルヴィンの街のどこかで拘束されている可能性が高い。

 ……『餌』を仕掛けるには十分な理由だ。

 もしも今も俺が『見られている』とすれば、『俺の行動』そのものが敵を誘導するトリガーとなる。


 ならば──


 ロルフは林へと足を踏み込む。

 手頃な木を見つけ、そこに手をかけて登り始める。

 これで両手は塞がった。

 つまり剣に手を伸ばすことはできない、無防備な状態だ。

 敵が攻撃を仕掛けるなら今しかない。


「さぁ始めるぞ……『戦争』」


 ブォン、とロルフの右斜め後ろで小さな音が鳴る。

 それを合図にロルフは膝を折り曲げ、足裏を木の表面に当て、強く蹴り出し後方へと跳びはねる。


 乾いた発砲音が鼓膜を揺らす。


 ロルフが受け身を取りながら音の鳴った方向を見ると、そこには赤色の電気を纏った小さな『黒い渦』──ウドの能力であるワープゲートがあった。

 渦からは右腕が伸びており……そして手には拳銃が握られていた。


「やはりか」


 この暗がりに、鬱蒼とした林。

 自分は身を隠しながら『ワープゲート』と『拳銃』で一方的に攻撃を仕掛けられる条件下。

 環境、能力、武器……これだけ整っていれば誰が相手でも勝てると考えるのは当然だ。


 ウドの右腕は渦の中へと引っ込んでいき、やがて5秒経過する頃にはワープゲートは消えてなくなった。

 ロルフは瞬時に思考する。


 ワープゲートは俺の『右斜め後ろ』に出現した。

 死角からの攻撃を狙うなら本来は『真後ろ』に出すのが自然……現に、攻撃を予測できていた俺も真後ろを警戒していた。

 リタが捕獲された際、あのときも俺とツヴァイの追走に対しウドは『何度かに分けて』能力を使用していた。

 それは何故か?

 決まっている。自分の視界の範囲内にしかワープゲートを出現させられないからだ。

 では、どうして今回は俺の『右斜め後ろ』に出現させたのか。

 それは俺の真後ろは『俺の体』と『木』が邪魔をして見えなかったからだ。

 つまりあの時点で、ウドは俺の『前方向』にいたということ。


「方角くらいは割り出せるが……」


 この暗がり──能力発動時に放出される赤色の電気は嫌でも目立つはずだ。

 俺の前方向に潜んでいるにも関わらず、電気の光は見えなかった。

 これだけの木々が障害物として立ち塞がり、おそらくワープゲートを発生させる際に『手を何かで覆って』電気を隠しているのだ。

 方角がわかったところで何の手がかりも無しに見つけられるはずがない。

 では、拳銃の音で割り出すのはどうだ?

 発砲音すらワープゲートを通って、ウドの居場所からも音は漏れるだろう。

 しかしあれほどの激しい音が自分のすぐ近くでも鳴るのだ。

 遠く離れた位置で身を潜めているであろうウドの居場所を特定するなんて不可能だ。


 ロルフは目を細める。


「それなら打つ手は──」



 その頃、ロルフの位置から60mほど離れた木の上に身を潜めるウドは呟く。


「──打つ手はない。わかってるはずだ、ロルフ・ローレンス」


 ギフト『ワームホール』……ウドの能力は視界に映る景色に2つの『黒い渦』を生み出し、その空間を繋ぐワープゲートを生成する。

 渦のサイズは全形3mまでなら自在にコントロールできる。

 人間や動物を移動させることもできるし、このように『腕』だけを通す小さなサイズで生み出すこともできる。


「俺の能力と『拳銃』は相性が良すぎる」


 当然、ワープゲートはどちらも入り口としても出口としても機能する。しかしこうして腕しか通れないような小さなサイズにしておけば、ロルフがこちらへ移動することはできない。

 ゲートを通した腕は敵の前に晒されるが、そもそもゲートが発生している5秒間は『単発型の絶対防御』により傷つけられることはない。

 フッ、とウドは鼻を鳴らす。


「つまり……俺の居場所を特定しない限りはお前に勝ち目はない」


 そしてこの環境下で居場所を特定することなど不可能。

 電気の光が見えないよう、能力発動の際には上着で手を覆っている。抜かりはない。

 ウドは勝利を確信していた。

 しかし、一撃で仕留められなかったのは計算外だ。

 ワープゲート発生時には僅かに音が鳴るが、それでも容易く避けられるものではない。

 恐ろしいまでの反射速度か、あらかじめ攻撃を予測していたか……あるいはその両方。

 やはり『人間兵器』はダテじゃない。


 ウドはロルフの様子を伺う。

 立ち上がり、周囲を警戒しながら剣を抜いていた。


「さて……第2ラウンドといこうか」

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