襲撃作戦の前夜
世界法則、というものがある。
魔物や能力の発現によって否定されたエネルギー保存則に変わり、新たに生まれたこの世界の法則……いや、ルールと言い換えてもいい。
それは例えば、魔物に近代兵器は通用しないこと。
それは例えば、能力発動時の電気。
単発型のヘンテコは必ず紫色で、持続型のヘンテコは黄色。
ただしギフトは単発型であっても持続型であっても『赤色』だ。つまり、ギフトは見た目ではどちらの型の能力か判断できない。
例えば、地球全体は能力の影響を受けないこと。
仮に『物を壊す』という能力があっても、それは地球を壊せない。地球の特性や動きは能力の干渉の一切を拒絶してしまうのだ。ただし大地や植物などはその限りではない。
それ以外にも様々な世界法則がある。
「まだ覚え切れません……」
アインスから世界法則の説明を受けたフィアは頭を抱える。
「仕方ないよ。ゆっくり覚えていこう。とりあえずはさっき教えた『単発型のメリット』だけ覚えておけばいい」
さて、とアインスは帰ってきたツヴァイとドライに視線を向ける。
「なにか収穫はあった?」
「当然よ! ドライ先生がしっかり情報を持ってきてくれたわ!」
「……ツヴァイ、うるさいだけだった」
「あたしは用心棒みたいなものよ! アインス、エーデルブラウのメンバーの名前くらいは把握してるわよね?」
「ああ。ブラウ、ハンナ、ゲオルク、カールの4人だ」
「……真っ先に倒さなきゃいけないのはハンナ」
アインスはすぐに察する。
「ヒーラーか」
「……そう。『治す』って言ってた」
「想像以上の収穫だ」
フィアが2人の会話を遮る。
「あの、ヒーラーってなんですか?」
「いわゆる『治癒系能力』というやつだ。ギフトの中でもとくに重宝される能力で、冒険者ギルドに1人いるだけで討伐依頼の達成率が格段にあがる」
「な、なるほど。だから先に倒さなきゃいけないんですね」
「その通り。まさかギフトの手がかりを持ってきてくれるなんて……よくやってくれたな、ツヴァイ、ドライ」
ドライは満足げな表情を浮かべ、自分のリュックサックを指差す。
「……それだけじゃない。帰り道で色んな物を手に入れてきた」
「物?」
「……サンブルク、冒険者向けの産業が盛んみたい。とくに冒険服」
アインスもツヴァイもドライも、3人とも着ている服がボロボロだった。まだレイスがお金を稼いでくれるだけ、フィアの方が幾分かまともな身なりをしているかもしれない。
「服なんて買えるお金はなかったと思うけど」
「……その服を仕立てる『糸』を貰ってきた。サンブルクは魔物の皮膚から製糸する職人がいっぱいいるらしい」
「へぇ、そうなのか。も、貰ってきた?」
「……ツヴァイが町の人たちと仲良くなって」
「ああ……さすがツヴァイ」
ツヴァイは直情的な性格で、裏表がない。気は強いが優しく、不思議なカリスマがあり、彼女の周りにはいつも人が集まるのだ。
「……とても頑強な糸。いい仕立て屋さんに服を織ってもらえれば、これでわたしたちもオシャレマスター」
「そ、そうか。オシャレそんな興味ないけど」
「……ダメ。アインスもツヴァイも顔は良いのだから、服装も気をつかうべき」
「えーと……いい仕立て屋さんに出会えたらね」
逸れていく会話に、ツヴァイがコホンと咳払いする。
「そんなことより、あんたたちの方はどうなのよ? 実験とやらはうまくいったワケ?」
「ふふっ。ああ、きっと2人とも驚くと思うよ」
「それは何よりね。で、作戦は?」
「そうだね。作戦はあくまでも作戦……勝率を上げるだけのものに過ぎない。ギフトの正体がわからない以上はどうしても本番頼りになる。3人とも、覚悟はできてるね?」
3人は顔を見合わせて、静かに頷く。
その様子を見て、アインスは口を開く。
「──話そう。エーデルブラウ襲撃作戦」
翌朝、サンブルクの町は騒ぎになっていた。
町の中央地、そこにあったはずの高さ12mもの巨大な国王像がたった一晩にして、忽然と姿を消してしまったのだ──