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妨害

 ロルフとツヴァイは、敵を追いかけて林を抜け小道に出る。

 熊の速度は速い個体で時速50〜60km。今は人間を4人も乗せて走ることで速度は著しく落ちている。

 絶対に追いつけないという速度ではない。

 しかし先にセリアの森を抜け出されてしまえば、やつらはそこに乗用車を停めている。おそらく乗り込む前に他の乗用車のタイヤに穴くらいは空けれるだろう。

 そうなれば、もう追いつけない。

 勝負はこのセリアの森を抜け出すまでだ。

 ロルフは、背後のツヴァイを一瞥する。


 ……俺の速度についてきている。

 ツヴァイといったか、こいつの戦闘能力の高さには目を見張るものがある。

 あの銀髪のガキは俺たちの闘いに巻き込まれ、そして仲間を救出するためにツヴァイは俺たちの背を追っている。

 ヘンテコ保持者が得体の知れないギフト保持者を相手に。拳銃に、熊に、迷わず立ち向かっている。


「……チッ」


 ロルフはツヴァイに対して言う。


「あのガキは俺が救出する。お前はあいつらの元に戻れ」


 ツヴァイは叫ぶ。


「嫌よ! あんたなんか信用できるはずないでしょ!」

「足手まといだと言っている」

「それでも行くのよ! フィアが助けを待ってる!」


 そのときだった。

 ズシン、という音とともに地面が揺れる。

 そして樹木のへし折れる音。

 それは、この捕獲計画を練っていたヤンとウドですら予想していなかった出来事だ。

 誰もが虚をつかれる。

 ツヴァイが声を漏らす。


「う、嘘……」


 林の中から、体長10mを超える巨大な『ストーンリザード』が姿をあらわしたのだ。

 ヤンたちが走る小道の先で──赤い目をギョロリと動かし、こちらに殺意を向けている。


 ……魔物の群れには主がいる。

 主さえ倒せば、魔物は自然とその環境から姿を消す。

 しかし例外がある。

 これは非常に稀なケースであり、この場にいる冒険者たちは実際に目にするのは初めてのことだったが、元S級冒険者であるロルフは嫌というほど経験している。


 主は稀に『2体』存在することがあるのだ。


 そこでようやく気づく。

 あのとき、主を倒しても他の個体が去らなかった理由。

 まだこの討伐は終わってなかったのだ。


 ヤンが笑い声をあげる。


「ははは! 天まで俺たちの味方をする!」


 そしてウドに視線を向ける。


「ああ。わかっている、ヤン」


 熊は速度を落とさずストーンリザードへと突っ込んでいく。

 ウドは前方に向けて手をかざし、ギフトを発動させた。

 巨大な黒い渦があらわれ、そこにヤン、ウド、そしてリタとフィアを乗せた熊が吸い込まれていく。

 次の瞬間にはストーンリザードの背後──ロルフたちから見てストーンリザードの奥へと黒い渦があらわれ、そこからヤンたちを乗せた熊が出てくる。

 一切速度を落とさず、あっという間にストーンリザードの尻尾すら届かない安全圏までたどり着く。


「チィッ!」


 ロルフが舌打ちする。

 ウドの移動能力でストーンリザードの脅威を退けた。

 あの魔物は目の前の敵を優先的に攻撃する習性がある。

 つまり……今、ストーンリザードの標的は『ロルフ』と『ツヴァイ』だけだ。


 ツヴァイが唇を噛み、苦々しく呟く。


「クッ! よりによってこんなときに……!」


 ロルフは思考する。

 あれを回避して先に進むことは不可能ではない。

 しかしやつを仕留めなければ、あるいはこの先で他の個体が邪魔をしてくるかもしれない。

 仕留めるには時間を要する。その間にヤンたちには逃げられてしまうだろう。

 最適解は──俺1人がここに残りストーンリザードと交戦、そしてツヴァイがやつらを追うことだ。

 しかしヘンテコが1人でギフト保持者2人を相手取るのは難しい。ましてや一方は拳銃を所持している。

 つまり……この状況はもう詰みだ。


 ロルフが妥協策に思考を切り替えようとしたそのとき──


「くそっ……! あの装甲さえなければ倒せるのに!」


 ツヴァイの言葉に、ロルフは驚き目を見開く。

 ストーンリザードに向かって走りながら、背後を振り返る。


「……倒せるのか?」

「ハァ!?」

「装甲がなければ、お前はアイツを倒せるのかと聞いている」

「当たり前よっ!」


 ロルフは前方を向き直る。


「……いいだろう。同行を許可する」

「ハァ!? 何よっ、偉そうに!」


 もう間も無く、2人はストーンリザードの目の前へとたどり着く。


「魔物を瞬殺して、このままやつらを追いかけるぞ」

「だから、あの装甲が──」


 ツヴァイの言葉を遮るように、ロルフは言う。


「俺が装甲を破壊する。お前がトドメをさせ」


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